秋穂の謎 その②
風に吹かれて積乱雲
大海に投ずるは鱗雲
2
椿班の二人と別れたアクアたちは、再び車を発進させて、二代目鉄火斎が暮らす山に向かった。
道路の舗装が途切れるまで進み、茂みにワゴン車を停めると、そこからは獣道のような入り組んだ道を進み、鉄火斎の住居に向かう。
「こんなところに住んでいるのか?」
ココロがたかる藪蚊を払いのけながら言った。
「案外、野生人なんだな」
「悪いか?」
「いや、ボクも旅をしている身だから、共感が持てるだけだ」
「ああ、そう」
道を抜けると、開けた場所に、鉄火斎の住居があった。大昔の農村の家をそのまま引っ張り出してきたかのような、小さな平屋だ。
その隣に、煉瓦で建てられた工房があった。
一度家に入った鉄火斎は、囲炉裏に火を付けた。
「じゃあ、オレはこの【秋穂】を研いでくるから、お前らはゆっくりしてけよ。火の番は頼むぜ」
「はい、わかりました」
鉄火斎はそれだけ言い残すと、気怠そうに工房へと出ていった。
架陰とアクアはここに来るのは二度目なので、肩の力を抜いて、囲炉裏の前に腰を据えた。
「架陰、疲れているでしょ? 火は私が見ておくから、少し休みなさいよ」
「あ、はい、わかりました」
厚意に甘えて、架陰は座布団を引っ張ってくると、囲炉裏の前にゴロンと横になった。
目を閉じて、すぐに、こてんと眠り始める。
「うわ、寝た…」
ココロが架陰の顔を覗き込んで目を細めた。
「ココロちゃんも、寝ていいわよ」
「いや、だから、ココロちゃんって呼ぶなよ」
「ってか、あなた、架陰と一戦交えたみたいね」
アクアは興味で目を輝かせて、ココロに聞いた。
ココロは歯切れが悪く「あ、はい」と頷いた。
鉄火斎を追う際に、立ち塞がった架陰と刃を合わせたのだ。
「ねえ、うちの架陰はどうだった? 強かった?」
「全然」
ココロはへへんと笑って、首を横に振った。
「まあ、悪くない剣術だけど、ボクには及ばないね。実際、四撃喰らっただけて気絶してたし」
「へえ、架陰が負けたのか…」
自分の管轄の班の子が負けたというのに、アクアはにやっと笑って、傍で眠っている架陰の顔を見た。
(架陰が負けるってことは、この子、相当な手練れね)
心の中でそう思ってから、アクアはココロに聞いた。
「ねえ、剣術は何処で教えてもらったの?」
「あ、ああ…、それは、ボクの村だよ」
ココロはまたもや言いにくそうに頷くと、傍の壁に立てかけられた木刀を手に取った。
囲炉裏の前なので、動きは最小限に、でも、アクアに伝わるように動かす。
「ボクの村は…、昔から【未確認生物狩り】を生業としていたんだよ。昔は【妖怪狩り】みたいな名前だったけどね」
慣れた手つきで、木刀を回す。
「幼いうちから、木刀を握らされて、こうやって剣術を覚えるんだ」
「じゃあ、何かの流派ってこと?」
「そうだな、【心響流】って言うんだ」
「しんきょうりゅう?」
「対UМAとは言え、練習相手は人間だからな…、自然と【対人戦】に特化した流派だよ。強力な一撃と、流れるような速さで相手を翻弄して、一瞬で勝負を決めるために編みだされた、超高速抜刀の剣術だよ」
「じゃあ、架陰も、それにはめられてやられたってわけ?」
「まあ、そうだな」
ココロは渋い顔をして、架陰の顔を見た。
「この剣術は、初見殺しだからな。こいつも、僕の技に反応できていなかったよ」
一の技【一条】で、相手の体勢を崩す。
二の技【二条】で、相手の反撃を防ぐ。
三の技【三条】で、相手の防御を崩す。
四の技【死条都下】で、相手の息の根を止める。
これが、基本的な立ち回りだった。
「技は全部で十個ある。よく使うのは、一から四の技だな。それでもやりきれなかった場合に、五から十の技を使うようにしているんだ」
「なるほどね」
いまいち理解できなかったが、アクアは頷いた。
囲炉裏にくべられた薪が、パキッ! と音を立てて割れる。火花が散った。
頬を温める光を浴びながら、アクアはココロに、こんなことを提案していた。
「ねえ、あなた、【桜班】に入らない?」
その③に続く




