【第146話】 秋穂の謎 その①
夕闇鴉は突然に
朝汁ごくりと攫ってく
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「その刀は…、ボクの祖母の死体に突き刺さっていたものだよ。それが直接の死因ではないみたいだけど…、製作者には【鉄火斎】の名が刻まれていた…、だから、『鉄火斎に聞けば、あの村で何が起こったのかわかるかもしれない』って思ってね。こうやって旅を続けているんだ」
そう、早口で語ったココロは、鉄火斎の顔をじっと見つめた。
「それで、改めて聞くよ。この刀を打ったとされる、一代目鉄火斎について、何か知っていることはないか?」
「申し訳ないが、無い」
二代目鉄火斎は間髪入れずに答えた。
「オレの師匠は、オレが小さい頃に、突然姿を消してしまったんだ…。だから、あの時、師匠に何が起こったのか…、師匠とその刀を関係はわからない」
「そうか…」
ココロは偉く素直に頷いた。
「わかった」
腰の刀を優しく撫でる。
「振り出しだな。次は、その一代目鉄火斎という男に会わないといけなくなったよ」
「まあ、待て」
踵を返して立ち去ろうとするのを、二代目鉄火斎が引き留めた。
「その刀、かなり痛んでいるな」
「……」
「どうせ、まともに手入れをしてこなかったんだろう? どうだ? このオレが研いでやってもいいぜ」
「結構だ」
ココロはきっぱりと断った。
「まあ、待てよ。オレは、師匠の一番弟子だぜ? もし師匠に会いたいなら、師匠とつながりがあるオレと仲良くするのもアリだと思うんだが…」
歩き始めたココロの足がピタッととまった。
むっとした顔で振り返るココロ。
「くそが、断る理由が無い」
そう言うと、腰の刀を鞘ごと抜いて、鉄火斎に向かって投げた。
鉄火斎は刀を受け取ると、ニヤッと笑った。
「一日で研ぎ終わる」
「さっさとしろよ」
※
その後、ココロを含めた五人は、桜班総司令官のアクアに連絡を入れ、彼女の車で迎えに来てもらうことで、任務を終えた。
「あらあ、また変な子を拾ってきたわね」
アクアは、車に乗り込んできたココロを見るなり、驚嘆の声を上げた。
「その子が、UМA狩りをしていた子?」
「まあ、そうッスね」
黙りこくっているココロの代わりに、真子が答えた。
「アクア姐さん、申し訳ないッスけど…、ココロちゃんのことは、少しの間、本部に黙っててもらえないッスか?」
「うん? なんで?」
「そういう条件だからだよ」
ココロが口を開いた。
「ボクの目的は、一代目鉄火斎と話をすることだよ。彼の弟子である、二代目鉄火斎と行動を共にすれば、何かわかるかもしれないからね。仕方なく連行されてやる。ボクの望み通りにことが運べば、ボクはUМA狩りをしない。もし、裏切るものなら、ボクはこの場で大暴れして逃げ出す」
「うわあ、物騒ね」
アクアは車を発進させながら顔を顰めた。
「安心して頂戴。もとより、あなたを本部に差し出すつもりはないわ」
「じゃあ、なんで私たちに、捕獲任務を出したッスか?」
「放っておくわけにはいかないでしょ。だって、UМAハンターでもない人間が、UМAを狩りまくっているのよ?」
バックミラーを使って、後部座席のココロの顔を伺うアクア。
「結果的に、面白いことになってきたけどね…」
※
数時間に及ぶ運転の末、アクアたちは、管轄の町に戻ってきた。
椿班・本部となっている寮の前に車を停車させて扉を開いた。
「それじゃあ、また今度ッス!」
「架陰兄さん、お疲れ様です」
真子と八坂が、車からひょいっと飛び降りた。
寮の入り口の扉が開いて、鉄平が勢いよく飛び出してきた。
「かいんんんんんんッ!」
車に乗っている架陰を見つけるや否や、飼い主の帰宅を待ちわびていた犬のように走ってくる。
「久しぶりだなあ! 架陰! 会いたかったぜ!」
「あ、ああ、鉄平君、僕もだよ」
「任務、大丈夫か? 怪我してないか? オレの部下は、粗相しなかったか?」
「え、ええと」
八坂がスレンダーマンに操られた。
とは言えなかった。
架陰は苦笑を浮かべて、首を横に振った。
「大丈夫だよ。二人とも、すごくいい子だったから」
「おおお! そうか! さすが八坂と真子だぜ!」
鉄平と架陰の会話に、運転席のアクアが割り込んだ。
「鉄平、総司令官の味斗は?」
「ん? 味斗さん? さあ、昨日から帰ってきてないから」
「帰ってきてないの?」
アクアは眉間に皺を寄せた。
「あの馬鹿、『任務が終わったら報告会をするから、何処にも行くな』って言ってたのに」
「電話しようか? 多分、スマホ持っているだろうし」
「いや、いい。ありがとね」
鉄平の厚意を、アクアはやんわりと断った。
「四人とも、今日は疲れているだろうし、休んだ方がいいわ」
「そう、か」
アクアは再び、ワゴン車のエンジンを掛けた。
静かな音を立てて揺れ始める車体。
「それじゃあ、椿班の皆、また別の機会に」
「おう! じゃあな!」
「お疲れッス!」
「お疲れ様でした」
椿班の三人に手を振って、アクアの運転する車はゆっくりと動き始めた。
その②に続く




