【第144話】 鉄火斎と心 その①
子の幻影に問いただしても
父の返事は返ってこない
朝霧に望む
終末のひととき
1
架陰が気絶したのを確認した心響心は、一度刀を腰の鞘に納めた。
そして、彼らが逃げていった方向へと走り出した。
※
「はあ、はあ、はあ…」
二代目鉄火斎は、負傷して傷ついた真子と、気絶している八坂を抱えて走っていた。
刀鍛冶をしていると、自然と腕力は付く。二人の人間を運ぶことは無理ではなかったが、やはり、きついことに変わりはない。
「くそ…」
「て、鉄火斎くん…」
担がれた真子が、掠れるような声を発した。
「真子だったな! しゃべんな! てめえは、銃で撃ち抜かれたんだぞ!」
「く、来るッス…」
「はあ?」
来る?
その瞬間、二代目鉄火斎の後方から、誰かが近づいてくるのがわかった。
「っ!」
背筋に冷たいものが走る。
振り返ると、学ランを身に纏った、心響心がニヤッと笑ったままこちらに駆けて来ている。
「う、嘘だろ!」
彼が鉄火斎らに追いついたということは、つまり、引き付け役を買って出た架陰が敗北したということ。
「くそが!」
二代目鉄火斎は吐き捨てると、足に力を込めて加速した。
真子が揺られながら首を横に振った。
「無理ッス…、二人を抱えた状態じゃ…、追いつかれるッス…」
「でも! このままだと…!」
すると、真子はあることを二代目鉄火斎に伝えた。
「鉄火斎さん…、私の、スカートを捲ってくださいッス…」
「はあ?」
鉄火斎は今、真子の小さな身体を、右の脇に抱えている状態だった。丁度、真子の赤いスカートを穿いた尻が前方に突き出されている状態。
そのスカートを、彼女は「捲れ」と言ったのだ。
「てめ! こういう時になに言ってんだよ!」
「馬鹿ッスか? とにかく、捲ってください。パンツは見ないでくださいッス…」
「………」
真子に何か考えがあると踏んだ鉄火斎は、左の脇に抱えていた八坂を肩で担ぐと、自由になった左手で、真子のスカートを捲った。
すると、彼女の細い太ももに巻き付いたホルダーが姿を現した。
「これは…」
「そのホルダーの中に、煙玉が入っているッス…、使ってくださいッス…」
「よし来た!」
二代目鉄火斎は、真子の太ももに巻き付いたホルダーをボタンを外し、中に入った煙玉を取り出そうと、指を這わせた。
「ひゃんっ!」
「てめ! 変な声出すなよ!」
「いや、くすぐったいッスよ…」
何とか煙玉を取り出した鉄火斎は、振り向きざまに、迫る心響心に向かって投げつけた。
「喰らいな! 煙玉!」
「こんなもの!」
心響心は、刀を抜いて飛んできた煙玉を一刀両断した。
しかし、煙玉は切断された瞬間、一帯を白染め上げる煙を発した。
「なっ!」
思ったよりも多い煙の量に、心響心は狼狽える。
その間に、煙玉から発せられた煙は、心響心の周りを取り囲んで、彼の視界を奪い去った。
「やった! 成功!」
心響心が煙に包まれたのを見て、鉄火斎は小さくガッツポーズをして、また、二人を抱えたまま走り出す。
「あの、鉄火斎さん…、スカート戻してくださいッス…、パンツがスースーするッス…」
「おっとすまん!」
真子のスカートをもとに戻す。ちなみに、彼女の色は赤色だった。
(どんだけ赤色が好きなんだよ…、この班は…)
とにかく、危機は脱した。
後は、あの男から逃げて、この二人を安全圏で休ませるだけ…。
その時だった。
ヒュンッ!
と、空気を裂くような音が、走る二代目鉄火斎に近づいてくるのに気が付いた。
「はっ?」
二代目鉄火斎は、反射的に前のめりになる。
彼の頭上を、黄金色の刃をした刀が通り過ぎる。
その先の木の幹に突き刺さって、キインッ! と、鋭い金属音を立てた。
「なに?」
振り返る。
すぐそこまでに、心響心が迫っていた。
心響心は、鉄火斎の着物の襟首を掴むと、真子、八坂もろとも、地面に組み伏した。
「がっ!」
背中を強く打ち付けて、息が詰まる。
放り出された真子と八坂は、力なく湿気た地面を転がった。
「捕まえた!」
鉄火斎はの逃れようと手足をばたつかせたが、それも虚しく、心響心は、彼を地面に押さえつけて、関節を固めた。
「があっ!」
「さあ、たっぷりと話を聞かせてもらうからな! 鉄火斎!」
その②に続く




