名刀・秋穂 その②
一条
二条
三条
死条都下
2
突如、三人の前に現れた男。
身長は160センチほどで、細身の身体に、学ランを羽織っている。
地毛なのか、それとも染めているのか、焦げ茶の髪の毛がそよ風に揺れた。
猫のようなキリッとした目が、三人を見据える。ニヤッと笑った口からは、幼げな八重歯が顔を覗かせた。
その姿は、以前、真子と八坂が遭遇した【UМA狩り】と同じだった。
「さてと、ハンター狩りと行こうか」
男はそう言うと、腰に装備した刀に手を掛けた。
シュンッ!
と、空気を裂いて抜刀する。
その瞬間、すぐ隣にいた八坂の身体がぐらっと揺れた。
「八坂くん!」
八坂は糸が切れた人形のように、その場に倒れこんだ。
あの学ランの男が何かをしたということは明白だった。
「安心しなって、みねうちだから」
学ラン男はそう言うと、抜き身の刀を架陰に突きつけた。
雨上がりの稲穂のような、金色の刃。鍔には、芝の葉のような文様が刻まれている。
「とりあえず…、ボクの目的は…」
その瞬間、気絶した八坂の身に異変が起こった。
峰を打ち込まれて赤く腫れあがった首筋から、黒い煙のようなものが湧き立つ。
「あれは!」
「こいつは、スレンダーマンの魂みたいなもんだよ」
そう言うと、学ラン男は、煙に向かって刀を一閃する。
黄金の刃に切り裂かれた黒い煙は、シュンッ! とその形を歪め、まるで、刃に吸収されるようにして消え失せた。
「ふふふ…、大物ゲット…」
学ラン男は、刀の刃を眺めてほくそ笑んだ。
気配がしたと思い、目を向ければ、架陰が刀を構えて間を詰めていた。
「おっと!」
学ラン男はすぐにその場から離れた。
すぐ近くにあった木の枝の上に飛び移り、襲い掛かってきた架陰を見下ろす。
「なんだよ、急に襲うなよ」
「ごめん…」
架陰は刀を地面に突きつけたまま謝った。
「でも、僕たちの目的は、君を捕獲して、話を聞くことなんだ」
「話?」
学ラン男は、焦げ茶の髪の毛をかき上げて、ニヤッと笑った。
「ハンターがボクの話を? 笑わせるなよ」
「別に、笑わせるつもりなんてないんだけど…」
「とにかく、そう言うのは御免なんだ」
学ラン男は、枝から飛び降りて、架陰と対峙した。それから、倒れている八坂の方に目を向ける。
「あの男、もう大丈夫だよ。僕が意識を奪って、スレンダーマンを追い出したから」
「うん、それは感謝する…」
架陰は建前で謝った。
もし、あの時、真子の麻酔矢をこの男が弾いていなければ、あの時点で八坂の意識を奪うことができたのだ。
それを、わざわざ邪魔をしたということは、彼も厚意で八坂を助けたわけではないことくらい察しがついた。
「でも、それとこれとは話が別なんだ」
架陰は腰の刀に手を掛ける。
「任務なんだ。出会えて嬉しいよ。だから、僕は、君を捕獲する…」
「へえ、UМAみたいに言ってくれるね」
その瞬間、学ラン男が刀を一閃した。
架陰は状態をのけ反らせて刃を躱す。
「くっ!」
「おらよ、捕まえて見ろよ」
ギンッ!
と、架陰と学ラン男の刀がぶつかり合う。
ギリギリと鍔迫り合いをしながら、架陰は二代目鉄火斎に指示を出した。
「鉄火斎さんは! 八坂くんと真子ちゃんの保護を優先してくれ! ここは僕が食い止めます!」
「お、おうよ!」
二代目鉄火斎は困惑しながら頷くと、倒れている八坂と真子を抱え上げて、走り始めた。
三人は無事に逃げた。
一対一なら、心置きなく戦える。
「さて、本番と…」
さて、本番と行こうじゃないか。
そう言おうとした瞬間、学ラン男が架陰を強い力で押し切った。
ぐらっとバランスを崩す架陰。
(まずい! やられる!)
追撃に身構えた瞬間、学ラン男は、目をギンッ! 見開いたまま、架陰の横を通り過ぎて走り始めた。
「え…?」
突然、勝負を放り出された架陰は、再び動き始めるのに、数秒を要していた。
「お前! 何処に行くんだ!」
慌てて、足袋で地面を蹴り飛ばして走り始める。
学ラン男が走って向かった方向、それは、二代目鉄火斎らが逃げた方向だった。
「くそ!」
架陰は、魔影を使って加速すると、学ラン男の正面に回り込んだ。
「行かせないよ!」
「退けよ!」
学ラン男が刀を振り下ろす。
焦っているのだろうか? 大振りの一撃だった。
ギンッ!
と、刀を使って受け止める。
学ラン男は、目を獣のようにぎらつかせて、架陰に食いついてきた。
「退け! ボクは、あの鉄火斎という男に用があるんだ!」
「鉄火斎さんに?」
こいつ、何を言っているんだ?
その③に続く




