【第142話】 スレンダーマン その①
遊ぼ遊ぼと来る稚児に
僕は視線を合わせてほほ笑む
今日は帰ろう夕焼け鴉が鳴いている
遊ぼ遊ぼとまた明日
朝が来るまでゴム跳びを
あの世とこの世のゴム跳びを
1
「来ないでくださいッ!」
八坂が突然叫んだ。
その緊迫した言葉に、彼の体調不良を心配して近づいていた架陰はぴくっと止まった。
「八坂くん…?」
「ダメです、来たらダメです!」
八坂は、誰もいない茂みの方に向かって、そう必死に訴えかけていた。
八坂のただ事ではない様子に、真子も困惑する。
「八坂さん? どうしたッスか?」
「来るな。来たらダメだ!」
真子の言葉は、八坂には届いていない。
ずっと、虚空に向かって「来るな」と叫んでいる。
「まずい状況です! これは、かなりまずい!」
「だから、何が…」
「スレンダーマンの襲撃を受けました!」
「は…?」
スレンダーマン?
架陰の頭の上に「?」が浮かんだ。
「ちょっと、八坂くん、何を言って」
その瞬間、八坂が勢いよく振り返った。
彼の目を見た時、一同はぎょっとする。
八坂の眠たげな目が、ギンッ! と見開かれて、その中の眼球が、墨汁を流し込んだように黒く染まっていた。
真っ黒の、深淵のような目が三人を見る。
「八坂くん…?」
「架陰くん! 伏せてッス!」
真子が架陰の首根っこを掴んで、一気に引っ張った。
その瞬間、八坂が赤スーツの上着を上げて、ズボンのベルトと一緒に巻き付けてあったホルダーから、収納されていた【レボルバー式拳銃】を抜く。
ドンッ!
と、空間を裂くような爆発音と共に、八坂の手から鉄の弾丸が放たれる。
ヒュンッ!
と、弾丸は倒れこんだ架陰の頭上を通過して、背後の樹の幹に激突。
幹は粉々に砕け散った。
「八坂君?」
「逃げてください!」
八坂は真っ黒な眼球のまま、そう懇願した。
そして、銃の引き金を引く。
ドンッ!
と、銃口から火薬の白い煙を纏って、弾丸が発射された。
「くっ!」
架陰は腰の【名刀・赫夜】を抜いて、その弾丸を弾いた。
「なんだ…、何が起こっているんだよ!」
「架陰くん! 逃げるッスよ!」
真子が架陰の腕を引っ張った。
架陰は納得いかない気持ちを抱えながら、真子、そして二代目鉄火斎と共に走り始める。
二代目鉄火斎も、何が起こっているかわからないでいた。
「おい、馬鹿女! 何が起こっているんだ!」
「馬鹿女じゃないッス! 真子ッス!」
「真子! 何が起こっているんだ!」
「スレンダーマンッス!」
真子は走りながら、架陰と二代目鉄火斎に説明した。
「下級悪魔に分類される、UМAッスよ!」
「下級悪魔の、UМA…?」
下級悪魔。という言葉に、心当たる節があり、架陰は、彼の魂に取り憑いている【悪魔】に聞いていた。
(おい、悪魔! 聞こえているんだろ?)
(ナンダ?)
(スレンダーマンって、誰だ?)
(アア…)
架陰の頭の中に語り掛けてくる悪魔の声が、若干笑ったような気がした。
(懐カシイナ…、ソノ名前ヲ聞クノハ…)
(やっぱり知っているの?)
(トルニ足ラナイ…、雑魚悪魔ダ)
(雑魚…?)
(タダナ…)
真子の声と、悪魔の声が重なった。
「「厄介だ」」
次の瞬間、背後から銃が炸裂する音が聞こえた。
架陰の右肩を、弾丸が掠めて、彼の皮膚を裂いた。
「くっ!」
血が吹き出す。
大した痛みじゃない。構わず走る。
「真子ちゃん、そのスレンダーマンってUМAは…」
「はいッス! 人間に取り憑いて、その人を操る能力を持っているッス!」
「人間を、操るのか?」
「前回のカレン姐さんみたいに、本人の割に合わない力を引き出すことはできないッスけど、【本人の実力】相当の力なら難なく発動するッスよ!」
「それって!」
「はいッス! スレンダーマンは、八坂さんに取り憑いて、彼の【狙撃術】を奪い去りましたッス!」
さらに続けて、銃声が響き渡った。
「来るッ!」
架陰は走りながら身を反転させると、三人に迫る四発の弾丸を認識した。
もうスピードで飛んでくる弾丸。
「はあッ!」
刀で弾く。
しかし、架陰の実力で防げたのは、せいぜい二発だった。
残りの二発は、刃の横を抜けて、架陰の頬と首筋を掠めた。
「架陰くん!」
「大丈夫! 掠っただけだ!」
見ると、目を真っ黒に染めた八坂が「逃げてください」と呟きながらこちらに歩いてくるのがわかった。
「八坂くんから、スレンダーマンを引きはがさないと!」
その②に続く




