【第141話】 潜む陰 その①
玉蜀黍畑に駆けだして
麦わら帽子の夏颯
蝉はみんみん夕立雲
夜に見上げるアルタイル
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日が暮れるまで、四人は岩場の洞窟を拠点として、山の中を探索した。
しかし、UМA狩りどころか、UМAすら見つけることができなかった。
太陽は西に沈み、山は静寂と黒に染まる。
当初の予定通り、四人は洞窟に戻った。
「結局、何も見つかりませんでしたね」
「そうッスね」
狭い洞窟の中央に、サバイバルバッグに入っていたランタンを置く。洞窟の中が、白くぼんやりとした光に包まれた。
「では、夜が明けるまで、ここで休みましょう」
「じゃあ、僕が最初の見張りですね」
くじで「一」の数字を引いていた八坂は、率先して手を挙げると、ひょいっと洞窟の外に出た。
ライフルバックを片手に、岩の上に登ってどかっと腰を下ろす。
真子が洞窟から顔を出して八坂に声を掛けた。
「八坂さん、異変があったらすぐに知らせるッスよ!」
「わかってるよ。お前はさっさと寝ろ」
二時間後に、次の者と後退。
それまでは、この岩場でUМAの襲撃に備えるだけだ。
狙撃手である八坂は、じっとすることには慣れていた。
この見張り当番も、いつもの任務と変わらない。
「さて、やりますかね」
八坂は赤スーツもポケットから固形食糧を取り出すと、カリッと齧った。
※
一時間が経過した頃だった。
相変わらず、八坂は岩場の上にじっと腰を掛けて、暗闇を見つめていた。
「……」
意識を下の洞窟に持っていく。
洞窟の中の三人に動く様子は無い。日中、散々歩き回ったらから疲れが出たのだろう。
「あと一時間で後退か…」
異常は無し。
このまま、あと一時間を耐えて、次の二代目鉄火斎に交代するだけ。
そう思うと、八坂にも疲労が込み上げ、思わず欠伸が出ていた。
「……」
いけないいけない。
と、自分の頬をぴしゃっと叩く。
休むのは、あと一時間見張りをしてからだ。
「………」
その時だった。
岩場の向こうに見える、真っ黒な茂みの奥で、何かが動く気配がした。
「っ!」
眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
八坂は傍にあったらライフルバックに手を伸ばすと、ファスナーを引いてライフルを取り出した。
さっと構えて、スコープを覗き込む。
八坂のライフルは【NIGHT・BREIKER】。その名の通り、夜にその真価を発揮する武器だ。
暗視スコープから覗く茂が、白黒写真のように見えた。
ガサガサと、何かが茂みの奥で揺れる。
「………」
それを見ながら、八坂は唾を飲み込んだ。
UМAだろうか? UМAに違いない。
あくまで、我々の目的は「UМA狩り」の調査だ。UМA退治は二の次。
もし、茂みの奥に潜む化物が、八坂に向かって襲い掛かってくるのなら、引き金を引くまで。
逆に、何もしてこないならそれまでだった。
「………」
来るなら来てみろ。
と、ライフルのトリガーに指を掛ける。
「……」
ガサガサと茂みが揺れる。
「…………」
ガサガサ、ガサガサ…。
「………………」
ガサガサ…、ガサガサ、ガサガサガサガサ…。
「……………………」
そして、揺れが止まった。
「……止まった?」
八坂は銃口をそっと下ろした。
それから、十分ほど待ってみたが茂みが揺れることは無かった。
それどころか、そこに感じていた「気配」がきれいさっぱりに消えていた。
「またか…」
八坂はキツネにつままれたような感覚を覚える。
また、気配が消えた。
昼間と同じだった。
茂みの中に、「何か」の気配を感じたかと思えば、それは気が付くと消えている。
「そういう能力なのか…?」
それからあと十分、茂みを睨んでみたが、やはり、何かが動くような気配はしなかった。
そして、交代の時間がやってきた。
八坂は岩の上から飛び降りると、洞窟中に入った。
三人は丸くなって眠っていて、ランタンが光る洞窟の中は喉かな空気が満ちていた。
「鉄火斎さん、起きてください」
幸せそうな顔をして眠っている鉄火斎を揺り起こす。寝起きは良いようで、彼は「お、順番か」と頷いて身体を起こした。
「ご苦労だったな」
「いえ…」
「じゃあ、後の二時間はオレに任せときな」
そう言って洞窟の外へと出ていく鉄火斎。
彼の背中を見送った後、八坂も冷たい地面の上に横になり、目を閉じた。
その②に続く




