魔影・伍式 その②
悪魔は人間に焦がれ
翼を斬り落とした
人間は悪魔に焦がれ
肩の骨を抉りだした
2
斬撃と衝撃波が空中で衝突する。
ボンッ!
と、爆発するような轟音が、半径百メートルの空気を震わせた。
「相殺したか…!」
架陰は攻撃の手を緩めない。
刀に魔影を纏わせて、斬撃を放つ体勢に入った。
すかさず、着地した鬼丸が、地面に向かって金棒を叩きつけた。
土が舞い上がり、鬼丸の姿を覆い隠す。
「目くらましか!」
架陰は慌てることなく、息を吸い込んで呼吸を整えた。
身体中から触手でも生やすように、意識を体外世界に持っていく。
土煙で姿を視認できなくとも、そこに必ず鬼丸はいる。
呼吸、足音、土煙の流れ。
五感を使って認識できる全ての事象を持って、鬼丸の居場所を探知した。
そして、発見する。
「そこか!」
架陰は振り向きざまに、刀を振った。
しかし、刃は空を切った。
「ッ! 読み違えた?」
「ここだ」
背後から、鬼丸の声。
ギンッ!
咄嗟に刃で防いだが、架陰は鬼丸の金棒によって吹き飛ばされていた。
「くそ! 踏ん張れない!」
架陰は空中で身を捩って体勢を整えると、魔影を脚に集中した。
一瞬のタイミングで、魔影から衝撃波を放ち、勢いを相殺する。
カツン!
と、乾いた音を立てて地面に着地。
顔を上げると、そこには鬼丸がいた。
「く! 速い!」
鬼丸が金棒を振り下ろす。
こちらも、刃で防ぐ。
刃を合わせながら、鬼丸は架陰に言った。
「楽しいか?」
「楽しいだと?」
架陰は鬼丸を睨むと、不意を突いて、鬼丸の腹に魔影を纏わせた蹴りを叩き込んだ。
ボンッ!
と、鬼丸が吹き飛ぶ。
ビルの壁に激突した鬼丸に、架陰は叫んだ。
「楽しいに決まってんだろ!」
そうだ。
楽しい。
刃を交えれば交えるほど、骨が砕ければ砕けるほど、肉が抉れれば抉れるほど、自身の「生」を実感する。
朝起きてご飯を食べるだけでは生ぬるい。いつ死んでもおかしくないような、命のやり取りを目の当たりにして、架陰の精神は従来の獣のような感覚を取り戻し始めていた。
「ひゃははは…」
にちゃっと笑った口から、血が流れ出る。内臓が傷つき、気道を通って喉から逆流しているのだ。
内臓が潰れようが、骨が折れようが関係無い。
今は、この男を倒したい。
「それだけだ…!」
架陰の答えに、鬼丸もまた、ふっと笑った。
「私も、この戦いを楽しんでいる」
「はっははは…、殺してやる」
二人同時に、地面を蹴り飛ばした。
猛スピードでお互いの距離を詰めて、互いに握った武器を振う。
ギンッ!
甲高く響き渡る金属音。
架陰は身を反転させて勢いを付けると、さらにもう一閃した。
迫る黒い刃を、鬼丸は金棒の柄で受けると、身を引いて威力を受け流す。
その上で、架陰の脚を払いのけ、体勢を崩させた。
架陰は地面に手を着くと、腕に纏わせた魔影の反動を使って一気に身体を起こす。
立ち上がった拍子に、鬼丸の顔面に裏拳を叩き込む。
バキッ! という感触と共に、鬼丸の顔がのけ反った。
「もう一発!」
「させんよ」
ヒュンッ!
と空を裂く音がしたと思えば、死角から金棒が飛んできて、架陰の右顎の辺りに直撃した。
「こふっ!」
直撃した拍子に、脳が揺れた。
天を仰いでのけ反った瞬間、視界の隅に白い火花が弾ける。
(ああ、いい!)
気を失う寸前の、脳が震えるこの感覚。
「最高だ!」
架陰は切れかけた意識を繋ぎとめると、鬼丸に拳を打ち込んだ。
ボンッ!
魔影を纏わせた一撃。
鬼丸は「くっ!」と呻き声を上げて、数センチ後ずさった。
「これで気を失わないとは…」
「それはこっちのセリフだよ」
架陰は刀を握っていない方の左手の親指をバキリと鳴らした。さらに、人差し指、中指、薬指に掛けて、バキリ、バキリ、バキリと鳴らす。
「楽しいなあ!」
そう嬉々として言った瞬間、架陰の口から血が吹き出した。
ボタボタと地面に滴った血からは、つんとした腸が臭いがこびり付いていた。
その様子を見て、鬼丸は神妙じゃ顔つきになった。
「限界が近いか…」
「全然」
架陰は首を横に振って、口元の血を拭った。
「そろそろ、決着といこうか」
その③に続く
作者「次で決着させたい」




