神のみぞ知る その③
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「私は、城之内カレン…」
カレンはぼんやりとそう言うと、踏みつけにしている花蓮に向かって腕を振り下ろした。
空気中に、極細の茨が三本出現する。
槍のように尖ったそれは、彼女の腕の動きに合わせて花蓮の背中に向かって伸び、突き刺さった。
「あああああッッ!」
悲痛な叫び声を上げる花蓮。
その声を胃に返さず、カレンはさらに茨を彼女の体内にねじ込んだ。
ぐちゅり、ぐちゅり。
肉が抉れて、血が流れ出る。
「ああ、ああ…、ああ、ああ…」
ぐりぐり、ぐりぐりと茨が肉を食い破る。その度に、彼女の脳天で火花が弾け、視界が白に染まった。
一思いに貫かれた架陰や、西原とは違い、少しずつ、少しずつ苦しめられる痛みだった。
少しずつ肉を抉り、少しずつ出血し、少しずつ意識を奪っていく。
花蓮は歯を食いしばり、その痛みに耐えた。
(これは、当然の報いだから…!)
当然の報い。
自分には双子の妹が存在し、それが、選別に掛けられて、親に見捨てられたと知りながら、自分は執事と共に、屋根のある場所でのうのうと生きていたことの報いだ。
彼女がどれだけ辛い目に遭ってきたなんて知らないで…、自分だけ、安泰した暮らしを送ってきたことへの、天罰だ。
そう自分に言い聞かせて、この痛みを正当化した。
「紅愛ちゃん…、ごめんね…」
「私は城之内カレン、私は城之内カレン…」
その一点張り。
親に捨てられたことの悲しみを忘れるため、自己防衛本能が彼女の頭を狂わせたのだ。自分のことを、報われている「城之内花蓮」と思い込むようになったのだ。
「私は城之内カレン、私は、城之内カレン…、私は城之内カレン…」
「くっ!」
いよいよ、身体の力が抜けてきた。
顔を上げて前を見ると、血まみれの架陰が倒れている。その先には、血まみれの西原。
どうにか、この二人は逃がしてやりたい。
だが、身体を茨で貫かれている花蓮にできることは皆無だった。
「…、っもう、おわりだ…」
花蓮は諦めた。
ここで自分は殺される。
自分が裏切った、双子の妹に殺される。
諦めて、目を閉じる。
その時だった。
「明鳥黒破斬!」
突如、女の声が辺り一帯に響いた。
ズドドドドッ! と、空気を裂きながら、何か大量の物体がこちらに近づいてくる。
本能的に頭を下げる花蓮。
次の瞬間には、その大量の何かが彼女の頭上を通過して、上に立つカレンを吹き飛ばしていた。
「え…」
はっとして顔を上げる。
道路の向こう側から、誰かが走ってくる。
一人、二人、三人、四人。
一人は架陰と同じ、薄紅の着物を纏った少女。後の三人は、鮮血のような赤いスーツを身に纏った男二人と、女一人だった。
「あれは…、桜班と、椿班!」
「大丈夫?」
桜班の着物を纏った少女…、雨宮クロナが刀を鞘に納めながら、血まみれの花蓮に近づいた。
花蓮は身体中に穴が空いていたが、なんとか「私は大丈夫です」と絞り出す。それから、前方に倒れている架陰と、西原の方を見た。
「ですが、あの二人が…!」
「うん、大丈夫」
クロナは力強く頷いた。
「敵さんから、いい物奪ってきたから!」
その瞬間、頭上から声が聞こえた。
「花蓮さま!」
「花蓮さま!」
聞き覚えのある声。
見上げれば、屋上から、薔薇班の【桐谷】と、【斎藤】がまんざらでもない様子でこちらを見下ろしていた。
彼らが抱えるように持っていたのが、悪魔の堕彗子の【神谷】だった。
「あれは…【太歳】の能力者…!」
「そうよ。さっき合流したときに、半殺しにして連れてきたの」
敵だが、神谷の能力は【太歳】。
自分の身体で生命エネルギーを生成することができ、それを怪我をした者に注入することで、傷を回復させることができるのだ。
クロナは背中に翼を生やして飛び立つと、屋上で、半殺しにされて身動きが取れなくなっている神谷を回収。
そのまま地上に降り立った。
神谷は能力を発動したまま気を失っているので、足の指先から、白い触手が生えていた。そこから、薄明るい光が液体のようになって流れ出している。
ここに来る前に神谷と交戦した花蓮だからこそわかった。
「これを、架陰さまや、西原に?」
「もちろん」
クロナは力強く頷くと、神谷の足の触手から洩れ出る光を指で掬った。それを、腹に穴を開けて気を失っている架陰の傷に塗り込む。
途端に、架陰の身体が淡く発光して、傷が塞がっていった。
「よし、ちゃんと効果があるみたいね」
クロナは残りの生命エネルギーの光を、花蓮、西原、そして、路地裏に倒れていた響也に分け与えて、その傷を癒した。
その場にいる者が回復したのを見届けると、「よし!」と、神谷を路肩に放り出す。
「さて、全員が揃ったところで、本番と行こうか」
前方を見ると、カレンが道路の上にあお向けて倒れていた。
第128話に続く
捕捉
悪魔の堕彗児の『神谷』の能力は【太歳】です。自分の体内で生成したエネルギーを他者に与えて、傷を癒すことができます。それに目を付けた薔薇班に半殺しにされて、この場所へと連れてこられたようですね。当然、残りの悪魔の堕彗児たちも制圧しています。




