第17話 黒い斬撃 その③
白い世界にさよならをする
黒い世界の迎えを待つ
3
「う・・・」
揺れを感じた架陰は、重い瞼をを開けた。
「あ、目が覚めた?」
クロナの顔がすぐ横にあった。どうやらおぶられているらしい。
覚醒早々、架陰はもぞもぞと動いた。
「すみません。降ります」
「いや、いいわよ。もうそろそろ着くし」
「本当にすみません・・・」
女子に背負われているという恥ずかしさに苛まれる。
左を見ると、カレンがいた。彼女の背中にも、美桜が背負われている。
架陰は表情を明るくした。
「あ、美桜さん、無事だったんですね!」
「は、はい・・・」
架陰同様に、おぶられていることが恥ずかしいのか、美桜は頬を赤く染めた。
クロナが小さく舌打ちをした。気を失っている架陰をおぶることは楽だったが、目を覚ますと、動き回るおかげで、クロナの背中からずり落ちそうになる。
「あんた、じっとしててよ」
「あ、すみません」
こいつはすみませんしか言えないのか。
謝ってばっかりの架陰に、また舌打ちをする。だが、今回の任務の功労者は、明らかに架陰だった。
「あんたが、吸血樹を倒したのよね」
最後に吸血樹に止めを刺した事だけは褒めておく。
「よくやったわ」
「いや、それほどでも・・・」
声だけだと分からないが、耳元で囁く架陰の口調は、明らかに照れていた。
「あんたのおかげで、多分。私たちの班は、【A】ランクに昇進よ」
「おお、Cからのスピード出世ですね!」
架陰は一瞬喜んだが、直ぐに脳裏にあの地獄のような報告書の山が浮かんできた。
「・・・」
やっぱり、あれは自分が書かなければならないのか。
急にクロナの背中にしがみついてじっとする架陰に、クロナが不思議そうな顔をした。
「やけに大人しくなったわね」
「いや、いいんです・・・」
「は?」
成田高校に近づいた時、今まで黙っていたカレンが口を開いた。
「そういえばぁ架陰くん、能力に目覚めたわねぇ」
それを聞いて、クロナも思い出したように「ああ・・・」と言った。
「確かに、あんた、能力に覚醒したわね」
「あれはどんな能力なのぉ?」
クロナとカレン、二人の好奇心に満ちた視線を向けられる。
架陰は口ごもった。こういう時は、どう説明すればいいのだろうか。まあ、隠す必要も無いし、隠すことも出来ない。
「【魔影】って言います」
「ま、え、い?」
架陰は能力の説明を始めた。
「はい。自分の血を触媒とすると、煙のような、霧のような、漆黒のオーラが発生するんですよ」
あの時の光景を思い出して、クロナが頷いた。
「確かに、発生してたわね」
「あの物質を【魔影】と言うんですけど、魔影は、自分のイメージで自由自在に姿形を変形することができます」
「だからぁ、架陰くんの刀に纒わりつかせることができてたのねぇ」
「そうですね。魔影は、イメージが強ければ強いほど、威力を発揮するそうです」
そこまで言って、架陰は「しまった」と思った。「するそうです」なんて言葉、いかにも、誰かから聞いたような言い方だ。
実際にあの男が言っていたわけだが、あまり、彼の存在を二人に教える気にはなれなかった。
幸い、二人は架陰の発言に疑問をふっかけて来るようなことはしなかった。
安心して、架陰は話を続ける。
「ですから、魔影を纏わせた刀・・・、魔影刀は、『刃』という特性が付与されたので、あのように、吸血樹を斬ることができたんです」
カレンが手を叩かず、「すごいわぁ!」と架陰を褒め讃えた。
「素晴らしいわぁ。10年ぶりの能力者よぉ!」
(10年ぶり? そうか・・・、アクアさんの言っていた話によると、能力者は10年間生まれていないんだな・・・)
これは少しまずいことだと思った。
10年もの間、能力者が生まれていなかった世界だ。それなのに、突然生まれた能力者。奇妙かつ、奇跡にも近い現象だということくらい想像がつく。
(・・・、すみません・・・)
架陰は心の中であの男に謝った。当然、返事は帰ってこない。やはり、彼が夢の中に現れるのは何かしらのきっかけが必要になるようだ。
架陰にこの【魔影】という能力の使い方を教えたあの男は、あることを注意点として言っていた。
(僕の存在は、誰にも言ってはいけないよ。いずれ、君を利用しようとする人が現れるからね・・・。特に、あの、【アクア】って人にはね・・・)
能力に目覚めて、無事吸血樹を倒すことが出来たはいいものの、謎が深まった。
まあいい。今は、吸血樹を倒したことだけを喜ぼう。
架陰はふっと力を抜いて、クロナの肩に顔を埋めた。
「なに、気持ち悪い」
「あ、すみません」
ついリラックスしてしまった。
4
「ったく、あいつら・・・」
響也は吸血樹の死体の横で、死体処理班である平泉の到着を待っていた。
「私だって、脚を肉離れしてるのに・・・」
早く帰ってエナジードリンクを飲みたい。そう思いながら、The Scytheを杖代わりに歩き回る。
戦闘時に切断された触手も研究対象だ。全て集めなければならない。動ける範囲で回収していく。
「くそ、あいつ、どんだけ切断したんだよ・・・」
吸血樹の触手の一部は、成美が殺されていた公園から、ここまで伸びていた。ヘンデルとグレーテルの童話を思い出す。
フラフラしながら触手を拾っていると、後方から声がした。
「あああ!!!」
女子の声だ。
響也は舌打ちをして振り返る。やはり路地ということもあって、一般人が通りかかったのだろう。
案の定、見知らぬ女子が、吸血樹の死体を見つけて、驚きの声をあげていた。
(・・・、ん? あの格好は・・・)
身長150センチ位の低身長な女子だ。一歩間違えれば、小学生に見られてもおかしくない。だが、そうはさせないのが、彼女の、鮮血のように赤いスーツだった。
(赤い、スーツ?)
赤スーツの女子は、響也に気づく様子もなく、吸血樹の死体の周りを歩き回った。
「やばっ! これは鉄平さんに報告ね!!」
そして、響也に気付かぬまま、走り去っていった。
「・・・・・・、あれは・・・」
響也は遠ざかっていく赤い背中をじっと見ていた。嫌な予感が胸の中に湧き上がる。
「くそ、厄介なことになりそうだな・・・」
吸血樹編【完結】
第18話に続く
架陰「どうして、桜班の戦闘服は【着物】なんですか?」
響也「アクアさんがデザインしたんだよ。外国人って、和風が好きな所あるだろ?」
架陰「ああ、納得です。旅行地にお寿司のキーホルダー置いてるだけで売れますもんね!」
響也「日本刀型の雨傘も売れるしな。まあ、私の場合、旅行に行ったらまずはエナジードリンクを見るが・・・」
架陰「海外のエナジードリンクって、やばそうだな」
響也「やばいぞ。初めて飲んだ時は地獄を見た」
架陰「・・・・・・」
響也「話が逸れたな。戦闘服の話だっけ?」
架陰「もう終わったものかと」
響也「戦闘服は、着物型以外にも、多くの種類がある」
架陰「例えば?」
響也「スーツとかスーツとかスーツとか」
架陰「全部スーツじゃないですか」
響也「次回、第18話『椿班登場!』」
架陰「お楽しみに・・・」




