愛しき我が子へ その③
愛しき神々へ
麻布で縫った反旗を見てください
3
「あなたは強い。私は弱い。ですが、頭なら私の方が上だったようですね.......」
「っ!?」
その瞬間、場の空気が張り詰めた。
(何か来るな.......)
鬼丸は刀を握りしめ、きたる衝撃に身構えると共に、部屋の隅に横たえた唐草、復活しては何度も茨に吹き飛ばされる夜行を交互に見やった。
(まずは.......、あいつらの避難が優先か?)
「そうはさせませんよ?」
またしても、鬼丸の思考を読んだ悪魔が、ほくそ笑むような声が頭に響いた。
「既に蜜月ですから.......」
城之内カレンの腕がすっと上がる。
ただ腕をあげる。単純明快なその動作にさえ、全身を射すくめるような殺意が混じり、四方八方に飛び散っていた。
「【牢獄の薔薇】」
空間から、鋭利な棘を携えた、黒い茨が飛び出す。
(またか!!)
鬼丸は足に力を込めて、回避の体勢に入る。
だが、茨は鬼丸の半歩先を掠めた。
(私を、狙わなかった.......?)
次々と、四方八方、ありとあらゆる場所から茨が飛び出し、ぴんと張り詰めながら、その棘を渡していく。
(これは.......)
「もう遅い.......」
悪魔がニヤリと笑う。
まるで、スパイ映画に観る、レーザーセンサーのように、鬼丸を囲む空間に、黒茨が張り巡らされた。
(なるほど.......、こうして、動きを封じる気か.......)
どうせ、少しでも触れれば皮膚が裂ける。
だが、攻撃を回避するためには動かなければならない。
これだけの物量を使って自分の身の回りを取り囲まれたら、流石の鬼丸でも苦戦を強いられることになった。
(動きが、取れないか.......)
だが、問題は無い。
彼は、一度刀を腰の鞘に収めると、柄を掴み、腰を落として、脚に力を集中させた。
「悪魔よ、残念だが.......、貴様の策略とやらも全て、斬り裂かせてもらう」
斬ればいい話だった。
鬼丸の挑戦的な言葉を聞いて、にいっと笑う城之内カレン。
構わず、鬼丸は斬撃を放った。
なんてことはなく、張り巡らされた茨は、その一撃のみでほとんどが切り裂かれ、半壊した。
「とんだ肩透かしだな........」
鬼丸はそのままの勢いで、身を反転させて、追撃の斬撃を放った。
城之内カレン、いや、彼女を操る悪魔は対応が出来ない。
斬撃は彼女の右肩を掠めた。
肉が裂け、血が吹き出す。
(やったな........)
腕の腱を切断されたようで、腕ががくりと落ちた。
城之内カレンが身動きを取れなくなっている間に、鬼丸は走ると、部屋の隅に横たえた唐草を抱き抱えた。
「一度引くぞ........」
「鬼丸さん、なんで........?」
「あの女、少し妙だ........」
夜行はどうでもよかった。あいつは、何度攻撃を受けたって再生する。今は、唐草の命の保護が最優先。
鬼丸は床を蹴って飛び上がると、天井に空いた小さな穴から、外へ脱出した。
穴から出ると、そこは地下通路だった。
(とりあえず........、唐草を安全な場所に........)
そう考えていた鬼丸は、外から誰かが近づいてくることに気がついた。
「........」
鬼丸は気配を消すと、人の気配がする反対方向に跳んだ。
一度、外に出て、すぐそこにあった自販機の影に唐草を横たえる。
「ここで待っていろ」
そう言い残し、再び地下通路へと戻った。
階段を降りきった瞬間、鬼丸はある異変に気がつく。
「これは........!!」
城之内カレンの発した茨が、この地下通路まで張り巡らされていたのだ。
奥を見れば、鈴白響也が、その茨に触れて負傷し、困惑している姿があった。
この際、鈴白響也の存在はどうでもいい。
(この能力........、どれだけ射程距離が広いんだ........!?)
その時初めて、鬼丸の肌がざわりとした。
ため息をつき、腰の刀の感触を確かめる。
(我々は少し、悪魔の存在を甘く見ていたようだな........)
第125話に続く




