第17話 黒い斬撃 その②
黒闇を進んでいく
薄明の刃
2
「行くぞ! 魔影刀!!」
架陰は刀を構えて、吸血樹の正面へと突っ込んで行く。
吸血樹は鎌状の触手を伸ばして、それを阻もうとする。
しかし、カレンとクロナの完璧な援護で、架陰に指一本触れられない。
「道は開けたわよ!!」
「任せたわぁ! 架陰くん!!」
二人の激励を背に、架陰の刀を握る力が強くなる。
夢の中の男が笑った。
(いいね、やっぱり君の事大好きだよ)
彼の正体は何者なのか。
彼の目的は何なのか。
まだ分からないことだらけだけど、彼は与えてくれた。前に進んでいく力を。
彼のことを、自分のことを、もっと知りたいから、架陰は戦う。UMAの蔓延るこの世界で、進み続ける。
一つ一つ悩んで、一つ一つ丁寧に、一つ一つ自分の選んだ道を、切り開いていくのだ。
(さあ、振り下ろしな。君の刃は、吸血樹の命に届く)
「わかってますよ!!」
全く、勝手に人の中に住み着いて、気持ち悪いったらありゃしない。
だが、それが面白いじゃないか。
「うおおおおぉ!!!」
架陰は魔影刀を振り上げた。
もっと知りたいんだ。貴方のことを。
ひとりじゃないことが、嬉しいんだ。
あの日、あの時、あの場所で鬼蜘蛛に襲われ、クロナさんに出会った時から、貴方の力を借りてUMAと戦えることが、定められていた運命であるとしか、思えないんだ。
「はあっ!!」
刀を振り下ろす。
その瞬間、黒い閃光が走り、吸血樹を穿った。
ドンッ!!! と地面が唸り、砂埃が立ち込める。
吸血樹は真っ二つになり、その断面から、吸血樹が今まで奪ってきた人の体液が、噴水のように吹き出した。
「はあ、はあ、はあ・・・」
降り注ぐ血の雨が、血霞となって辺りに立ち込める。その中に、架陰は肩で息をしながら立っていた。
「はあ、はあ・・・」
もう、腕が上がらない。
「はあ、はあ、はあ・・・」
手の中から、刀が滑り落ちて、ひび割れたコンクリートの上に転がった。
力強く握りしめていたせいで、架陰の手のひらの皮はずるりと剥け、血が滴っていた。
吸血樹を両断した、黒い斬撃は、しばらく断面で火花のようにバチバチと音を立てていたが、血霞と共に消え失せた。
それと同時に、架陰の赤い眼球が、元の健康的な白色に戻った。
「はぁはぁ・・・、はあ・・・」
前に、進んでいくのだ。
例えどんな障害が道を阻もうとも、この手で、この刀で、切り開いていくのだ。
「これが・・・」
これが、自分の、戦う理由。
集中力が切れた架陰は、ガクッとその場に膝から崩れ落ち、血溜まりに倒れ込んだ。
「あ! 架陰!!」
バシャンと血が跳ね、架陰の着物全体が赤黒く染まった。
慌てて駆け寄ったクロナが、架陰を抱え起こした。
「もー、しっかりしてよー」
架陰は反応を見せない。気絶したようだ。
辺りを沈黙が覆う。もう、地面から触手が飛び出すことはない。襲ってくる化け物もいない。
真っ二つに切断され、全身の血液を流出させて干からびる吸血樹の死体があるだけだった。
クロナは背中に架陰をおぶると、恐る恐る死体に近づいた。横に響也が並んだ。
「本当に・・・、死んだの?」
「みたいだな・・・」
響也が、The Scytheでコツコツと吸血樹を叩くが、吸血樹が動き出す様子はない。
カレンもやってきた。
「やったわねぇ!」
民家の屋根の上から、今までの戦いを見守っていた美桜が顔を出した。
「やったんですか?」
「ああ、やった・・・」
それを聞いた美桜は、「良かった・・・」と安堵の息を吐き、その場で脱力した。これでようやく、友人の仇を取ることが出来た。
そんな美桜の様子を見て、響也は「ふっ」と笑った。架陰と美桜を交互に見る。
「あの女子の命を、こいつが守ったんだな・・・」
その瞬間、響也の脚に激痛が走り、その場に尻もちをついた。
「えっ!? 響也さん!?」
「ちっ、六の技は一日一回の大技だからな、久しぶりに使ったから、肉離れをした」
The Scytheを杖代わりして、何とか立ち上がる。
「おぶろうかぁ?」
カレンが心配して言うが、響也は首を横に振った。
「いや、いい。自分で歩ける。カレン、お前は美桜を保護しろ」
響也に言われると、カレンは「はーい」と可愛らしい敬礼をして、地面を蹴った。
一度の跳躍で、美桜いる屋根に舞い降りる。
「さあ、美桜ぉさん。帰りましょぉ!」
美桜は化け物じみた動きをするカレンに、若干後ずさった。
「は、はい・・・」
どうせなら、架陰と一緒に帰りたかったと思う美桜だったが、彼は気絶して、黒髪の少女に背負われているのだから仕方がない。
「しっかり捕まっててねぇ」
一人では屋根を降りれないので、カレンの背中に摑まる。
カレンはふわりと真下の地面に飛び降りた。
「全員いるわねぇ」
「ああ、いる」
響也がThe Scytheに体重をかけたまま頷いた。
「だが、全員で帰る訳にはいかないぞ。死体処理班を呼ぶ必要があるからな」
「困ったわねぇ。私は、美桜さんを連れて帰るけどぉ」
「私も無理ですよ。架陰の馬鹿野郎を背負っているので」
「じゃ、私か・・・」
響也はあからさまに舌打ちをした。
クロナが少し笑みの含んだ口調で言った。
「ということで、今日の死体処理担当は、響也さんってことで!」
ローペンの時の所業を忘れていないのだ。
「クロナ、お前、後で覚えとけよ・・・」
その③に続く
UMA図鑑
No.4【吸血樹】
ランクA
体長5メートル
体重85キロ
地面から木のような触手を生やして、獲物を誘う。吸血した血液は、体内で循環させて、生命活動に利用する。常に地面にいるため、その姿の全貌を誰も知らなかった。




