霧払い その③
化け物の子を抱いて
月光を走る
入道雲に祈る
万象の柱を
3
(なるほど.......)
架陰は自分が今からするべきことを理解して、心の中で頷いた。
悪魔の堕慧児の目的は、【城之内カレンに取り憑く悪魔を奪い、彼らが崇める王の力を増幅そせる】ということ。
ならば架陰は、悪魔の堕慧児がカレンから悪を奪う前に、その悪魔を奪えばいい。
ということだ。
(にしても、悪魔。どうして、カレンさんに悪魔がついていることを、今まで気が付かなかったんだ?)
架陰とカレンは長い付き合いだ。
クロナや響也はもちろん、いつも同じ時を過ごしてきた仲間だ。
一番近くにいたというのに、架陰は悪魔の存在に気づくことが出来なかった。
その点に関しては、悪魔はうなりながら答えた。
(気配ヲ隠スノガ上手イヨウダナ。イヤ、ドチラカトイエバ、【眠ッテイタ】。ダナ)
(眠っていた?)
(アノ悪魔.......、ツイ最近マデハ眠ッテイタ.......、ツマリ、活動ヲ停止シテイタヨウダ。ソレガ、ナニカヲキッカケトシテ、目覚メタヨウダ.......)
(うーん。何かをきっかけととしてね.......)
架陰はそこまで考えたとき、ふと思いついて、
悪魔に聞いていた。
(ってか、悪魔。君なら、カレンさんに取り憑いた悪魔の居場所を探知できるんじゃないか?)
(それが、無理らしいんだよ)
悪魔の代わりに、ジョセフが答えた。
(どうやら、城之内カレンの悪魔は、眠ったり起きたりを繰り返しているらしいんだ。今は、休眠状態にある。だから、悪魔の力を使っても、居場所は探知できないんだ)
(そうですか)
(オイ貴様、今、落胆シタダロ?)
(バレた?)
(貴様ノ心ニイルノハワシダゾ?)
そりゃそうだ。
悪魔の力に頼れないというのなら、やはり、自分の足で、目で捜索するしかない。
(安心シロ。一応注視シテオク)
(うん。お願いするよ)
悪魔とジョセフの声は、それを境に聞こえなくなった。
架陰は再び、前方に意識を向けると、城之内花蓮を抱いたまま疾走した。
(カレンさん.......、必ず連れ戻します!!)
※
場面は移り変わる。
市原架陰が、城之内カレンの居場所を探して街をかけている頃、鈴白響也もまた、城之内カレンヲを探してかけていた。
(カレン、カレン、カレン!!)
心の中で、必死に彼女の名前を呼ぶ。
クロナから離れての単独行動。
自分でもらしくない行動だと思っていた。
だが、逸る気持ちが、響也の足を強引に動かすのだ。
(カレン!!)
響也の脳裏に、カレンと初めて出会った日のことが蘇った。
あの日。
響也が不良と喧嘩して、身体中をボロボロにしながら夜道を歩いていた日。
カレンは、身体を血まみれにして、不良と対峙していた。
口は三日月のようにニンマリと笑い、喉の奥から、悪魔のような、悲鳴にも似た引き笑いが漏れている。
その時のカレンは、人を忘れた獣の姿をしていた。
笑い、何度も「死ね死ね死ね死ね死ね」と呟きながら、男をいたぶる。
殴られた男の顔は真っ赤に腫れ上がり、裂けた皮膚から血が流れ出ていた。
響也と同じ、心に傷を持った者。
カレンの姿を見た瞬間、響也は共犯にも似た感覚が全身に駆け巡るのを感じていた。
カレンと響也は、直ぐに意気投合した。
UMAハンターへの入隊試験を受けたのも同時だった。
桜班に配属されたのも同時だった。
響也にとって、カレンは自分だった。
(お前が居ないと.......、私は!!)
響也は奥歯を噛み締める。
これは愛にも似た感情。
母親が実の子供に向ける、春の陽だまりのような暖かな想い。
「くそ、いてぇ.......」
響也はそんな声をもらしていた。
先程の、笹倉との戦いでかなり体力を消費している。彼から貰ったダメージはもちろん、能力【死神】を使ったあとの反動が、波のように彼女を蝕んでいた。
ふくらはぎが弛緩して、上手く地面を蹴れない。
いつもは握りなれたはずのDeath Scytheさえも重く感じた。
身体中から脂汗が吹き出し、頬がテカる。目つきの悪い目に、更に影が刺した。
「はあ、はあ、はあ.......」
本来ならば、すぐにでも横になって休まなければならないこの状況。
それでもその足を動かすのは、「城之内カレンを救いたい」という一心からだった。
「カレン.......」
その瞬間、足がもつれた。
「うわっ!!」
響也は顔面から転げる。
「いたた.......」
Death Scytheを杖がわりににして立ち上がった。
再び走り始めようとした瞬間、背筋に冷たいものか走った。
「っ!?」
響也は蹴り飛ばされたようにその場から距離を取ると、路地裏に飛び込んだ。
「人の気配?」
いや、これは、悪魔の堕慧児の気配だった。
路地裏から顔を半分出して、大通りの様子を見る。
誰かがこちらに歩いてくるのが分かった。
(あれは.......)
悪魔の堕慧児の一人、【鬼丸】と、【夜行】だった。
第122話に続く
補足
鈴白響也は孤児です。
クズな父親から逃げて、喧嘩三昧の日々を送っていたところ、同じく、荒れた生活を送っていた城之内カレンと出会いました。
二人は姉妹のような存在です。




