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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
394/530

繋いだ手 その③

陽炎に残る


陽だまりの残像


陽光昇りて


陽香の煙霧を

3


「ごめん。僕は、もう、後には引けないんだ・・・」


そう言って、一代目鉄火斎は溶岩を纏わせた指を、蒼弥の腹に押し付けた。


灼熱の指が、彼の腹の肉を焼いて、ズブズブと体内にめり込んでいく。


「あ、ああ、あ・・・」


蒼弥は目を見開き、口をぽかんと開けて、体内に指が入ってくる激痛に耐えていた。


ぼたぼたと、唾液が落ちる。


「こ、この、馬鹿・・・、師匠・・・」


そう絞り出した。


「二代目鉄火斎!!」


アクアが悲痛な声をあげるが、アスファルトの中に足が沈み行動を制限されている彼女に、蒼弥を救うことはできなかった。


指を抜く一代目鉄火斎。


血は出なかった。


血が出るよりも先に、腹の傷が焼き付いたのだ。


だが、威力は十分。


蒼弥はぐらりと、力なく倒れ込む。


一代目鉄火斎はひと仕事終えたあとのように「ふう・・・」とため息をついて、彼を退けた。


そして、手をついて立ち上がる。右足を負傷しているせいで、足元が覚束なかった。


見れば、蒼弥は身体中に脂汗をかきながら二代目鉄火斎を睨んでいる。


「てめぇ・・・、堕ちるとこまで、堕ちたか・・・」


「そういうことにしておこう」


足元に落ちていた刀を拾い上げる一代目鉄火斎。


能力は発動しない。


褐色の刃を、芋虫のように地面に倒れ込む蒼弥の首筋に当てた。


冷たい感触。


「蒼弥。ごめんね」


「恨むからな」


「いくらでも恨んでおくれ」


そこで会話を切り上げると、一気に刃を引いた。


刃は蒼弥の首筋をぱっくりと切り裂き、一瞬で彼を絶命させる。










はずだった。










一代目鉄火斎の引いた刃は、確かに蒼弥の首筋を裂いた。


ただし、薄皮一枚。


チクッとした感触が残り、あとは、血がぽたぽたと落ちるだけ。


「・・・・・・」


一代目鉄火斎は、静かに舌打ちをした。


「くそ・・・」


蒼弥は目を丸くして、彼を見た。


「ああ、もう・・・」


一代目鉄火斎は、仕切り直しと言わんばかりに、刀をもう一度構え直した。


もう一度、蒼弥の首に向かって振り下ろす。









ガツンッ!!










だが、鋒はまたしても、蒼弥の首元の地面を捉えていた。


「ああ、まただ。また、ダメだ・・・」


その時、蒼弥は気づいた。


「おい、師匠・・・、あんた、手が震えているんじゃないか?」


「・・・・・・・・・」


一代目鉄火斎の頬がぴくりと動いた。


「参ったね。どうも・・・」


頭を掻く。


そして、ボソリと呟いた。


「まだ、情が残っていたか・・・」


「え・・・!?」


「ああ、くそ。ダメだ・・・」


一代目鉄火斎は刀を鞘に収めた。


「無理だ。殺せない・・・」


「師匠・・・?」


希望に満ちた顔で首を擡げる蒼弥。


一代目鉄火斎は、着物の袖に手を入れた。


そして、白い錠剤を取り出すと、それを蒼弥の口に持っていく。


「食べな。毒じゃない」


蒼弥は言われるがまま、白い錠剤を口に含み、一気に飲み込んだ。


「そいつは回復薬だ。直ぐに傷も癒える・・・」


それから、アクアの方に振り返った一代目鉄火斎は、彼女にも蒼弥と同じものを渡した。


「あんたも、食べた方がいい。足が爛れているからね」


「急にどうしたの?」


アクアは錠剤を受け取ったものの、食べなかった。


「教え子を殺すと見せかけて、殺せないなんて・・・」


「僕にも分からないよ・・・」


舌打ち混じりにそう答える一代目鉄火斎。


「殺せると思ってた、だけど・・・、ダメなようだ・・・」


自分の手を見る一代目鉄火斎。


刀を打って豆だらけのその手は、どうしようもなく震えていた。


「ああ、くそ。これが親の情ってやつか・・・」


蒼弥の方を見る。


「蒼弥。傷が治ったら、さっさとここから立ち去れ」


「師匠・・・一緒に帰ろうよ!!」


「ダメだ・・・、僕はもう、悪魔の堕慧児側の人間なんだ・・・」


「でも・・・」


「さっさと行け。いつ僕の気が変わるかどうか分からないからね・・・」


「師匠!!!」


蒼弥が叫ぶ。


その声に、一代目鉄火斎はハッとして彼の顔を正面から見た。


「頼むよ・・・」


蒼弥は泣いていた。


一代目鉄火斎は、バツの悪い様子だった。


だが、直ぐに「ごめん」という言葉を絞り出した。


「蒼弥。また会おう。この作戦が上手く行けば・・・、また、僕の中でなにかが変わるかもしれないんだ・・・」


「なんだよ。それ!! 師匠!! あんた!! 何があったんだよ!!」


蒼弥は一代目鉄火斎を必死で引き止めた。


だが、一代目鉄火斎は足早にそこから去っていく。


カツン、カツン。と、下駄の音がビル街にこだました。


「バイバイ」


一代目鉄火斎は、路地の向こうへと消えてしまった。

















第117話に続く

補足


一代目鉄火斎は、自ら悪魔の堕慧児の仲間になっています。この十年間で気が狂い、いつしか弟子を殺そうという感情に苛まれていますが、内部にはちゃんと【親心】というものが残っています。


彼がどうしても悪魔の堕慧児の一員になったのかは、また別のお話で。

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