第16話 魔影 その②
僕は本当の『僕』を知らない
時に僕が人を喰らう『牙』を持っているのなら
僕は僕を『絶望』と呼ぶ
2
「こいつが、吸血樹の本体か!!」
その姿を、どう表現すればいいのだろうか。動物図鑑、恐竜図鑑、ましてや昆虫図鑑にも、その姿の鱗片を垣間見ることは出来ない。
だがそれは、昆虫と言えば昆虫の姿だった。
体長約5メートル。
カマキリのような紡錘型の胴から、約六本の肢が生えている。
何故「約」と曖昧なのかと言えば、その他にも触手らしきものが生え、正確に「肢」と「触手」の判別が出来なかったのだ。
その胴体から、龍のような、獣のような頭が生えているが、昆虫のような複眼を見ることは出来ない。そもそも、目は存在しなかった。
まるで、腰をもたげた老人のように、ゆっくりと動き出す。体中からパキパキ、キリキリと軋む音が響いた。
「一気に仕留める!!」
響也が真っ先に斬りこんだ。
「死踏、一の技・・・」
いつものように、捻りの動作を力に変えて、敵の命を刈り取る斬撃を放とうとする。
しかし、5メートルもの体躯から大量の触手が生えて、まるで牢獄のように自らの体を取り囲んだ。
(触手の、鎧!?)
「命刈り!!!」
渾身の一撃を加えたが、The Scytheの刃が斬り裂いたのは、表面を覆う触手。
刃が奥まで届かない。
「響也さん!!」
「ちっ!!」
網目状に重なる触手の隙間から、太い触手が槍のごとく飛び出した。
「がはっ!!」
響也の腹に直撃する。
突かれた反動で、響也の身体が吹き飛んだ。
「響也!!」
カレンが翼々風魔扇で風を発生させ、響也の勢いを緩和する。
体勢を整えた響也は、カレンの前に着地した。
ペッと、込み上げた胃酸を吐き出す。
「油断した・・・」
「もう少し様子を見ましょうよぉ」
「いや、駄目だ」
響也は垂れた前髪の隙間から、ギロリと吸血樹を睨む。
「今のでわかった。やはり、地上に出てきた分、奴の攻撃力・・・、いや、攻撃範囲が広がっている」
「そうですね」
これには架陰が返事をした。
「早いところ撃破しましょう」
あの時、響也の殺気を感じ取った吸血樹は、一瞬で身体中から触手を生やし、鎧に変えた。
身体中からだ。つまり、吸血樹は、身体のどんな所からでも、触手を生やすことができるのだ。
あの能力が、地面から半永久的に触手が飛び出してきたことの秘密か。
「オレ、行きます」
さっと架陰が走り出す。
「架陰くん!?」
「あいつ、勝手な行動を・・・」
響也も架陰の後に続いた。
「架陰!! 私に合わせろ!!!」
「っ、はい!」
響也はぐんっとスピードを上げて、架陰の前に立った。そして、先程同様に、上体を捻る。
一撃の命刈りで攻撃が通らないのなら、二撃ある攻撃を放てばいい。
「二の技!! 旋刈り!!!」
触手が折り重なって作り上げた鎧に、二発の斬撃が叩き込まれた。
斬れた触手の断面から、血が吹き出す。
「架陰!!」
響也は直ぐに地面を蹴って上空に跳んだ。
そこへ、架陰が走り込んで来る。
「はあっ!!」
さらに架陰の刀が一撃を加える。
だが・・・。
「くそっ!! まだだ!!」
刃が、吸血樹の本体に届かない。
「架陰、下がれ!!」
上空から響也が叫んだ。
反射的に架陰が後退する。
「死踏・・・」
響也は10メートル上空で、The Scytheを背中を通して持った。丁度、響也の身体がTの字になる。
「三の技!!」
身を捩った。
「【雷刈り】!!!」
ディスクローターのように高速回転する響也が、上空から襲いかかる。
ザンッ!!と吸血樹を覆っていた触手の壁が両断される。
「届いた!!」
明らかに、吸血樹の本体が大きく揺れた。苦痛に苦しんでいるのだ。
カレンとクロナが動き出す。
「風神之槍!!」
「W-Bullet!!」
翼々風魔扇で極細にした風の槍と、銃口から鉄の弾丸が発射された。
それが、吸血樹の腹に直撃する。
「命中した!」
風圧で、吸血樹の体が大きく傾いた。
響也がThe Scytheを構えて、低く斬り込む。
「一気に」
「行きましょう!!」
架陰も走り出す。
響也が右に、架陰が左に回り込んだ。
「「オラァ!!」」
二人同時に、吸血樹の体を支える肢を切断しにかかる。
響也が右半身の三本の肢を、架陰が左半身の三本の肢を切り落とした。
「よし!」
「ナイスだ、架陰!」
体を支えるものを失った吸血樹は、どしんっ、と地面に突っ伏した。
「叩き込め!!」
響也の声と同時に、カレンが翼々風魔扇を一閃する。
「風神之剣!!」
風の斬撃が発生して、吸血樹に向かって発射された。
「止めよぉ!」
鎌鼬が、吸血樹の龍のような頭を切断した。
「やったか!?」
響也が身を乗り出す。
頭骨のような吸血樹の頭が、ヒビだらけのコンクリートの上に転がる。
切断された部分から、触手の時とは比にならない血液が吹き出した。
どんな生き物でも、首を落とされたら死ぬ。四人は吸血樹の死を確信した。
だが。
「えっ!?」
ヒュンッ! と空気を切り裂く音がして、何かが迫る。カレンは咄嗟に翼々風魔扇の扇の部分で受け止めた。
「これは!」
吸血樹の触手だった。
しかし、見慣れた鋭利なものではない。まるで、響也のThe Scytheを型どったような、「鎌状」の触手だった。
「カレンさん!!」
架陰がすぐ様吸血樹本体から伸びている異形の触手を斬り裂いた。
翼々風魔扇によって抑え込まれていた触手は、ことりと動くのを辞めた。
「こいつ・・・」
再び警戒心を強めた四人は、落とされたはずの吸血樹の首をじっと見た。
まず最初に、切断した六本の肢が生え、吸血樹の体を支えながら立ち上がった。
次に、血が噴水のように吹き出していた首の断面から、龍の頭骨のような頭が生える。出血も完全に収まった。
「再生能力か・・・、厄介だな」
その③に続く
その③に続く




