【第113話】 グッドラック その①
その背中に指した
血濡れの親指は
朝日と共に乾いて
褐色の星星を導く
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「さて・・・、どうする・・・?」
トランシーバーの通信を切った架陰は、下唇をひと舐めして、ビルの屋上から下を見下ろした。
半径一キロに渡って形成された、【肉の街】。
響也の報告によると、これは【蜻蛉】という名の、悪魔の堕慧児による能力らしく、変幻自在に形状を変化させることができるらしい。
「この街全体が・・・、悪魔の堕慧児の支配下みたいなものか・・・」
架陰、及び薔薇班がいる南側には、唐草。女郎。神谷。の三体の悪魔の堕慧児。
響也、クロナ、及び椿班のいる北側には、蜻蛉。そして、笹倉。の二体の悪魔の堕慧児。
「戦力・・・、足りるか?」
一度悪魔の堕慧児と交戦している架陰や、椿班の人間になら分かる。
悪魔の堕慧児は、人間とUMAの力を保持している分、人間よりも身体能力が高い。
そして、このように、人間にはない能力がある。
「どうする・・・」
架陰は顎に手をやって考えた。
架陰達、桜班の目的は二つ。
一つ。【悪魔の堕慧児の殲滅】
二つ。【城之内カレンの奪還】
アクアには、優先すべきは【後者】と伝えられている。
「カレンさんの奪還・・・!!!」
自然と刀を握る力が強くなった。
「架陰様?」
傷が癒えた城之内花蓮が、おもむろに立ち上がった。
架陰はそれを宥める。
「花蓮さん。ここにいてください。本調子じゃなければ、また危険な目にあいます」
「いいえ・・・」
花蓮は足腰に力を入れて、何とか直立した。
「架陰様の手を煩わせるわけにはいきません。お供致します・・・」
「お供・・・」
それを軽く流して、架陰は花蓮と共に下を見た。
「花蓮さん。奴らの能力って、分かりますか?」
「はい。あちらの、樹木の形をしている【悪魔の堕慧児】の能力は【太歳】です」
「能力は、再生ですね・・・」
「はい」
神谷が操る触手に貫かれた者には、【生命エネルギー】なるものが注入され、自ずと傷が癒えるようだ。
その証拠に、先程架陰が両断したはずの、唐草と女郎の傷が既に回復していた。
「あちらの革鎧を身にまとっている方が、【唐草】と言って、能力はどうやら、下半身が山羊の肢に変化することですね」
「ああ、彼とは一度戦っているから・・・」
架陰は数ヶ月前のことを思い出しながら頷いた。
唐草だけでは無い。北側の笹倉に、女郎。この三体とは、架陰は、一戦を交えていた。
「にしても・・・、あれから悪魔の堕慧児が増えたのか・・・」
神谷。それに、蜻蛉。この二人の存在は、以前の架陰奪還作戦では確認されていない。
「とりあえず・・・、お手並み拝見」
架陰は金網を乗り越えて、道路側に飛び降りようとした。
その架陰の着物を、花蓮が掴む。
「架陰様・・・、私も行きます・・・」
「花蓮さん。ここにいてくださいよ」
「いいえ。私は薔薇班の班長ですから、戦う義務があります!!」
あまり、花蓮を戦場に連れていきたくはなかった。もし傷でも付けたら、斎藤に何を言われるか。
「仕方ないですね。行きましょうか・・・」
架陰は渋々了承した。
花蓮に「失礼します」と許可を取ってから、彼女をお姫様抱っこする。
脚に魔影を纏わせた。
「じゃあ、一気に駆け下りますよ!!」
「お願いします!!」
花蓮は架陰の首に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
魔影を脚に纏わせて、ビルから飛び降りる。
「【魔影脚】!!」
空気を反発させて、空中機動をすると、ビルの壁に着地。もちろん、重力が働いているために、二人は下へ引っ張られていく。
架陰は落下方向とは逆に魔影の衝撃波を放ち、落下の勢いを相殺しながら、壁を滑り降りた。
無事に着地。
「さあ! さっさとやりましょう!!」
「はい!! 架陰様!!」
着地するやいなや、唐草が地面を蹴って襲いかかってきた。
「市原架陰!! 君を誘拐するよ!!」
「僕は君を殺すよ!!」
架陰は腰に差した【名刀・赫夜・プロトタイプ】を抜く。
城之内花蓮も、【名刀・絹道】を抜いた。
斬り込む唐草の後に、女郎が続いた。
架陰と花蓮。
唐草と女郎。
両者が衝突しようとした、次の瞬間。
「架陰殿!!」
両者の間に、緑色の、半透明の結界が出現した。
「っ!?」
ゴツッ!!
と、鈍い音が響く。
唐草が、勢いよく激突したのだ。
玉突き事故のように、よろめいた唐草に、女郎が激突。
二人とも鼻血を噴出しながら倒れ込んだ。
「これは・・・!!」
西原の能力【結界】だった。
「西原さん!?」
見れば、路肩に、西原がフラフラとしながら立っていた。
「架陰殿! お行きなさい!!!」
「西原さん?」
「早く!!!」
声を荒らげる西原。
言葉を交わさずとも、その目は「カレンお嬢様を救い出してくれ」と叫んでいた。
架陰は西原と花蓮を交互に見た。
そして、「でも!!」と返す。
架陰にも、漠然と理解出来ていた。
城之内花蓮と、城之内カレンを対面させることは、まずいことなのではないのか?
と。
西原は首を激しく横に振った。
「今はそれどころじゃありません!! 早く!! 早くお嬢様を!!!」
「くっ!」
架陰は刀を納めると、再び、城之内花蓮を抱き抱える。
「架陰様?」
「花蓮さん。ここは西原さん達に任せて、僕達は先に進みましょう!!」
言うやいなや、魔影脚で地面を蹴って走り出す。
(任せましたよ!! 西原さん!!)
その②に続く
その②に続く




