【第112話】 薔薇と太陽 その①
朝露に求める一輪の薔薇
詰む私の指には絆創膏
1
「参ります」
薔薇班・班長の城之内花花蓮は、愛刀の鋒を、向かってくる男に向けた。
キラリと、鋭い閃光を放つ。
「名刀・【絹道】」
唐草が、半径十メートルの射程範囲に踏み入った瞬間、彼女もまた、彼に向かって踏み込む。
(向かってきた?)
唐草は首を捻る。
唐草の能力は、【山羊男】。下半身が山羊の肢に変化して、強靭な脚力を得る力だ。
今、彼はその能力を利用して加速している。加速した状態から放たれる一撃は、相殺することなど不可能。
それなのに、向かってきた。
(どういうことだ?)
考えている暇はない。
(蹴り砕けば、いい話だ!!)
唐草は肢をしならせると、迫りくる花蓮の頭蓋に向かって、強烈な蹴りを放った。
その瞬間、唐草の視界から、花蓮の姿がぬるりと消えた。
「っ!?」
蹴りは空を切る。
唐草の股の下で、花蓮が言った。
「私の剣術は、【柔軟】です」
反応できない機敏さで、唐草の懐に潜り込んだ花蓮は、低い姿勢から、刀を斬りあげた。
「【絹道】!!!」
「っ!!」
しかし、俊敏さでは唐草も負けていない。
刃が彼の脚を斬り落とすよりも先に、左足で地面を押して、斬撃を躱した。
「あっぶな!!」
「くっ!!」
花蓮は奥歯を食いしばる。
やはり、一筋縄ではいかない。
相手は、悪魔の堕慧児。人間ではない。反応速度も、運動能力も、人間の数倍勝っているのだ。
(単に、隙を突くだけじゃ勝てない!!)
花蓮は、ブーツを踏み鳴らして、唐草との間合いを詰める。
唐草はバックステップを踏みながら、花蓮と距離をとった。
(やっぱり、追撃してくるか・・・)
花蓮の攻撃をいなしながら、熟考する。
(僕の能力は強力。さっきの男みたいに、一発喰らえば一溜りもない・・・)
こんな凶悪で、強力な能力を持っているのだ。
普通、距離を取り、攻略方法を導くために考えるはず。
それなのに、目の前の女は、刀に付いたリボンを踊らせながら、切り込んでくる。
考えられることは二つ。
①近接でも勝てる自信がある。
②玉砕覚悟である。
後者は現実味がない。
やはり、前者だと見るべきだ。
「だったら!! 迎え撃つ!!」
唐草は退るのを辞めた。
そして、花蓮との交戦を決意した。
逃げるのを辞めた唐草に対して、花蓮は唾を呑み込む。
刀を握る手が強ばった。
それを必死に抑えて、一歩踏み込む。
確実にここで仕留めるのだ。
「名刀・【絹道】・・・、第一航路!!!」
上半身を捻って、骨盤から頚椎にかけての可動域を広いげる。
ゴスロリドレスから覗く、白い美脚を軸にして回転。
遠心力。
柔軟性。
そして、冷静な頭脳。
この三つが合わさった時、城之内花蓮は誰よりも変幻自在な動きをすることができる。
「鴎!!!」
ぬるり、ぬるり。ぬるり、ぬるり。
まるで川を下る流水のように、花蓮は身体を回転させて、唐草の側面を滑るようにして彼とすれ違った。
「っ!!」
一瞬の出来事に、唐草は目を丸くして、首だけで振り返る。
(躱した!?)
空を切った蹴り。
蹄の付いた肢が、ビキリと痛んだ。
皮膚が裂けて、血が吹き出す。
「なっ!?」
すれ違いざまの一瞬で、斬り裂かれたのだ。
「くっ!」
唐草は体勢を整えると、身を捩りながら着地。
たが、足元が覚束ず、くらりと片膝を付いた。
(しまった・・・、山羊の肢は繊細だから・・・)
思ったよりもダメージを受けてしまったようだ。右足に全く力が入らない。さしずめ、腱を切断されている。
(この程度の傷・・・、神谷の能力があれば回復する・・・)
花蓮の方を振り返った。
「今・・・、何した?」
「斬ったんですよ」
花蓮は腰をくねくねと振りながら、【名刀・絹道】の鋒を唐草に向けた。
鋒に、たらりと血が付着している。唐草のものだ。
「速いね・・・」
「それだけじゃありませんよ?」
花蓮はお嬢様らしくニコッと笑った。
次の瞬間には、お嬢様らしくない鬼気迫る顔に変貌し、唐草に斬り込む。
肢をやられた唐草は、地面に手をついて、腕力の反動で花蓮の攻撃をいなそうとした。
しかし、腕に、絹道の柄に取り付けられたリボンが巻き付く。
「あっ!!」
花蓮は慈悲無く、刀を引いた。
ピンッ!!
と、強靭なリボンが張り詰める。
締め付けられた時の勢いで、唐草の腕の肉にリボンが食いこんだ。
「くっ!!」
痛みに顔を歪める。
花蓮はさらにリボンを引いた。
ずるり、ずるりと、唐草の体が引きずられて、花蓮の方へと近づいていく。
「あちゃ、君、なかなかえげつないことするよね?」
「UMAハンターですから」
花蓮はふふっと笑った。
そして、一気にリボンを引く。
踏ん張りが効かなくなった唐草は、花蓮の方へと放り出された。
「終わりです」
リボンに拘束され、身動きが取れない唐草に、刃を振った。
その②に続く
その②に続く




