泡沫の血飛沫 その②
薄紅色に光る
朝焼けの中を
ベランダから眺める私は
ふやけた息を吐きながら
2
薔薇班の四人が、街の探索を始めてから数分が経過した。
中央分離帯によって隔たれた大通りを進んでいると、前方に人の影。
花蓮がすかさず、「止まって」と指示を出した。
斎藤、桐谷、西原ともに腰の装備品に手をかけて、身構える。
人影は、ゆらりゆらりと楽しげにステップを踏みながら近づいてきた。
「やあやあ、初めましてかな?」
人影がビルの影から抜け出して、薔薇班の四人の前に姿を現した。
木の色に近い茶髪を風に揺らし、飄々と中性的な顔立ち。幼げながらも鼻筋は通っていて、革鎧が動く度にカタカタと鳴っている。
そして、赤色の和傘を差していた。
その姿に、西原は見覚えがあった。
「お嬢様・・・、あれが【悪魔の堕慧児】でございます」
「あれが・・・」
桜班と椿班の報告にあった特徴と一致している。
名前は確か・・・【唐草】。
「こんにちは、薔薇班の皆さん。僕の名前は」
唐草が自己紹介をしようとした瞬間、その隙を突いて西原が斬りこんだ。
ヘラヘラと半開きになった口に、腰の仕込み刀を一閃する。
「おっと!」
唐草は、上体を仰け反らせてそれを躱した。
(躱した!?)
「爺さん。名乗りは聞くもんだよ?」
「時間が無いのです」
斬撃の勢いそのままに、体を捩り、唐草の脚を掬う。
唐草はバランスを崩して、地面に頭を激突。
「おっ!!とっ!!」
とは行かず、ギリギリのところで踏みとどまった。
強靭な腹筋を使って体勢を整える唐草。
「もうちょっとさ、話を聞こうとは思わないの?」
「ありますとも」
西原は、鬼のような速さで唐草の首を掴むと、そのまま肉塊が覆った地面に叩きつけた。
為す術なく、西原に行動を封じられる唐草。
西原は、無抵抗な唐草に違和感を感じながら、強ばった口調で聞いた。
「城之内カレン様はどこにいる?」
「城之内カレン?」
知っているだろうに、とぼける唐草。
「さあ、誰のことかな?」
「とぼけるな・・・」
首を絞める力を強める西原。
シワだらけの指が、ギリギリと唐草の首に食いこんでいった。
「痛いなぁ。やめておくれよ」
「居場所を言え」
「ああ、もう、冗談が通じない爺さんだ」
あっさりと自分の嘘を認める唐草。
「城之内カレンの居場所は・・・」
そう言おうとした瞬間。
何か、殺気立ったものが近づいてくるのに気がついた。
唐草の口がにいっと笑う。
「っ!?」
防衛本能が、西原の体を動かす。
「西原さん!!」
桐谷が危険を知らせる。
西原は、咄嗟に地面を蹴って、唐草から距離を取っていた。
唐草と西原の間を、白い閃光が駆け抜けた。
「斬撃っ!?」
「おっと、外しちゃったかな?」
唐草は腹筋の反動で立ち上がると、その脚力を活かして、一気に跳躍した。
軽快にビルとビルの間を蹴って移動して、断崖絶壁を駆け昇る山羊の如く、遠ざかっていく。
ビルの屋上に立つ唐草。
その隣には、未確認の【悪魔の堕慧児】がたっていた。
距離があるために、顔が判別出来ない。唐草よりも低い。ということは、小柄な体型だろう。
(あいつが、斬撃を放ったのか?)
唐草は、屋上から薔薇班を見下ろして言った。
「我々の目的は、【市原架陰の誘拐】だ」
「架陰様を!?」
今まで、悪魔の堕慧児や、桜班との関わりが無かった薔薇班の面々は、悪魔の堕慧児の目的をイマイチ図りかねていた。
ザワつく三人を横目に、西原は冷静さを保ったまま、頭上の唐草を見据えた。
「お前達が誘拐した桜班の副班長はどこにいる!!」
「まあ、そう焦らないでよ」
遊戯を楽しむ子供のように笑う唐草。
「大丈夫。ちゃんと生きてるよ」
その言葉を聞けただけで、西原は心の中で胸を撫で下ろした。
「交換条件と行こうじゃないか」
唐草はニヤリと笑って、右人差し指をこめかみに押し当てた。
「返して欲しくば、市原架陰と交換条件だ」
「っ!!」
「ああ。大丈夫だよ」
西原の心を読んだのか、唐草は間髪入れずにそう言って宥めた。
「無理だよね? 無理なのはわかっている。みんな大事だもんね」
「そうだ!!」
西原は珍しく声を荒らげた。
唐草は相変わらず楽しげ。
「無理なら、武力行使でも構わない。僕達が誘拐した、桜班の副班長は、この街のどこかに捉えられているからね」
「この街に!?」
「ああ。面白いだろ? 僕の仲間の能力なんだ」
唐草が取り付けてきた条件はこれだった。
・城之内カレンを返して欲しくば、市原架陰を差し出すこと。
・それが無理なら、武力行使に出ても構わないこと。
「だけど、武力行使に出るのなら、僕たちは遠慮しないよ?」
最初からこれを望んでいたかのように、ニヤニヤと、悪意のこもった顔で笑う唐草。
「君たちが攻撃してくるというのなら、僕達も全力で迎え撃つ。さあ、UMAハンターと悪魔の堕慧児との、全面戦争といこうじゃないか」
その③に続く
その③に続く




