合同作戦開始 その③
木刀で漆器を砕いて
降りしきる破片の光の中で
赤らめた顔と
涙とともに
肩で息をする貴方の
なんと傷だらけな様よ
3
「ってか、この死体、どうやって殺されたんだ?」
「どうやって殺された?」
不意に鉄平から洩れた言葉に、一同首を傾げた。
数秒してから、八坂が「確かに・・・」と頷く。
「能力によるものでしょうけど・・・、実態が分かりませんね」
「だろ?」
鉄平はそう言って、鉄棍で地面を叩いた。
柔らかいような、硬いような、少なくとも、アスファルト程の硬さは無い。
「一晩で、この街を覆った、この肉壁みたいなのもそうだ。能力者は誰だ?」
「私ですよ」
不意に、背後から女の声がした。
振り返ると、朱に染った道路の真ん中に、少女が佇んでいる。
高校のブレザーに身をまとい、膝ほどのスカートからは白い生脚が覗く。髪は質の高い黒色で、サラサラと風に揺れていた。
その瞳は、ビー玉のように無機質だった。
「お前は・・・」
「知らないでしょう? 初対面ですもの」
「まあ、そうだな」
少女はにまっと笑うと、しなやかな指をパチンッ!!と鳴らした。
その瞬間、左右のビルの壁の表面が、ズブズブと蠢き始め、ミミズのような肉塊が盛り上がった。
「っ!!」
「自己紹介と行きましょう。私は、悪魔の堕慧児の一人、【蜻蛉】です」
「とんぼ・・・」
女にしては似合わない名前だ。と思った。
「今ので分かるように、私の能力は・・・」
そう言って、蜻蛉という名の少女が、自身の能力を説明しようとした、次の瞬間。
背後に控えていた真子が、弓を射った。
「【爆炎火矢】!!」
鏃が炎をまとい、空気を裂きながら射出される。
蜻蛉は動かない。
再び、パチンッ!!と指を鳴らした。
その瞬間、左右の壁から伸びてきた肉塊が蜻蛉の目の前に立ち塞がり、矢を防いだ。
「っ!!」
「無駄ですよ」
蜻蛉は勝ち誇ったような顔を浮かべ、でも、妖艶な気配は纏わせたまま言った。
「私の能力は、【陽炎】と言いまして、半径一キロ圏内の空間に肉塊を纏わせることができる能力です」
「一キロだと!?」
八坂が驚く。
「そんな射程距離のでかい能力なんて、見たことが無い!!」
「そうでしょうね。多分、私だけじゃないでしょうか?」
蜻蛉は、今度はパンッ!パンッ!!と、手を鳴らした。
壁から飛び出た肉塊が、元の位置に引っ込む。
それから、アスファルトの表面がウズウズと蠢き、先程と同じ、ミミズのような肉塊が首をもたげた。
「ですが・・・、あまり戦闘には向いていないんですよ。矢くらいは防げますが・・・、殺傷能力がとにかく低すぎる・・・」
嫌な予感がした。
「私の役割は、あなた達を分断することです」
その瞬間、鉄平の足元が盛り上がった。
「っ!!」
危機を察知して、後方に飛び退く鉄平。
案の定、肉塊が地面からせり上がってきて、鉄平の視界を遮った。
ドンッ!!
と、背中になにかが当たる。
「なにいっ!!」
振り返ると、そこにも肉壁があった。
鉄平は、肉と肉の壁に挟まれたのだ。
壁の向こうから、蜻蛉の冷静な声が聞こえる。
「効率がいいでしょう? 一人一人、分断して・・・、一人一人、着実に殺して行きます」
背後の壁の向こうからも、真子や、八坂、山田たちの困惑する声が聞こえた。
「なんだこれっ!!」「鉄平さん!!」「くそっ!! 攻撃が!!」
あの蜻蛉という名の女の能力により、椿班の四人が、バラバラに分断されている。
「コノヤロウ!!」
鉄平は怒りに任せて、鉄棍で肉壁を殴った。
「卑怯だぞ!! てめぇわよォ!!」
「あら、狩人にそんなこと言われるとわ思いませんでした」
肉の壁が開け、蜻蛉が姿を現す。
彼女が指を鳴らすと、辺りの空間にある物質が形を歪め、鉄平と蜻蛉の周りを取り囲んでいく。
そして、四方八方壁。
学校の体育館程の戦場となった。
「大丈夫ですよ。彼らを圧死させるような野暮なことはしません。あなたを殺したら、一人一人、また一人一人と殺します・・・」
「くっそ!!」
鉄平が肉の地面を強く踏み込んだ。
その瞬間、蜻蛉が「あんっ!!」と喘ぎ声をあげる。
その声に、一瞬、鉄平の動きが止まる。
「なんだてめぇ、気持ち悪い・・・」
「ああ。一応、私の弱点を言っておきますね。この肉壁は、私の身体の一部を増殖させているので、痛覚はあるんですよ」
「っ!!」
鉄平の脳裏に、「この肉壁を攻撃すれば」という考えが浮かんだ。
直ぐにその考えを読んだ蜻蛉が、「残念」と言う。
「表面積が大きくなっているので、少し叩いたくらいじゃ、感じません。羽虫に留まられる程度の感覚ですよ」
「だったらさっきは・・・」
「肉壁の部位によって、感じ方は違いますから。あの部分は敏感だったんですよ。さながら、性感帯のようにね」
「っ!!」
「おっと、変なことは考えないでくださいね? 私、笹倉さんのように下品な男性は嫌いなんですよ」
そう言いながら、左手で右手首を掴む蜻蛉。
まるで蟹の殻を剥くように、右手首の骨を折った。
パキンッ!!
と、乾いた音が鳴り響く。
「っ!! てめぇ、何やってる!!」
「心配してくれるんですか? 紳士的ですね。ちょっとは好きになってもいいですよ」
蜻蛉はさらに手首を折り曲げる。
皮膚が裂けて、血が吹き出した。
「面白いでしょ?」
その断面から肉がズブズブと生えでてきて、草苅り鎌のような形状に変化した。
「さて、戦いましょうか?」
第109話に続く
第109話に続く




