城之内カレン奪還作戦 その③
背中の香を彷徨いて
明け方の月に祈る楠
3
架陰、クロナ、そして響也の三人は、アクアの運転するワゴン車に乗り込み、とある場所を目指してアクセルを全快した。
三時間ほどの運転で辿り着いたのは、【二代目鉄火斎】の工房がある山奥だった。
カレンが誘拐されてすぐの出発だったために、辺りは真っ暗。道中、何度も足を踏み外して、谷底に転落しそうになった。
冷い空気が舞い降りて、草木、害獣すらも息を潜める頃だった。
「へえ、こんなところに人が住んでいるのか」
初めてこの山に来る響也は、鬱蒼とする木々を眺めながらそんな感想を抱いた。
数週間ここで世話になったクロナや架陰は、物怖じすることなく、懐中電灯で照らしながら、山小屋の方へと歩いていく。
アクアが先頭に立ち、住宅の扉を叩いた。
「こんにちは」
扉は直ぐに開いた。
「なんだ?」
二代目鉄火斎が眠たげな顔をして出てくる。
懐中電灯に照らされたアクアや架陰、クロナの顔を見るなり、目をパチリとさせた。
「お前ら、どうしたんだ? こんな夜中に・・・、オレはもう寝るつもりだったんだが?」
彼は藍色の寝巻きを羽織っていた。
部屋の奥の囲炉裏にはチリチリと火がともり、その前に薄い布団が敷かれている。
アクアが架陰に目配せをした。
架陰は、アクアの半歩前に出て、折れた刀を渡す。
「どうぞ」
「ああ?」
目を凝らして、架陰が渡してきたものを見る二代目鉄火斎。
それがなんであるかを理解した途端、鉄火斎は石の床を蹴って架陰に飛びかかると、彼を地面の上に組み伏せた。
「やいてめぇ!!」
「すみません・・・」
架陰には謝ることしか出来なかった。
「一体これはどういうことだよ!!」
今にも架陰の頬を殴ろうとする鉄火斎の腕を、アクアが掴んだ。
そして、架陰から引き剥がす。
「鉄火斎。今は一刻を争う事態なの。殴るのは後にしてちょうだい」
「ああん?」
二代目鉄火斎も最初は怪訝な顔をしていたが、夜中に桜班のメンツが尋ねて来たこと。そして、自分の力作が簡単に折られた。という事実が助力して、怒りを抑えた。
「・・・、とにかく、入れよ」
四人は、鉄火斎の顎に示されて、山小屋の中へとお邪魔した。
鉄火斎は、サッと布団を畳み、囲炉裏の炎を大きくした。それから、部屋の四方に置かれた燭台に炎を灯した。
明るくなったところで、本題に入る。
「で、説明しろよ」
鉄火斎はあぐらをかいて座り、前に折れた【叢雲】を置いた。
「どうして、オレが打った叢雲が折られることになったのか」
「はい」
架陰は神妙に頷いて、鉄火斎に説明した。
「実は・・・、【一代目鉄火斎】さんに会いました」
「あ?」
その名を聞いた瞬間、二代目鉄火斎の目がカッと見開き、瞳孔が震えた。
口が半開きになり、端から唾液が伝う。
そして、架陰に縋るように詰め寄った。
「おい!! それ、どういうことだよ!!」
「それを僕も聞きに来たんです」
架陰は一音一音確かめるように聞いた。
「一代目鉄火斎って、やはり、あなたの師匠ですよね?」
「そうだよ!! 一代目鉄火斎はオレのお師匠だよ!!」
「その一代目鉄火斎さんが、【悪魔の堕慧児】と共謀していたんです」
「なんだと?」
事実を飲み込めない鉄火斎。
そこから先は、アクアが語った。
「これで、辻褄はある程度合ったわね」
「辻褄?」
「悪魔の堕慧児は、人間とUMAの力を半分ずつ併せ持つ者のこと。彼らは、【武器】を装備していたわね?」
「はい。笹倉は、【名刀・雷光丸】。唐草は、【名傘・雨之朧月】。鬼丸も、名前は分かりませんが・・・、刀を一本所持していました」
「不思議だったのよ。あれほどの名品を、【誰】が作っているのか・・・」
「つまり、あれらは全て、【一代目鉄火斎】が作って、悪魔の堕慧児に供給していたってことですね」
「そういうこと」
アクアはそう言ってから、二代目鉄火斎の方を向き直った。
「あなた、一代目鉄火斎の居場所は分からないかしら? 分かるなら、他の悪魔の堕慧児たちの居場所もそこになると思うんだけど・・・」
残念ながら、二代目鉄火斎は怯えた様子で首を横に振った。
「知らねぇよ。だって、お師匠様は、十年近く前に・・・、オレの前から姿を消したんだぜ? てっきり死んだものだと思っていたんだからよ」
「そう・・・」
アクアは顔には出さないものの、残念そうに頷いた。
「じゃあ、次のお願い。架陰の新しい刀を作ってちょうだい」
「はあ?」
あからさまに嫌そうな顔をする鉄火斎。
「これから新しい刀を作るだどぉ? 一体どれだけ時間がかかると思ってんだよ!!」
「同じ刀でもいいわ。同じ【叢雲】なら作れるでしょ?」
「馬鹿言え。敵に簡単に折られるような刀をもう一度打てるか!!」
「あ、そうだ」
架陰は思い出したように言った。
「一代目鉄火斎さんが、言っていたことです。『次にそんな鈍を打ったら、叩き折る』って・・・」
「うっ!!」
心当たりがあるのか、うめき声をあげる鉄火斎。
「くそ、あのバカ師匠・・・、今更なんだよ・・・」
第108話に続く
第108話に続く




