勝負に負けて賭けに勝つ その③
怪獣の背より苔を切り出して
口の欠けた椀に茶を注ぐ
3
気がつくと、架陰は再び精神世界の中に立っていた。
目の前には、当然のようにジョセフと悪魔が立っている。
「ジョセフさん・・・、悪魔・・・」
「コノ馬鹿」
悪魔が鋭い爪で、架陰の額を小突いた。
「何故ワシガ【悪魔】ト呼ビ捨テデ、ジョセフガ【ジョセフさん】ナンダ・・・」
「え、それを気にしてるんですか?」
「まあ、いいじゃないか」
ジョセフが悪魔をなだめた。
「架陰。今、悪魔は上機嫌なんだ。気にしなくていいよ」
「え、上機嫌なんですか?」
「うん。すっごくテンションが上がってるよ」
「馬鹿言エ」
悪魔はそっぽを向いてしまった。
「気ニ入ラナイ下級悪魔ヲ追イ払ッタダケダ」
「またまた、照れちゃって」
悪魔との軽い茶化し合いを済ませたジョセフは、真剣な眼差しで架陰の方に向き直った。
「と言っても、かなりやばい状況だったね」
「はい・・・」
架陰は先程のスフィンクス・グリドールとの戦いを思い出しながら頷いた。
能力【千里眼】は、半径4000キロ圏内の空間を全て視認することができる。故に、奇襲を仕掛けることはほぼ不可能。更には、【壱式】の追加効果で、相手をひるませることだってできる。
能力だけでも恐ろしいというのに、並外れた戦闘能力も、スフィンクス・グリドールの武器だった。
架陰が魔影肆式を発動したというのに、優勢だったのは序盤のみ。あとは、攻略法を見つけたスフィンクス・グリドールに押し切られてしまった。
「とりあえず、スフィンクス・グリドールの【千里眼】の能力は悪魔が封じ込めた。上位悪魔の彼なら、スフィンクス・グリドールに取り憑いている下位悪魔に勝てるというわけだね」
「でも、完全に封じ込めたわけではないですよね?」
「そうだね。時間が経てば、悪魔の封印の効力は切れる」
「そうなると、また襲って来るんじゃ・・・」
「ソノ時ハ、マタワシガ封印スルダケヨ」
「つまり、しばらくはスフィンクス・グリドールは襲ってこない」
「ああ、そうなりますよね」
架陰は合点しながら、下唇を噛み締めた。
今回の戦いは、架陰が負けた。悪魔の力で、結果的には撃退に成功したが、やはり胸の中に詰まるものがある。
(肆式でも、勝てなかった・・・)
架陰の心の中を読んでか、ジョセフが「大丈夫だよ」と言った。
「あれは【肆式】じゃない」
「え? 肆式じゃない?」
「まあ、【肆式】だけど、正確に言えば、【使いこなせていなかった】と言うべきかな?」
「使いこなせていなかったんですか?」
「うん。魔影の能力は、【壱式】、【弐式】【参式】、【肆式】と上がっていく度に、発生する魔影の量が増加するってことは教えたよね? 魔影の量が増えれば増えるほど、君はその分の魔影を操らなければならない」
「はい」
「先程の君は、一度は【魔影】の収束に成功することができたけど、あとのは散々だったよ。全ての魔影を操れていないから、本来の出力を発揮することができていなかった・・・」
「そんなぁ・・・」
慰めの言葉かと思えば、かなり辛辣な内容だった。
肩を落とす架陰を見ながら、ジョセフはクスリと笑った。
「まあ、安心しなよ。つまり、もっと強くなれると言うことだから」
「そうだといいんですけど・・・」
架陰は、スフィンクス・グリドールを含めた、最近の戦いを振り返っていた。
【架陰奪還作戦】での、悪魔の堕慧児や、夜行との死闘。スフィンクス・グリドールとの死闘。
そして、このハンターフェスに参加していた数多のUMAハンター達との戦い。
どれも一筋縄ではいかなかった。何度も死を見た。
(これからも、この戦いは続くのか・・・?)
表情を強ばらせる架陰の背中を、ジョセフが叩いた。
「とりあえず、今は休むといい。何が襲ってこようと、その時は僕と悪魔が君を守るから」
「ワシハ別ニ死ンデモラッテモ良カッタノダガナ」
「悪魔、ツンデレはやめようよ」
「ナンダソレハ?」
「さあ、おやすみ。架陰。みんな待っている。早く傷を治して・・・、新しい刀も手に入れなければならないだろう?」
「あ・・・」
その時、架陰は思い出した。
スフィンクス・グリドールの手によって、愛刀の【名刀・赫夜】が粉々に砕かれたということに。
「はい・・・」
「ほら、行っておいで・・・」
ジョセフに背中を押されて、市原架陰は暗闇の向こうへと歩き出した。
激闘のハンターフェス。
桜班四人が戦闘不能になったあとも、それは続いた。
UMAを倒し、UMAハンターと刃を交え。何人ものUMAハンターが戦闘不能になった。
最後まで勝ち残り、そして、一番多くのポイントを入手したのは、兵蔵率いる【向日葵班】だった。
【ハンターフェス編】・・・完結。
次回より、新章【二代目鉄火斎編】開幕。
第96話に続く




