【第92話】 架陰VS四天王 その①
薔薇の中に埋もれる
君の心臓を
土に帰して
深紅の花弁となす
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「これが、僕の能力・・・」
架陰が放った、一撃必殺の斬撃を防いだスフィンクス・グリドールは、涼し気な顔でそう言い放った。
翳したスフィンクス・グリドールの手のひらに亀裂が入り、ギョロりとした目玉が顔を覗かせている。
「【壱式】の、【蛇睨】だよ」
「へび、にらみ?」
「うん。そういう技だよ」
手の中の目玉が、パチリと瞬きをした。
「さっき、僕の能力は、【千里眼】であり、半径4000キロの空間なら全てを色覚できると言ったけど・・・あれは、この能力の【基礎能力】に過ぎないんだよ」
「どういうことですか?」
「つまり、こういうこと」
口で説明するよりも、実際にやった方が早い。と言わんばかりに、スフィンクス・グリドールは、手を翳した。
「蛇睨」
そうつぶやくと、手の中の目玉がカッ目を見開いた。
その冷たい視線に魅入られた瞬間、架陰の体が糸に吊るされたかのように硬直した。
「ひぐっ!!」
と呻き声が洩れ、表情が引き攣る。
動けなかった。
「これが、蛇睨の効力だよ。この瞳に睨まれた者は、生物であろうと、物質であろうと、【僕に逆らうことが出来なくなる】。いいかい? 逆らうことができないんだ。これは、ただの足止めじゃない。逆らう意思そのものを剥ぎ取る効力だよ・・・」
「っ!!」
架陰は歯を食いしばった。
身体中に巻きついた糸を引きちぎるかのように、全身に力を込めて、一歩スフィンクス・グリドールに近づいた。
「いいね」
スフィンクス・グリドールはニヤリと笑った。
「なかなかいい線をついているよ」
「っ、どういうことですか・・・!!」
架陰は顔中から脂汗を流しながら、スフィンクス・グリドールとの間を詰めていく。
一歩、一歩。一歩。
着実に。
「その通りだよ。この蛇睨は無敵じゃない。あくまで、相手が油断している時に効果を発揮するんだ。今、この瞳に睨まれながら、僕のところに歩いてくるということは、君が、この瞳の視線に耐えて、【強固な意思】の元に足を踏み出しているということだね」
スフィンクス・グリドールは、「だけどね」と言って続けた。
「物質には、【強固な意思】は宿らない。あくまで物質だからね。だから、先程君が放ってきた斬撃を、僕はこの技で無効化できたんだ」
「っ!!」
架陰は全力で刀を振り切った。
スフィンクス・グリドールは半歩下がる。
刃は空中に白銀の弧を描くだけだった。
「さてと・・・」
架陰の背後に回り込んだスフィンクス・グリドールは、眼球が飛び出していない方の手で、架陰の頭を撫でた。
「どうするかな? 君が僕に勝てる確率はゼロに等しいんだけど・・・?」
「くっそっ!!」
架陰は風船が破裂するかのような雄叫びをあげると、蛇睨によって痺れた身体に鞭を振って襲撃した。
スフィンクス・グリドールは満足気だった。
「いいね。あくまで武器で挑むか・・・」
架陰の一閃を難なく躱す。
そして、牛若丸のような軽い身のこなしで後退した。
地面に落ちていた鉄棍を拾い上げる。
「椿班の鉄平くん、これ、借りるよ?」
鉄平の了承も得ぬまま、スフィンクス・グリドールは鉄棍を刀のように握った。
架陰が追撃してきたところ、その斬撃を受け止める。
ギンッ!!!!
「っ!!」
「ごめんごめん。僕も少し大人げなかったよね? 君たちみたいな弱い子に、能力を使うなんてさ・・・」
そのまま、上体の捻りを利用して、架陰の刀を弾いた。
架陰はバランスを崩して、フラフラと三歩下がった。
「いいよ。おいでよ。君は、この鉄の棒一本で相手してあげるからさ」
「っ!!」
架陰は奥歯を噛み締めた。
舐められている。完全に、舐められている。
「ハンデを与えて負けても知りませんよ!」
久方ぶりに逆上した架陰は、牛のような勢いでスフィンクス・グリドールに向かっていった。
ギンッ!!!!
振り下ろした刃も、いとも容易く防がれる。
「まだまだあっ!!」
架陰は連続で刀を振った。
しかし、スフィンクス・グリドールは全て見切り、一撃一撃を鉄棍の動きで弾いていった。
ギンッ!!!!
ギンッ!!!!
ギンッ!!!!
ギンッ!!!!
ギンッ!!!!
ギンッ!!!!
と、不規則な金属音が弾けていく。
「ほらほらほらほら、もっと頑張ってよ。全然当たってないよ?」
「くっ!!!!」
その瞬間、架陰の背後で声がした。
「架陰様!! 伏せて!!!」
「っ!!」
架陰は反射的に頭を下げた。
ビュンッ!!
と、架陰の頭上を白銀の刀が通り過ぎた。
ギンッ!!!!
飛んできた刃を余裕の表情を持ってはじき返すスフィンクス・グリドール。
投げた者を見て、「へえ・・・」とニヤッと笑った。
架陰の背後・・・、そこには、ゴスロリのドレスに身を包んだ少女が立っていた。
「薔薇班のお出ましか・・・」
その②に続く
その②に続く




