千里眼 その③
蛇睨みなど名ばかりで
金剛石にも似たその鱗に
足を絡め取られただけだ
3
「あらぁ、ご本人登場かな?」
突如背後に現れた、桜班下っ端の【市原架陰】を前にして、スフィンクス・グリドールはそんなことを口にしていた。
しかし、内心はかなり困惑している。
(どういうことだ・・・?)
気づかなかった。
スフィンクス・グリドールの能力は、【千里眼】。半径4000キロ圏内の空間なら全て認識することができる。確かに、ある一点に集中していれば、他の空間への意識が疎かになることはある。
先程は、鉄平と会話するのに集中していたために、市原架陰が近づいてくるのを【認識】することが出来なかった。
(いや、ありえない・・・)
たとえどんなに能力の穴を突こうが、スフィンクス・グリドールが【四天王】であり、UMAハンターの中で【二番目に強い男】であるということに変わりはない。
つまり、能力を使わずとも、架陰の接近には【気配】で気づくことができるはずなのだ。
(それなのに・・・、僕に気付かれずに背後に立っただと?)
スフィンクス・グリドールの頬を冷や汗が伝った。
それに気づいたスフィンクス・グリドールは、指で拭う。そして、舐めた。
「うん。これは【困惑】している味だ・・・、少し塩気がある・・・、久しぶりだな・・・、子供の頃にホラー映画を観た時以来だよ・・・」
「そんなことはどうでもいいです・・・」
市原架陰は、名刀・赫夜の鋒をスフィンクス・グリドールに向けた。
「スフィンクス・グリドールさん・・・、でしたよね?」
「ああ、僕が四天王のスフィンクス・グリドールだよ。そして、このハンターフェスの主催者だ・・・」
架陰は琴の弦のように意識を辺り一面に張り巡らせていた。
そして、喉の渇きを覚えながら、スフィンクス・グリドールに向かって言っていた。
「鉄平くんと、山田さんに、何をしているんですか?」
その言葉に、地面に伏していた鉄平は、生き返ったかのように顔をあげた。
「かいーん!! オレのために怒ってくれているのかぁ!! ありがとよォ!! やっぱお前はオレの親友だよぉ!!」
「鉄平くん! 傷が開くから黙ってて!!」
ピシャリと言われて、鉄平は押し黙った。
それと同時に、スフィンクス・グリドールと対峙した時のような寒気に襲われていた。
(寒気だと?)
身体中を百足が這うような不快感。
それは、スフィンクス・グリドールではなく、自分を助けに来てくれた市原架陰から発せられるものだと気がついた。
分かりやすく表現するならば、これは【怒り】だ。
腹の奥で煮えくり返っていた怒りが、熱気が、周りの木々を焼かんとばかりに漂っているのだ。
「鉄平くんは・・・、僕の友達です。山田さんも、一緒に戦ってくれた大切な人です・・・!! その二人に、何をしているんですか?」
「やだなぁ・・・」
スフィンクス・グリドールはとぼけた。
「僕は単純に、『市原架陰くんについて』教えてくれ。と、この鉄平くんに聞いていたんだよ。だけど、教えてくれないから、つい、力がこもっちゃってね・・・」
「・・・っ!!」
架陰は、下唇を噛み締めた。
スフィンクス・グリドールは、目元に影を指すと、舐めるように言った。
「あまり、君とは会いたくなかったんだ。まあいい。作戦変更だ」
「そうですか・・・」
架陰は、ちらりと振り返って、後方の木の裏に隠れている、薔薇班・班長の【城之内花蓮】の心配をした。
(花蓮さん、絶対に隠れていてくださいね・・・)
木陰から架陰を見守る城之内花蓮も、気が気でない状態だった。
(架陰様・・・、一人で四天王様の方へと乗り込んで行った・・・、大丈夫かしら・・・)
えぐれた地面。なぎ倒された巨木。
全て、このスフィンクス・グリドールの力だと言うのなら、まともにやり合うのは危険。
やはり、鉄平達と同じように逃げるべきか?
(いや、逃げきれないな・・・)
架陰は腹を括った。
右足を半歩引いて腰を落とす。
名刀・赫夜を中段に構えた。
(ここで、倒す!!)
「ちょっと、やめておくれよ」
スフィンクス・グリドールは、ヘラッと笑って、殺気立つ架陰をなだめた。
「僕は戦うつもりは無いんだ。君とお喋りがしたいだけなんだ。ついでに、君の背後の木に隠れている【城之内花蓮】ちゃんについてもね」
「っ!」
気づかれていた!?
「君にも教えてあげるよ。僕には、全てが見えているんだ・・・」
やはり、無駄な小細工は無用。
架陰は、唾を飲み込んだ。
そして、言葉を絞り出した。
「じゃあ、僕からも教えてあげます。いや、僕からの質問です・・・」
「何かな? 僕は科学者だからね。知っていることはなんでも教えてあげられるよ?」
「そうですか・・・」
「どうしてあなたから、【悪魔の堕慧児】の気配がするんですか?」
第91話に続く
第91話に続く




