西原外伝 その④
雲の上に立つこと
空の下で死ねること
星々となって煌めくこと
貴方の手を握ること
4
はるか昔より、双子、または三つ子が、忌み嫌われている。ということを、とある文献で読んだことがある。
というか、私が仕えてきた家々の殆どに、その話は付き物だったのだ。
なぜ、双子が忌み嫌われるのか。
単純に言えば、「相続争い」が起こってしまうから。
例え一族にどれだけ兄弟姉妹がいようと、跡を継ぐのは、殆どが長男だ。
しかし、双子はこの概念が曖昧になってしまう。
どれだけ数分先に生まれようが、同じ腹、同じ羊水の中に浮かんでいた者たち。やはり、そこに優劣をつけることは難しく、大人になれば、家の相続権を争ってしまう。
それは、世間体的にも、風水的にも良いものとはされない。
さらにいえば、【畜生腹】という言葉がある。
畜生腹。つまり、家畜。
牛や豚、さらに、犬や猫は、一度に大量の子供を産むことができる。
つまり、一度に二人が生まれてくる双子は、その家畜と同じということだ。
だから、忌み嫌われる。
私は、そのことを知っていた。双子が忌み嫌われるということを。
しかし、まさか、城之内家でその話が浮上するなんて、思っていなかったのだ。
※
蓮花様が双子を出産された。ということは、世間には公表されなかった。そもそも、「生まれたこと自体」知らされなかった。
私は、蓮花様が出産されて、一週間程経った時に、御館様に呼ばれていた。
御館様は、広い部屋のソファに腰を掛け、苛立ったように目の前の机を指でコンコンと叩いていた。
第一声。
「大変なことになった 」
私は、できるだけ知らないふりをした。
「なんのことでしょうか?」
「蓮花の子供の事だよ」
「ああ、この度はおめでとうございます」
「めでたいわけが無い」
御館様ははっきりとそう言った。
私は、胸に裁縫針を大量に突き刺されたかのような感覚に襲われていた。
ああ、この人は、そういう人だったのか。
世間体を気にして、昔からの風習を気にして、生命の誕生を素直に喜べない。
この人の目の先には、生まれてきた子供が巻き起こす、終焉を見ている。
「ああ、まさか、蓮花が畜生腹とは思わなかった。双子は不吉の対象だ・・・」
「御館様・・・、失礼ながら・・・」
私は御館様に、それとなく言った。
「私は、このまま、お子様の教育係をした方がよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ」
即答の御館様。
「お前には、前々から言っていたように、子供たちの教育係をしてもらう・・・」
私は胸を撫で下ろした。
双子だから。と言って、見捨てることはしないらしい。
御館様は、「しかし」と言って続けた。
「西原、お前には、もう一つの仕事を課す・・・」
「なんでしょうか?」
「双子の名前は・・・、【花蓮】と、【紅愛】にした・・・」
「立派な名前です」
私はにこやかに、双子の名前に心を踊らせた。
しかし、次に放った御館様の言葉が、私の祝福の心を、一瞬にして凍りつかせる。
「おまえには、花蓮と紅愛、この二人のどちらが、『時期城之内当主に相応しい』か、見極めてもらう・・・」
「・・・・・・」
私は、言葉を失った。
なんとか、絞り出す。
「ど、どういうことでしょうか?」
「双子は、城之内家にはいらない。必要なのは、ただ一人の『跡取り』だ」
「い、意味が、分かりません・・・」
震える声でそういうと、御館様は、苛立ったように眉間にシワを寄せた。
「分かるだろう? つまり、『一人に絞る』ってことだよ。双子は、いずれ、一族の汚点となる。だから、私の手で引き裂くんだ。西原・・・、頼む。私の願いを聞いてくれ。花蓮と紅愛。優秀な方を、城之内家の時期当主にする。そして、選ばれなかった方は、養子に出す・・・」
「養子?」
「ああ、簡単に言えば、『この家から追い出す』ということだ・・・」
「ま、待ってください・・・」
私は、上擦った声で、御館様の言葉を遮った。
「失礼ながら・・・、御館様・・・、そのようなことは・・・、いささか・・・」
「西原、頼む」
御館様は、私の言葉に言葉を重ねてきた。
「私もわかっている。これは、【人道】に反するということだと・・・ 」
「ならば、どうして・・・」
「それが、決まりだからだよ。西原。これが、決まりなんだ。はるか昔から続いてきた決まりだ。流れない水は腐る。とは言うものの、私たち名家の場合、【伝統】は残していかなければならない。つねに、美しい状態でなければならないんだ。だから、そこに【畜生腹】や【双子】なんて汚点は存在してはいけないんだ」
御館様は、そこまでまくし立てると、私には頭を下げた。
「頼む。西原、私はお前を信用しているからこそ、お前にこうやって頭を下げているんだ。子供たちの面倒を見てくれ。そして、【時期城之内当主】に相応しい方を、選んでくれ・・・」
私は、答えに詰まってしまった。
その⑤に続く
その⑤に続く




