向日葵班 その③
拳で語り合う
3
「さあて、お返しじゃよ!!」
大男より放たれた拳を、架陰は胸の前で交差した腕で受け止めた。
ミシッと骨が軋む。
足が数センチ下がった。
歯を食いしばって耐えようとしたが、無駄であった。
「くっ!!」
「ふうんっ!!!」
男が腕を振り切る。
その瞬間、架陰の軽い身体は、いとも簡単に吹き飛ばされる。
木々をなぎ倒し、草木を散らし、地面をえぐり、勢いを殺せぬまま、遥か彼方へと飛んでいった。
「うわあああああ!!!!」
空中では体勢を整えることも出来ない。
「このっ!!」
架陰は腰に差した【名刀・赫夜】の柄に手を触れた。
(赫夜をどこかに突き立てて、勢いを弱める!!)
そう画策して、刀をぬこうとした。
その瞬間、架陰の目の前に、あの向日葵班の男が現れた。
「なにっ!?」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
男は、空中で器用にバランスを整え、両手を合わせ、拳を握った。
それを、架陰の後頭部に叩き込む。
「はあっ!!!」
ゴキッ!!
「がはっ!!」
架陰は防ぐこともできず、男の攻撃をまともに喰らった。
後頭部に衝撃を受けた瞬間、視界で白い火花が弾け、世界が暗転した。
そのまま撃ち落とされ、地面に激突した。
ドンッ!!!
と、土煙が立つ。
架陰の身体は、周りの土や雑草を押しのけ、地面にぽっかりと開いてしまったクレーターの中央に、倒れていた。
「・・・・・・」
脳震盪を起こした架陰は、白目を剥いて、ピクピクと痙攣をしていた。
勝利を確信した男は、地面に降り立ち、ゆっくりと架陰に近づいた。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 終わりじゃよ!!」
架陰は動く様子はない。
あの一撃で、完全に意識を狩りとることに成功した。
そのまま、柔道着の袖から覗く、毛むくじゃらの腕を振り上げ、トドメといこうとする。
その瞬間、架陰の目がグルンと動き、黒目が男を見た。
「っ!?」
架陰はビクンと動く、低い姿勢から、大男の足に自らの脚を絡め、体重を掛けて関節技に持ち込もうとした。
「甘い!!」
男は、架陰が掛けてきた別方向に体重を乗せ、その関節技を相殺して封じた。
そのまま、カウンターとばかりに、架陰を地面に叩きつける。
「がはっ!!」
「終わりじゃよ!!」
これ以上無駄な抵抗をされないように、素早く意識を奪おうとした。
しかし、死角から架陰の【魔影】の一部が飛来してきて、男の左目に直撃した。
「ぐっ!!」
いきなり視界の左半分か黒くなったことに怯んだ向日葵班の男は、目を抑える。
その隙に、架陰は地面を転がって、男から距離をとった。
何とか立ち上がり、腰の刀を抜く。
「あなたは!! 何者ですか!!」
「ワシか?」
やっとまともに話すようになった向日葵班の大男。
自分の、無精髭を指さして、こう宣言した。
「わしは、【向日葵班】の【班長】を務めておる、【兵蔵】じゃ・・・」
「は、班長・・・!?」
向日葵班の男が、一番強い階級である【班長】と知った瞬間、架陰の背筋がすっと冷たくなった。
兵蔵は、自分よりも二回りも小さい架陰に、深深とお辞儀をした。
「お主の噂は知っとるよ。UMAハンターになったばかりだと言うのに、【吸血樹】や、【バンイップ】、更には【白蛇】までも倒したと聞く・・・」
「・・・・・・、は、はい・・・」
「いわば、この大会の【ダークホース】というわけじゃな・・・、なるべく素早く仕留めたいところだったが、やはり一筋縄ではいかないようじゃな・・・ 」
そういうと、今度は奇襲などではなく、架陰の正面に立ち塞がり、片足を軽く上げて、臨戦態勢を整えた。
「改めて、手合わせ願おう。ワシは、向日葵班の班長、【兵蔵】・・・。これより、お主を倒すべく、攻撃を仕掛けさせて頂く・・・」
「ぼ、僕は・・・、桜班の【市原架陰】です・・・」
架陰もまた、額に冷や汗を浮かべながら腰の刀を抜いて、兵蔵の方へと向けた。
(この人、すごくやばい人だ・・・)
兵蔵は至福と言いたげに、ニンマリと笑った。
「さあ、一撃を放て。さきほど、奇襲をしたことへの詫びじゃ・・・」
「一撃を?」
架陰は、刀を中段に構えた。
「行きますよ!!」
地面を蹴って、兵蔵に斬りかかった。
兵蔵は笑ったまま、何もしない。
架陰はそのまま、兵蔵の右肩に向かって刀を振り下ろした。
ガツンッ!!
と硬い感触が、架陰の手に残る。
「なっ!!」
架陰の攻撃は、明らかに兵蔵に命中していた。
しかし、刃が通っていなかった。
柔道着を切り、薄皮の表面で止まっていたのだ。
「さあ、今度はワシの番じゃな・・・ 」
そう言って、兵蔵は腕を振り上げた。
「くっそ!!」
架陰は兵蔵から離れようとしたが、それよりも先に兵蔵が腕を放った。
再び、兵蔵の一撃が架陰の胸に命中した。
「がはっ!!」
架陰は再び吹き飛んでいった。
第70話に続く
第70話に続く




