精神の激闘 その②
コツコツカツコツ
迫り来る革靴の音
カツカツコツコツ
遠ざかる蹄の音
2
「ワシは死なん!!!」
悪魔はそう叫ぶと、両腕で手刀を作った。
その予備動作を見た時、対峙する三人の背筋がスっと寒くなった。
本能的に悟る。
あの一撃が来るのだと。
「【魔影刀】・両刀!!!」
漆黒の魔影が、悪魔の黒い腕に纏わりつき、黒い刃と化した。
架陰が攻撃時に使用する魔影の形態の一つである【魔影刀】を手刀で再現したもの。
だが、その鋭い見た目から察するに、架陰のものよりも威力が高いのだと分かる。
「はあっ!!!!」
悪魔が地面に向かって手刀を振り下ろした。
「【悪魔大翼】!!!!」
その瞬間、腕から放たれた魔影が、蝙蝠の翼のような巨大な斬撃と化して、三人に迫った。
「こいつは夜行を倒した技だ!! 喰らってただで済むと思うなよ!!!!」
斬撃は、岩盤を割り、辺りの瓦礫を撒き散らして三人に迫った。
攻撃範囲が広すぎる。
「全員退避!!!」
鑑三の支持で、アクアと味斗は地面を蹴って大きく回避した。
空振りをした魔影の斬撃が、誰もいない奥の壁に直撃する。轟音と共に壁が真っ二つになり、土や岩が飛散した。
「なんて威力なの!?」
全神経と気力を捧げて躱したアクアだったが、こんな恐ろしいもの、何発も防ぐ自身など無かった。
それをいいことに、悪魔は再び手刀を振る。
「【悪魔大翼】!!!」
今度は横薙ぎの一閃。
約百八十度に広がった斬撃が三人に迫る。
このままでは、胴体と下半身が分裂してしまう。
「上に飛べ!!」
一斉に上に飛んで回避。だが、悪魔の思う壷であった。
「上なら身動きがとれまい」
間隙を縫うようにして、空中の鑑三との距離を詰めた。
「ちっ!!」
迫り来る悪魔に身構える鑑三。
右脚にエネルギーを蓄積させ、悪魔が放った拳と衝突させた。
ドンッ!!!!
互角に思えたのは一瞬。
空中では踏ん張りが効かない。だが、悪魔は足裏に魔影を纏わせ、常時空気を反発させていた。
うち負けたのは、鑑三だった。
「くっ!!!」
瓦礫の山に墜落する。
目を開けた瞬間、上空から悪魔が襲撃してくるのが分かった。
「くくく!! これで終わりだ!!」
鋭い爪を、鑑三の心臓部に突き刺そうとした瞬間、横からアクアの水砲が飛んできた。
「っ!!」
水の塊が悪魔を吹き飛ばす。
直ぐ様、味斗が【コールドミントタブレット】を口に含み、冷気を吐き出した。
「【氷息】!!!」
氷点下の冷気が、悪魔に直撃して、周りのアクアの水ごと凍り付かせる。
(舐めるな!!)
悪魔は氷の塊の中で力を込めた。
こんな氷で、足止めが出来たと思ったか? 直ぐに破壊して、脱出してやる。直ぐに、貴様らの頭をねじ切ってやる。
悪魔を閉じ込めた氷の塊に大きな亀裂が入った。
(あと少しだ・・・)
悪魔はさらに力を込める。
亀裂が広がり、塊全体に行き渡った。
(よし、抜け出せる!!)
その瞬間、悪魔の身体に、ピキッとした衝撃が走り、全身の力が抜けた。
(何っ!?)
身体が動かない。腕が動かせない。この氷を、破壊することが出来ない。
氷越しに、アクア、味斗を見る。二人とも、突然抵抗を辞めた悪魔に不思議そうな表情を見せていた。
不思議に思いたいのはこちらの方だ。
(なぜ、身体が動かない!?)
あの二人がやっている訳ではないようだ。当然、鑑三もやっていない。
では、悪魔の身体を動かないようにしたのは、一体誰なのか。
(まさか・・・)
悪魔の脳裏に、先程自分が精神と身体を乗っ取ったはずの男の顔が浮かんだ。
(架陰が、内側からワシを攻撃しているのか!?)
※
「そうだ、架陰!! その調子だ!!」
暗闇の世界。正確には、架陰の身体を乗っ取った悪魔が、放り捨てた架陰の精神が辿り着いた場所だった。 そこで、架陰と、ジョセフが必死の抵抗を見せていたのだ。
「悪魔が、氷漬けにされて力が衰えた!! 狙うなら今だよ!!」
ジョセフの合図で、架陰は元の身体に戻るために抵抗を開始する。
暗闇に向かって、必死に精神を統一させるのだ。
「僕は僕。僕の名前は、市原架陰・・・」
自分は自分であると言うことを、必死に自分の脳に身体に言い聞かせる。
こんなもので、悪魔に奪われた自分の身体を取り戻し、魂もその身体に戻ることができるのか。
架陰は、最初は信用していなかったが、思いのほか効果を発揮したようだ。
悪魔の動きを封じることが出来た。見ていないのではっきりとは分からないが、そんな気がした。なんせ、悪魔が操っているのは、自分の身体なのだから。
「僕は、元の世界に戻る!! 悪魔!! 君には絶対に邪魔をさせない!!」
その③に続く
その③に続く




