第9話 架陰とカレンの共闘 その②
我神楽ヲ舞ワセム
我ガ舞 坂巻テ差シ昇リ
炎天ヲ焦ガス焔ノ如キナリ
2
「あの、西原さん」
離れた場所から、架陰とカレンの共闘を見ていた翔太は、ふと隣の西原に尋ねていた。
「どうして、カレン・・・さんは、風を操れるんですか?」
「そうですねぇ・・・」
西原は顎の髭を撫でた。
「簡単に言えば・・・ 特殊素材ですよ」
「と、特殊素材?」
小学生の翔太にはピンと来ない単語だ。
西原も、小学生・・・、更には一般人である翔太に、UMAハンターについての情報を教えるべきか暫し悩んだ。
だが、良心が先行したのか、結局口を開く。
「あの扇子には、『ローペン』というUMAの素材が使われています」
「ローペン?」
「はい。そのUMAは、風を自在に操る力を持っていました。そのため、ローペンの素材が使われた武器も、ローペンの能力を受け継ぐのです」
翔太は一応理解したものの、やはり腑に落ちないような思いを抱えたまま、カレンの方を見やった。
「UMAハンターか・・・」
翔太は見てしまったのだ。友人が鬼蛙に捕まり、溶かされていく様を。
そして、自分はそれから逃げた身だと。
鬼蛙は、架陰とカレンとの戦闘に夢中で、自らの住処・・・、沼への注意が散漫になっていた。
その住処には、囚われた友人の死体があるはず。
「・・・、っ!」
翔太は下唇を噛み締めた。
「今、助けに行くよ・・・」
3
「風神大翼!」
カレンが放った突風が、空中に飛散した消化液を薙ぎ払った。
「いまよぉ!」
「はい!!」
架陰が斬り込む。
鬼蛙が跳ぶ。
「!」
すぐ様カレンが翼々風魔扇で風を発生させ、架陰の身体を空中に逃がす。
「ありがとうございます!」
架陰と鬼蛙の衝突は回避された。
鬼蛙は身を翻すと、空中の架陰目掛けて魚雷の如く跳んだ。
「くっ! またか!!」
架陰は空中で体勢を整えた。
鬼蛙が迫る。
すれ違いざまに、一閃する。
鬼蛙の右目から水分と混じりあった血が吹き出した。
「やった!」
架陰が狙ったのは、粘液の分泌が無い、鬼蛙の眼球だった。
視界の右半分を失った鬼蛙は「うぉぉおおおおおおんっ!!!」と悲鳴を上げて、沼の縁に墜落した。
泥の水柱が上がる。
「ぐふぅう・・・」
「よし!!」
架陰が着地する。
カレンは、機転を効かせた架陰を褒めた。
「ナイスよぉ!」
そして、翼々風魔扇に風を集めていく。
架陰は、自分の頭が冴え始めていることを感じていた。
視界良好。身体に血液が回り、体温を一度上げる。肺に取り込む湿気を含んだ重ったるい空気さえも美味に感じる。
鬼蛙の一つ一つの動きに、どう対応していいのかわかった。もちろん、これは架陰一人の力ではない。
(カレンさんのサポートか・・・)
桜班での役割。もし、響也と架陰が、全線で戦う切り込み隊長としたら、クロナはW-Bulletを構えて、後方から狙撃する狙撃手。
ならば、カレンはどうだろうか。
恐らく、クロナよりは前線で、響也架陰よりは後方に立つ、「中距離型」のサポート役だ。
カレンが発生させる風が心強い。
「行けるぞ・・・」
架陰は刀を中段に構えた。
刀の握りすぎで、指の関節が痛む。だが、アドレナリンが全てを消していく。
踏み込みは強く。
斬撃は繊細に。
カレンを信じて、突き進む。
「行きます!!」
架陰が斬り込む。
鬼蛙は弱っている。このまま攻撃を叩き込んで倒す。
「ぐふぅ!!」
鬼蛙の口が膨らんだ。
(また消化液か!?)
一瞬身構えたが、立ち止まらない。カレンの風が消化液から防いでくれると信じていた。
鬼蛙が何かを吐き出す。
「!?」
それは、消化液ではなかった。架陰の肩を熱いものが走る。
「舌!?」
鬼蛙の口から舌が発射されたのだが、伸縮する舌は鋭利な形となり、架陰の肩を貫いたのだ。しかも、かなりの速さだ。
「ぐっ!!」
腕の力が抜けて、架陰は危うく刀を落としかける。
「架陰くんっ!!」
カレンが翼々風魔扇で発生させた突風で架陰を攫う。ひとまず、鬼蛙から距離を取らせるつもりだった。
しかし、風に吹かれて飛んでいく架陰に向けて、鬼蛙が弾丸のようなスピードと鋭さを持った舌を発射させた。
「!?」
架陰の腹に鬼蛙の細い舌が突き刺さり、背中から飛び出した。
「がはっ!!」
架陰が吐血する。
(嘘でしょぉ!)
カレンが心の中で動揺した。
(風の影響を受けないほどのぉ・・・、『貫通力』ぅ!?)
これが、鬼蛙の奥の手だった。
体重を使った押し潰しもしない。
消化液も使わない。
反応できないほどのスピードと、風の影響を受けない貫通力で、確実に仕留める。
「くっ!」
架陰は地面に着地した。
鬼蛙の舌が細いのが幸いだ。あの一撃だけで絶命することはなく、直径1センチ程の穴から、黒い血が流れ落ちた。
「くっぅ・・・、痛い・・・」
肩からも血が流れている。だが、腹の傷の比ではない。
「ごめんっ!!」
カレンが遠くから謝った。
「サポートできなかったわぁ」
「気にしないでください・・・」
架陰は刀を杖代わりに、身体を支えた。やはり、右肩が痛いのは耐えられない。
「はっ」
ぼーっとしていると、再び鬼蛙の放った舌の槍が架陰の腹を貫いた。
「がはっ!!」
舌を口の中に戻した鬼蛙は、さらに三撃目。
(かわせ!)
架陰はほぼ勘でしゃがみこみ、攻撃を躱す。そして、そのまま刀を振った。
だが、舌がうねる。
(刃が、通らない!!)
そこに、鬼蛙の突進。
緩急ある攻撃に、カレンすら対応が遅れた。
「架陰くん!!」
「っ! くそっ!!」
架陰は身体を動かくこともままならず、吹き飛んだ。
架陰が地面に激突するよりも先に、カレンが架陰を受け止めた。
「大丈夫っ!?」
「ああ、はい。大丈夫です・・・」
架陰は手を上げて「大丈夫なフリ」をした。実際は肩に一つ、腹に二つ穴が空いて、全く大丈夫ではなかった。
(くそ・・・。どうすれば勝てるんだ!?)
その③に続く。
その③に続く




