半人間半UMA その②
僕が蜘蛛になり
床下を這いずり廻って
ゲテモノの体液を吸い尽くしたとして
それでも貴方はキスをしてくれるでしょうか?
2
「さてと・・・」
一通りの説明を終えた笹倉は、リラックスするように息を吐いた。
「じゃあ、架陰。お前にはまず、王の力を返して貰わないといけない」
「王の力を、返す?」
なんのことを言っているんだ?
と思った瞬間、笹倉が指を鳴らす。
奥で、「ギギギギ」と鉄が軋むような音がして、扉が開いた。
そこから、三人の人物が歩いてくる。
一人は、車椅子に座り、全身、ミイラのように包帯を巻いている。体のラインからして男だろう。
その車椅子を押すのが、侍の着物を見に纏い、髪を結っている男。腰には、架陰と同じ、装飾がなされていない刀が差さっていた。
そして、その隣で身を縮こませながら歩く男。目が充血して赤く染まり、真一文字に結んだ口から八重歯が覗いている。童顔からして、推定年齢は、16歳ほど。
「彼らは?」
「無礼は働くなよ。あれが我らが王だ」
その三人が出てきた瞬間、騒いでいた観客席が一瞬で静まり返った。
笹倉が、車椅子の包帯男に向かって膝をつく。
「王の命令通り、【悪魔】の能力を使う男を連れ去って参りました・・・!」
包帯男は、ゆっくりと手を挙げる。
「御苦労、笹倉・・・」
まるで喉を火傷したかのように、嗄れた声だった。
包帯男は、包帯の隙間から覗く黒い眼球を架陰に向けた。
(何こいつ・・・、すごく気持ち悪い・・・!)
架陰は思わず後ずさった。
その瞬間、車椅子を押していた侍姿の男が音もなく動き、架陰の背後に回る。
「・・・、王が喋っている。動くな」
「っ!?」
(このひと、速い!?)
包帯男は、車椅子からよろよろと立ち上がった。
架陰に近づいてくる。
ハアハアと、荒息が聞こえた。
「サテト・・・、僕ノ能力ヲ、返シテ貰ウヨ・・・」
包帯だらけの手が、架陰に伸びてきた。
後ずさりたくも、侍男が背後を取っているため、動けない。
「っ!!」
架陰は為す術なく、その包帯男に頭を掴まれる。
(嫌だ!!)
そう念じた瞬間、架陰の額と、包帯男の手の間で、衝撃波が発生した。
「っ!?」
バチッ!!
と黒い閃光が弾け、包帯男の手がだらんと下がった。
一同、何が起こったのかわからない。
笹倉、侍男、そして、包帯男でさえも、息を呑んでいた。
「どうして王が能力を奪えねぇんだ!?」
「奪えない?」
まさか、奪う気だったのか?
包帯男は、黒焦げた手のひらの包帯を眺めた。
そして、満足気に呟く。
「オモシロイネ・・・」
「お、面白い?」
「ウン、似テイルケド、違ウ感覚ダ。恐ラク・・・、何カノ能力ト、混ザリアッテシマッテイルネ・・・」
包帯男の膝がカクっと折れ、よろける。
侍男がまた音もなく地面を蹴り、包帯男を支えた。
「さあ、車椅子におすわりください・・・」
「ワルイネ、鬼丸・・・」
(あの人、鬼丸って言うのか・・・)
さしずめ、彼も【悪魔の堕慧児】と言ったところだろう。
包帯男は、車椅子に座り直した。
「マア、イイヤ。コレモ、想定内ダカラネ・・・」
(想定内・・・?)
「女郎・・・、頼ンダヨ・・・」
女郎と呼ばれて、車椅子の横で静かに待機していた少年が動き出す。
笹倉と、鬼丸。そして、包帯男が後退した。
「彼ハマダ・・・、能力ヲ使イコナシテイナイネ・・・」
「は・・・」
鬼丸が恭しく頷いた。
「では、【女郎】を使って、能力を引き出すというのですが?」
「アア・・・、ソウスルコトニシタ・・・、キット、堕慧児ノ血ト、王ノ血ガ混ジリアウト、能力ハ覚醒スル・・・」
架陰の全身が総毛立った。
今から、何が始まるのか、本能的に予測が出来た。
「架陰・・・、君ノ相手ハ、ソノ女郎トイウ男ガ相手ヲスルヨ・・・」
包帯男に指名されて架陰の相手になった女郎は、小さい身長ながら、流暢にお辞儀をした。
「僕は、女郎と申します。悪魔の堕慧児でございます・・・」
(この子も・・・、悪魔の堕慧児)
つまり、笹倉と同じようにUMA化をすることができるということ。
(一体、どんな能力なんだ?)
女郎は、下を向いたまま話を続ける。
「今から、貴方の能力の覚醒の助力を致します。さすれば、貴方の力は格段に上がり、混ざりあった力と分裂することができる・・・」
「分裂・・・?」
理解ができない。
だが、架陰の思考を置き去りにして、女郎は臨戦態勢を整えた。
「私は、唐草のように、能力をひたむきに隠すような真似は致しません。最初から、能力を覚醒し、全力で貴方の戦わせていただきます!」
女郎が見に纏っていた黒布を脱ぎ去る。
タンクトップのような革の鎧を着ていた。腕はそこまで太くなく、健全な高校生男子のような印象を受ける。
「能力・・・、覚醒」
笹倉がガーゴイルに変化した時のように、女郎の身体に異変が起こった。
パキパキ、メキメキと骨が軋み、肩甲骨が泡立つように膨れ上がる。
「【鬼蜘蛛】!!!」
ブチブチッ!! ブチブチッ!!
肩甲骨から、黒と黄の縞模様の肢が生える。
その数、四本。元から生えていた両手両足と合わせれば、八本だ。
女郎の口が耳元まで裂け、白牙が顔をのぞかせる。
額に、ビー玉のような翠の眼球が六つ浮き出した。
喉元から、茶の毛が生える。
「・・・! こいつは!!」
「これが私、女郎の能力・・・、【鬼蜘蛛】でございます・・・!」
それは、いつの日か架陰が遭遇した、【鬼蜘蛛】の姿と類似していた。
その③に続く
その③に続く




