606.姫様のはじめて
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サトニウム(仮)、地上二階。
そのエレベータホールに、俺はマーガレットと一緒にいた。
「あの人達は?」
「いますわよ。ラト、ソシャ、プレイ、ビルダー」
「お呼びでしょうか、姫様」
マーガレットが呼ぶと、いつもの如く何気なく現われて、彼女の前でひざまずく四人の忍者騎士。
現われるのが速すぎて、俺でも分からなかった。
いや、速いのかどうかすらも分からない。
本当に「パッ!」と瞬間移動の如く現われたからだ。
「いましたわ、リョータ様」
「ああ、ありがとう。ごめん、特に用はないんだ」
「もういいですわ」
「御意」
現われた時と同じく、パッと消える四人。
あれと真剣に戦ったらどうなるんだろうな、なんてちょっとだけ興味をもった。
「それにしても……嬉しいですわ」
「うん、嬉しい?」
「はい。リョータ様の大事な所にまた入れてもらえるなんて」
「いや、それはこっちの台詞だ。協力してくれてありがとうな」
「とんでもありません! わたくしの今があるのはリョータ様のおかげ。リョータ様のためならなんでも致しますわ」
「ありがとう」
さくらが居れば「ん? いまなんでも」とか茶々を入れてきたところだろうが、今日は俺とマーガレットの二人っきりだ(あの四人もいるけど)。
俺はさっそく話を進めることにした。
「今日は、モンスターを倒してみて欲しいんだ。いわばテストみたいなものだから、あまり気負わないでいい」
「頑張りますわ!」
マーガレットはそういい、大剣を持ったまま意気込んだ。
「じゃあ……よろしく」
俺はそう言うと、モンスターを召喚した。
それはスーツをビシッと決めた、若い新入社員だ。
スーツはパリッとしてて、髪型もちゃんとしてる。
何より、目がきらきらしている。
「半年と持たなかったけどな」
「はい? なにかおっしゃいまして?」
「いや、なんでもない」
苦い想い出がつい口をついて出たのを苦笑いでごまかして、マーガレットに向き直る。
「とりあえずこいつと戦ってみて? 勝敗は気にしなくていいから」
「分かりましたわ」
マーガレットは大剣をいつものように重そうに引きずりながら、新入社員に向かっていく。
慣れない先制攻撃をしかけて――それを避けられ、カウンターをくらう。
「ひゃあ! ……あ、あれ?」
新入社員に攻撃を食らって吹っ飛んだマーガレットは、不思議そうに自分を見た。
「どこも痛くありませんわ?」
「ああ、そいつは魔法攻撃だから、見た目は殴ってるように見えるけど、属性は魔法だから」
「ああっ、そういえば今日は強めの魔力嵐」
「うん」
俺は深く頷いた。
そう、今日の天気は魔力嵐。
しかも強めで、ダンジョンの中まであらゆる魔法が効かないレベルのものだ。
それは冒険者側だけじゃなくて、モンスター側にも適用される地形効果。
魔力嵐を利用して、モンスターを魔法攻撃にしたことで。
マーガレットにダメージが出ないようにした。
「これで怪我の心配はゼロだから」
「さすがですわリョータ様」
「ということで、安心してもう1回おねがい」
「はい!」
マーガレットは大剣を持って、果敢に新入社員へと向かって行った。
それを眺めながら、ちらっとまわりを見る。
あの四人……まったく出てくる気配がなかったな。
俺がやってる事を完全に読み切っていたのか、すごいな。
その一方で、マーガレットは新入社員と戦っていた。
まだ、戯れている、というレベルだ。
戦闘能力がオールFのマーガレット、もともと戦闘には向いていなくて、ドロップオールAを活かしたトドメ特化型の冒険者だ。
それが最初から戦って、圧倒的な不利を強いられた。
それでも、徐々になれて来た。
戦闘経験がまったくないわけじゃないのだ。
戦う事自体になれてるし、経験もある。
その上で、ノーダメージで戦い続けることができる状況。
マーガレットは徐々に新入社員の動きについて行けてきた。
それは、動きは遅いけど、「こう来たあとにはこう来る」という、覚えゲー的な動き方だ。
それは俺がやろうとしている、能力の弱い冒険者でもモンスターを倒せるガイドムービーのコンセプトそのままの動きだ。
無傷で戦い続けて数時間、マーガレットは、新入社員の動きを全部覚えて、独力でそいつを倒す事ができた。
「やった! やりましたわ!」
「お疲れ」
「ありがとうございますわリョータ様!」
「え?」
「こんな風に一人でモンスターを倒せたの、初めてですの!」
「ああ」
「本当に、ありがとうございます!!」
マーガレットは俺の手を取って、熱烈な目とともに、強い感謝の言葉をかけてきたのだった。




