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「オタク」になれないオタク的な人たち

作者: 山田マイク


 80年代に「オタク」という言葉は周知されていきました。

 漫画やアニメ、その同人誌などを愛好する人たちが、自虐的に自らの趣向を揶揄し、お互いをそう呼ぶようになったんです。

 最初は身内同士のネタだったわけですが。

 コミケの隆盛やサブカルチャーの普及拡大に伴い、世間から彼らは大変な偏見、差別を受け、その蔑称として「オタク」は爆発的に社会に拡がりました。

 オタクは気持ち悪い。

 市井は漫画、アニメ、ゲームの愛好者たちにそうレッテルを貼り、隔離しようとした。

 「オタク」は長い間、害悪として肩身の狭い想いをしてきました。

 また、そうした偏見に晒され、やがて彼ら自身も、自らを社会のはみ出し者として自己憐憫に浸るようになっていったわけです。

 

 しかし、この「オタク」という人種は、そもそももっと誇り高い人たちだったことを御存知でしょうか。

 「オタク」という言葉が使われるようになる前。

 「好きなことを偏執的に突き詰める人たち」はSFのジャンルにたくさんいました。

 SFファンダムと呼ばれたSF愛好者たちです。

 彼らはSFというものに魅せられ、同人で活動し、様々な企画を行っていました。

 世間からいくら白い目で見られようとも、「自分たちは好きなものを突き詰めようとしているのだ」という矜持を持ち、いくら叩かれ冷笑されようとも、決して膝を折らなかった。

 自分たちの趣味趣向に誇りを持っていたわけです。

 

 そのようなSFファンダムの活動が、やがてSFというジャンルを超え、あらゆるジャンルのアニメや漫画にまで拡大していった。

 それが「オタク」の起源です。

 つまり、「オタク」というのは、自虐的にコソコソ生きる人たちの自虐ネタなんかではなく。

 自分たちの趣味に誇りを持ち、胸を張って活動していた人たちに、その魂は由来するわけです。


 そして現在。

 長い時間をかけて、オタク趣味は市民権を得ました。

 ネットが普及し、時代が変化し、サブカルチャーが社会に受け入れられた。

 芸能人が「オタク」を自称し、政治家が「オタク」文化を推奨し、いっそステータスであるかのような地位を獲得しました。


 しかし。

 僕は、今のオタクはもう、オタクではないと思うんです。

 

 オタクとは、「好きなものは好きだ」と突き詰めようとする人たちです。

 他人なんて関係ない。

 自分が「面白い」と思ったものを「面白い」と追いかける人たちのことです。

 今のオタクたちは、「他人の評価」ばかり気にしてる。

 世間でどれくらい評価されてるのか。

 どれくらい売れてるのか。

 どれくらい金を産んでるのか。

 みんなが知ってるのか。

 話題になってるのか。

 それを「好き」の基準にしてる。

 他者に「価値観」を委ねている。


 こんなもの、オタクとは呼べません。

 むしろ、対極にいる存在です。

 オタクは、「自分」なんです。

 「自分が好きかどうか」

 それが全ての動機なんです。

 自分の「好き」が全ての原動力なんです。

 力の源なんです。

 他者なんて関係ない。

 俺が面白いと思うから追いかけるんだ。

 俺が素晴らしいと思うから活動するんだ。

 常に自分。

 自分にるのがオタクなんですから。

 他者に好き嫌いの基準を委ねる人はとてもオタクとは呼べない。

 そんな気がします。


 僕は今一度、本来の「オタク文化」に立ち返ることが大事なんじゃないかと思います。

 このネット社会ではとても難しいことなのかもしれせんが。

 今一度、価値観の基準を「自分」に直す必要があると感じる。


 そうしてこそ、文化の発展はある。

 「個」の確立はある。

 真の「オタク趣味の楽しさ」はある。

 

 と、僕はそう思うんですけどね。


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