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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第74曲 全国大会。再会。

 県大会は県庁所在地の公民館ホールで行われた。


 さすがに県大会ともなるとレベルが高い。


 あれからわたし達もさらに練習を重ねてかなり完成度を高めてきたけど、他の学校も聴いていてはっきりわかるくらいの実力。


 これは気を抜かず、今まで以上の気持ちを持ってぶつからないと太刀打ちできないな。


 気持ちを引き締めなおし、緊張気味のクラスメートひとりひとりに声をかけて鼓舞していく。


 肩に手を置いていままでの自分たちの努力を信じよう!って呼びかけたらみんな笑いながら声を揃えて「ゆきちゃんを信じる」って。


 もっと自分を信じてってば!


 迎えた本番。みんなの顔を見渡すと程よい緊張感でいい顔をしている。


 わたしの声掛けも少しは役に立ってくれたのかな。


 これなら大丈夫!


 やがてアナウンスが流れ、わたし達の出番が回ってきた。


 全員でライトの下に向かって踊り出す!




「みんな、全国進出おめでとう!」


 わたしの音頭に合わせてみんながグラスを掲げる。


 見事県大会優勝を飾ったご褒美に山野先生が奮発してくれて祝勝会だ。


 場所はけっこう広めの焼き鳥屋さん。


 いくら広いとはいえクラス全員がいるので満員御礼貸し切り状態だ。


 みんな食べ盛りだし、こりゃこのお店の在庫なくなるかもね。


「やっぱりゆきちゃんのソロパートから間髪入れずの合唱パートへのつなぎが何度唄ってもたまらないよね!」


「そうそう!素敵な声のバトンをしっかり受け取った!っていう感覚ね」


 あちこちのテーブルに分かれてしまっているけど、どのテーブルでも語られるのは今日の感想。


 はっきり言って今日の出来は今までで最高だったから仕方ない。でももう少し自分たちの実力を認めて讃えあってもいいんじゃないかな。


 それにソロパートをあんまりべた褒めされると照れるからやめてほしい。


「世界に通じる歌声を持つ広沢がいるんだから怖いもんなんてねーよな!」


 こらこら、調子にのるんじゃないよ。


 世の中上には上がいるんだからね。


 特に合唱コンクールなんて個人の力量よりもチームワークが大切。


 気を引き締めないといけないかなと思ったら山野先生が先に声をあげてくれた。


「おい、おまえらー。広沢個人におんぶにだっこしてないでお前ら自身ももっと力をつけないと足元すくわれるぞ。

 次は日本全国から選ばれた生徒たちが集まってくるんだからな。

 明日からまた練習漬けの日々だぞ」


 さすが担任。締めるところはしっかり締めてくれるのが頼もしい。


 普段は結構適当なとこもあるけど。


「任せといてくれよ、先生!俺らには世界一優秀なコーチもいるし、明日からもっと気合入れて練習漬けになってやるさ!」


 返事も頼もしいもので嬉しくなってしまう。


 世界一かどうかは知らないけどわたしが持つもの全てをさらけ出して、それがみんなの力になってくれたらそれでいい。


「明日からまたビシビシコーチしていくから、みんなも覚悟しておいてねー」


 笑いながらそう脅すと「望むところ!」と気合十分。


 このクラスのみんなとなら本当に実現できるかもしれない。目指せ全国制覇!




 県大会から全国大会まではそんなに日数がない。各都道府県の代表が決まったらすぐという感じ。


 なのでそこまで豊富に練習時間は取れなかったけど、もともとこれ以上ないっていうところの一歩手前くらいまでは近づいていたので、残りはどれだけ完璧に近づけることができるかということに注力すればよかった。


 みるみるうちに実力をつけて、完成に近づいていく様は見ていて感動すら覚えるほどだった。


 それだけみんなの熱量の高さがうかがい知れる。


 何が彼らをそこまで駆り立てるのか。


 お互いの信頼感か、若さの発散、自分への自信の構築かもしれない。おそらく全部かな。


 でもそんな若き情熱がこういった形で結実して、最善の形で発揮できるのはとても素晴らしいことだと思う。


 みんな頑張ろうね! 今の素敵な笑顔を忘れないで。


 この調子なら全国でも十分に通用しそう。



 そして迎えた全国合唱コンクール当日。


 わたしは思いもかけない人たちと再会を果たす。




「ゆきさん!」


 元気で大きな声に呼びかけられて振り向くと、そこにはかつて一緒に唄ったことのある懐かしい顔が。


「雪乃さん!」


 懐かしさのあまりにハグ。


「めちゃくちゃ久しぶりだね!でも活躍はいつも見てるからね」


 雪乃さんはわたしとのコラボの後確実に登録者数を伸ばし、今では100万人越えの人気Vtuberだ。


 再会を懐かしんでいると背後から不穏な空気を感じたので振り返ると穂香と文香が仁王立ち。


「ゆきちゃん? その方はどちらさま?」


 え、2人とも顔が怖いよ? なんか怒ってる?


 そういえば雪乃さんはVtuberだから顔出ししてないんだよね。なんて紹介しようかな。


「はじめまして!以前ゆきさんとコラボさせてもらったVtuberの雪乃です!ゆきさんのクラスメートの方ですよね?うらやましいなぁ」


 あっさり自分でバラしちゃった。さすがは個人勢というかその辺はやっぱりゆるいなぁ……。


「えぇぇぇ! 雪乃さんの中の人!? こんなとこでバラしていいの!?」


 思わず小声になる2人。そりゃそんな反応にもなるよねぇ。


「いいんですよ!ゆきさんのお友達なら信用も出来ますし」


 そう言ってわたしの腕にぶら下がったままの雪乃さん。


「はぁ、名前をもらってるくらいだから好きなのは聞いてたけど、本当にゆきちゃんの事大好きなんですねぇ」


 文香が呆れたような声で言いながらジト目を向けてくる。な、何?


「この妖怪無自覚ジゴロめ」


 妖怪って……。吐き捨てるように言わないで?


 てゆーかジゴロはひどい!


「もうひとりお馴染みの人がいたんですけどねぇ。どこ行ったんだろ?」


 わたし達のやりとりは華麗にスルーして周囲を見回す雪乃さん。誰を探してるのかな?


「あ、いたいた!おーい!ゆきさんいたよー!」


 少し離れたところの植え込みへ隠れるようにしていた背中がビクッとした。


 観念したのかスッと立ち上がり、ゆっくりと振り向く。


「レイラさん!」


 そういえば雪乃さんは1つ年上、レイラさんは同い年だからここにいても全然おかしくないんだった。


 あと紡さんもいれば初めての恩返し企画コラボのメンバー勢ぞろいだったんだけどな。


 紡さんはけっこう年上だから高校生の大会には参加できないんだよね。


 それにしても懐かしい。レイラさんもすっかり人気者で登録者数120万人。


 紡さんも100万人だからあの時のメンバーは全員3桁に乗ってることになる。なんか嬉しいなぁ。


「レイラさんってやっぱりあのコラボの時のレイラさん?」


 穂香が恐る恐る聞いてみる。雪乃さんに続いての登場だからそうもなるよね。


「そうです。ゆきさんにとても生意気な態度をとってしまったあのレイラです」


 そう言って真っ赤になってしまう。


 そうか、それが気まずくて隠れていたのね。


 そんなこともう気にしてる人なんて誰もいないのに。


「そういえば2人ともここにいるということは、合唱コンクールの参加者なのかな?」


「「もちろん!」」


 胸を張って答える2人。


 そうか今回はライバルなんだね。


「個人ではゆきさんには敵いませんが、チームワークでは絶対に勝ちますから!」


 そう言って握手を求めてくるレイラさん。こういうとこは変わってないなぁ。


 嬉しくなって手を握り返しながらわたしも言い返す。


「わたしが負けず嫌いなの知ってるでしょ。手加減なんてしないからね」


 そう言って笑いあう。あの時と違うのは同じライバルでもそこに敵意はないということだ。


「あー2人だけずるいです!わたしも握手!」


 そう言って手を乗せてくる雪乃さん。なんかいいな、こういうの。


 各学校での集合時間になったので手を振りながら去っていく2人。


 振り返ると文香と穂香が微笑ましい目でわたしを見ていた。どうしたのかな?


「なんかいいよね、お互いを認め合っている相手と正々堂々勝負できる感じ」


「そうだね。これは負けられない理由が増えたか?」


 そう語る2人の目には確かにやる気が満ちているのが見える。


 それはわたしだって同じだ。


「これは強敵ぞろいだよ。気を抜く暇なんて一瞬たりともないからね!」


 コンクールはまさに圧巻の一言だった。


 雪乃さんはアルトに所属していたけど、ソロパートでは低音から始まりエンジェルボイスへの切り替えで会場を大いに沸かせていた。


 レイラさんはあれからさらにテクニックに磨きがかかり、そこに感情も込めるようになったので聴く者の気持ちをつかんで離さない。


 どちらも観客は大盛り上がりでスタンディングオベーションを受けていた。


 やはりどの学校も主力の生徒をソロに持ってきて勝負するスタイルは同じ。


 合唱部分だってどの学校も完全に調整がされていて完璧の一言。


 でも完璧なのはうちの学校も同じこと。そうすると勝負の行方はわたしの肩にかかってくる。


 いいね、この緊張感。


 ピリピリした空気を感じながら自分に気合を入れる。


 わたしの持ち味は圧倒的な声量でも変幻自在な歌唱力でもない。


 ここは格の違いというものをあの2人にみせつけないと!


 そして迎えたわたしたちのステージ。


 程よく張り詰めた空気の中、演奏が始まりみんなの歌声が響きだす。


 全員の心がひとつになり、紡ぎ出される歌声は会場中を震わせるほどの大音量となり迫力は満点。


 強弱のつけ方やテンポの合わせ方なども今までの練習の成果がしっかり出ている。


 ハッキリ言ってどこにも引けを取らないくらいに完璧だ。


 そして迎えるソロパート。クラスの全員が全てを託すかのように手を伸ばし、わたしを前面に押し出す。


 最初から全開だ。わたしが口を開いて声を出した瞬間、あれだけ賑わっていた会場が静寂に包まれた。


 響くのは伴奏とわたしの歌声だけ。


 わたしが考えるのは単純な事だけ。


 魂に響いて! 心を感じて!


 それは言葉では説明がつかないことだと思う。テクニックがずば抜けているわけでもない。声質が特殊なわけでもない。


 それでも聴衆の心を掴んだまま決して離そうとしない歌声。


 ソロパートに被せるように合唱パートに戻り、そしてフィナーレ。


 少しの間、だれも動こうとしない。会場は水を打ったように静かだ。


 やがてパラパラと拍手の音が鳴り始め、それはすぐに万雷の音となって会場を熱狂の渦に叩き込んだ。


 全ての聴衆が立ち上がり、手が痛くなるんじゃないかと心配になるくらい力いっぱい拍手をしてくれている。


 そこには確かにやり切ったというハッキリとした手ごたえ。


 クラスメートを見渡してもみんな自身に満ち溢れた表情。


 全てを出し尽くした。


 達成感に包まれたこの感情は何度経験しても心地いい。


 完全燃焼の爽快感をたたえた表情のまま、全員揃って深々とお辞儀。


 わたし達がステージから退場してもしばらく拍手の音が鳴りやむことはなかった。




「まさに圧巻でした! やっぱりゆきさんには敵いませんでしたね」


 レイラさんがそういうものの、その表情には悔しそうな色は見えない。


「あそこまで徹底的に実力の差を見せつけられたらむしろ清々しいです!」


 雪乃さんはまだ興奮冷めやらぬ様子で、鼻息荒くそう言い切る。


 わたしたちは見事全国優勝という栄誉を勝ち取った。


 授賞式が終わってすぐにお祝いに駆けつけてきてくれた2人。


「さすがわたし達が敬愛するゆきさんですね。これからもずっとその歌声を世界に向けて響かせてください」


 爽やかな笑顔でそう語るレイラさん、なんか男前だな。


 対する雪乃さんはまだ興奮しているようだ。落ち着きなさい。


「わたしの愛するゆきさんなら当然できますよ!これから何十年も歌謡界のトップに君臨するお方ですから!」


 大御所みたいに言われてもねぇ。それにしても……。


「何十年……か……」


 その頃にはわたしは……。


「どうかしましたか?ゆきさん?」


 雪乃さんが不思議そうな顔をしている。何もおかしなことは言ってないよ?


「……。なにかあるならいつでもわたし達に相談してください。ゆきさんのためならどんなことでも力になりますから」


 レイラさん……。


 わたしの様子に何かを感じ取ってしまったのか、2人とも少し心配そうにのぞき込んでくる。


「大丈夫だよ!それより今からわたし達祝勝会なんだけど2人も参加しない?」


「わたし達はこれから反省会ですよ!わたしたちはゆきさんの実力を知っているから納得してますけど、他のメンバーは泣いちゃって大変なんですから」


 それもそうか。


 一生懸命このコンクールのために打ち込んできたのはみんな一緒だもんね。


「そっか、ごめん」


「?……やっぱりなんか変ですよ、ゆきさん。本当に大丈夫?」


 天然な割に鋭いんだな、雪乃さん。さっき頭に浮かんでしまったことが筒抜けになっているようで怖いくらい。


「だいじょうぶだってば。それじゃ、そろそろみんなと合流しないといけないからわたしは行くね!」


「わたしとは来年また会えますね。次こそリベンジして見せますから!」


 そう言って微笑むレイラさん。ほんと男前だ。


 来年なら大丈夫だろう……。


「うん、わたし達も今年以上に頑張るからまた来年だね!それ抜きにしてもたまには連絡頂戴ね!」


 2人に向かって手を振りながら走り去る。


 * * *


「やっぱりなんか変だったね」


「レイラさんもそう思ったんだ。なんか隠してるよね、ゆきさん」


「いつか打ち明けてくれるのかな……」


「ゆきさんけっこう頑固だからなぁ。でも今日明日いなくなるわけでもあるまいし、そのうち言ってくれるんじゃないかな」


 2人の目がゆきの背中を見つめ続けた。


 * * *


 最高の形で終わった合唱コンクール。この貴重な経験を通してクラスの団結力は一層高まり、最高の思い出のひとつになった。



 そして高校生活初めての夏休み。


 生徒会長のゆきにとってはただの夏休みではなく、公私ともにあわただしい日々を過ごすことになる。

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