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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第72曲 意外な弱点

 しくしく……。


「ほらぁ、会長いつまでいじけてんの」


 会長席に体育座りをしているわたしに向かい声をかけてくる睦美先輩。


 他人事だからそんなこと言えるんですよ……。


「人間苦手なもののひとつやふたつありますわよ」


 佳乃先輩もお化けにがてなのかな?


「まぁお化けが苦手というのは子供っぽくてかわいいですわね」


 裏切り者!やっぱり子供っぽいって思ってんじゃん!


 昨日の大騒ぎでみんなにバレちゃったよ……。


 で、なんで文香はずっと隣に立ってよしよししてくれてるのかな?その慈愛に満ちた瞳は何?


 谷村先輩もこっちずっと見てるし、何か言いたそうにしてるし。


「谷村先輩も何か言いたいんじゃないですか?いいですよ、もう。みんなして子ども扱いしてれば」


 自分で言っていて今が一番子供っぽいような気もするけど、へそを曲げちゃってるんだから仕方ない!


 「いや!俺は……その。そんな会長もかわいいな……と」


 めっちゃ赤くなってるし。


 うん、その気持ちはとても嬉しいけどその顔を見たら素直に喜べないかなぁ。


「ふふ。いつまでも拗ねてないで。そろそろ2日目が開幕しますよ」


 文香にそう促され、気持ちを切り替える。


 いつまでもいじけてたらみんなの笑顔を見れないもんね。


 わたしは生徒会長だ。このイベントを責任もって完遂する責務があるし、みんなの期待に応えたい。


「うん。気合入れないとね!それじゃ、それぞれ持ち場について警備にあたってね。

 何かあった際にはくれぐれも個人の勝手な判断で動かず、わたしか谷村先輩に連絡すること。わかった?」


 わたし達以外は全員女の子なので、問題が起きた時に自己判断で動かれて怪我でもされてはたまったもんじゃない。


 なので手に負えなさそうなことは全てわたしか谷村先輩が当たることになっている。


 女性を守るのも紳士の役目!ってね!




 そうして2日目のフリーマーケットが開催。


 1日目に近隣の有名不良学校のグループのみなさんにはいたって穏便にお帰り願ったためか、2日目は特に問題もなく平和に進行していった。


 そしてつつがなくイベントは終了。


 閉会の挨拶も問題なく済んで後は撤収だけとなった段階で文芸部の部長連中がわたしのところに集合。


「みなさんどうしたんですか?片付けで何か問題でも?」


 わたしが問い掛けても首を横に振るだけで何も答えないが、みな一様に笑顔でわたしを見つめている。


 そして華道部部長の錦山先輩が「せーの」という合図を発したのと同時にわたしに向かって全員で声を揃えた。


「ゆき会長、今回は本当にありがとうございました!」


 何事か分からずきょとんとしていると各々が手に持っていた花束や工芸品なんかを手渡してくる。


 これ全部わたしに?


 事態が呑み込めず困惑しているわたしに文香がそっと耳打ちしてきた。


「ゆきちゃんに感謝の気持ちとして受け取って欲しいんだって。好きそうなものとかめっちゃ聞かれたよ」


 そういうことか。そんなつもりでやったわけじゃないのに……。


「もう、みんなに楽しい学園生活を送って欲しくて企画したことなのに、最後にわたしが喜ばされてたらダメじゃん」


 綻ぶ顔を隠しきれず、照れくささを誤魔化すようなことを言ってると文芸部の麻生部長がかぶりを振ってわたしの手を握った。


「今までこんなに文化部のために楽しい企画を考えてくれた生徒会長なんていなかったんだもの。

 情けは人のためならずって言うでしょ。わたし達のために考えてくれたことでもちゃんとゆき会長にも返ってくるんだから」


「……みんなこの2日間楽しんでくれた?」


 心から楽しんでくれたかどうかの自信が持てず恐る恐る尋ねてみると満場一致で「もちろん!」という答えが返ってきた。


 それは文芸部だけでなく個人で参加した人や運動部、果ては手伝いに来てくれていただけの商店会の皆さんまで。


 わたしを囲む笑顔。笑顔。笑顔。


 それを見ているだけで今回のイベントは成功したという確信が持てるようになり、わたしの心にも嬉しさが蔓延していく。


「みんなありがとう!来年はもっと工夫して今日よりさらに楽しめるイベントにするからね!」


 参加者全員に感謝の言葉と次への抱負を述べる。


 拍手とともにあちこちから労いの言葉をいただく。その中で一番印象に残った言葉。


「来年も肝試しやろうねー」


 それだけは絶対ヤダー!




 半ば無理やりねじこんだフリーマーケットが終わると、今度は各クラスが競い合う合唱コンクールに向けての練習が始まる。


 校内で金賞を取ると地域開催の県コンクールへと進出する権利が与えられ、そこもクリアすると全国にも挑戦できるという本格的なものらしい。


 一応わたしも歌のプロのはしくれとして興味はあるけど、合唱というものは初めてだ。


 わたしの歌声がみんなの声とまじりあった時、どんなハーモニーが生まれるのか楽しみでもある。




 最初の練習は大失敗だった。わたしの声量が他の生徒全員を圧倒してしまい、わたしのリードボーカル状態になってしまったのだ。


「みんなごめん……」


 またしても自分の弱点を発見してしまった。


 かみ合わなかった合唱を反省してクラスメートたちに謝ると、一斉に非難された。


「なんで広沢が謝るんだよ!」「ゆきちゃんの声量がすごいのは最初から分かってたことだよ!」「俺たちが不甲斐なかったんだよ!」


 いや、みんなでそんなに一斉卑下されても……。


「仮にもわたしはプロだからさ。同じ声量をみんなに求めるのは無茶ってもんだし、わたしがもっと抑えるべきなんだよ?」


 合唱の世界でスタンドプレーはよくない。それくらいは分かっていたはずなのに、みんなと歌えることがうれしくてつい張り切ってしまった。


 結果、他の生徒全員の声を圧倒することになってしまったわけだけど。


「腹から声を出す方法を教えてくれ!」「あと毎日のボイストレーニングのやり方も!」


 誰も諦める気がないみたい。あくまでわたしに少しでも追いつこうという方面でしか考えていない。


 それはとても嬉しいことだし、みんなの役に立つならわたしの知識なんていくらでも貸すけどさ……。


「でもさすがにこの短期間で劇的な結果を残すのは難しいよ。やりすぎると逆に喉を壊しちゃうし。気合でどうにかなるものでも……」


 木野村君がわたしの肩に手を置いて、優しく語り掛けてきた。


「誰も広沢の声量に勝とうってわけじゃないんだ。ただ少しでもひとりひとりの力を上げて全員がかりで歌えば広沢の歌をもっと引き立たせることができるかもしれないだろ?」


 確かに一理ある。わたしは自分の持てる知識を全部伝えることにした。


 腹式呼吸は単純にお腹に力を入れるのではなく丹田、鳩尾、太もも足の親指に力をいれること。


 高い声を出すためには力を入れるのではなく声帯を柔らかくすること。


 息を吐ききってから思い切り吸い込む呼吸法や肺活量の鍛え方などわたしが長年かけて勉強してきたことを惜しげもなくみんなに伝えた。


 だってみんな本気でこの合唱を良くしようとしてるんだ。わたしも本気で応えないと。


 ただみんなの努力に任せているだけでは片手落ちだ。


 わたしも自分でできることを探して、合唱部の先輩に助けを求めることにした。


 受験を控えた3年生は合唱コンクールに参加しないので、合唱部の部長でもある3年生の勝又明奈(かつまたあきな)先輩に指導を仰ぐことになった。


 生徒会での部長会議で何度も顔を合わせていて知らない仲ではないので快く協力してくれることになった。


「まず、歌のテクニックなんかに関してはわたしから教えることなんて何もないからね。

 ゆき会長はアンサンブル、つまり全体の調和を意識した歌い方を練習すればいいと思うよ」


「アンサンブル……」


 同じパート、わたしの場合はソプラノ。いわゆるボーイソプラノってやつだけどね。


 その人達と音程、リズム、ハーモニー、フレーズ、強弱、そして歌い方の統一に加え、個々の声が他のメンバーの声と調和するように意識を合わせる。


 まず他の人の声を意識するために合唱部の練習に参加させてもらうことにした。


 最初はどうしてもわたしの声が目立ってしまっていたけど、他の人の声を意識しているうちにどこで強弱をつければいいかがわかってきた。


 そして練習が終わるころにはかなりキレイなハーモニーを奏でることができていたと思う。


「やっぱり歌に関しての才能は天才的ね。合唱部に欲しいくらいよ」


 勝又先輩からも太鼓判をもらうことができた。


 よし!後はクラスですり合わせをして練習に励むぞ!

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