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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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71/74

第71曲 フリマ、そしてその夜

挿絵提供:ひらじ様 

X:@hirazi_illust

ギャラリー:https://hirazisora.wixsite.com/home

 フリマ開催!


 事前の宣伝効果は抜群で、開場の9時よりずっと前からお客さんが並び始めいざ蓋を開けてみれば大盛況!


 予想を大きく超える人数で広い校庭が人でごった返している。


 運動部や家庭科部が料理を提供しているのでさながら縁日のようだ。


 家庭科部が提供するのはオムライスや親子丼などの軽食に、今日は暑いからとかき氷まで。


 運動部、とくに野球部が提供するのはキャプテン自慢の焼き飯。


 他にも焼き鳥や焼きそばなんかを提供している部もあって周囲にはおいしそうな匂いが立ち込めている。


 文化部は町内会が備え付けてくれたテントの下で自作の品を並べ、販売に勤しんでいた。


 販売には直接つながらないはずの華道部などもイベントを通じて華道の世界に触れてもらおうと無料教室を開催しており、そちらにも人だかりができている。


 無料教室では使わなくなった花瓶や剣山、はさみなどを販売しているのだからちゃっかりしている。


 文芸部も自分たちで自費出版したエッセイ集や詩集、小説などを販売していてこちらも売り上げは上々。


 そして中でもいちばん目立っていたのは手芸部だった。


 色とりどりの編みぐるみや刺繍が施されたランチョンマット、コサージュ、座布団などはとても学生が作ったとは思えないほどよく出来ていて飛ぶように売れていた。これで部費の補充という目的も果たせそうだ。


 生徒会としてはここで問題を起こすような輩が居れば学校の信頼を裏切ることになってしまうので、特に注意して目を光らせている。


 もちろん風紀委員も協力的で、薫先輩はわたしのそばから片時も離れない。


 なんで?


「薫先輩、別々に回った方が効率いいかと」


「見てみて!ゆきちゃん、あの編みぐるみかわいい!」


 聞いちゃいねー。


 てゆーかデートか!


 かの姉とあか姉は特に何も部活に所属していないので今回は参加しなかった。


 2人がいないその隙を幸いとばかりにめちゃくちゃ甘えてくる薫先輩。


「ゆきちゃん!そろそろいい時間になってきましたし、お腹すきませんか?」


 あー知ってる。その眼はお祭りを目いっぱい楽しもうとしてる人の目だ。


 確かにずっと肩ひじはって警戒していても仕方がないので少しくらい力を抜いてもいいか。


 自分が企画したイベントだからと責任感を感じてしまっていたけど、薫先輩を見ていたらそれもバカらしいかなと思えるようになった。


「先輩ありがとう」


「何がです?」


 本気で分からないという顔をしている。そりゃそうだろうな。


「なんでもないです。それよりも今日は少し暑いくらいなので喉が渇きましたね」


「それじゃ、かき氷を食べましょう!」


 嬉しそうに駆け出していく。あれだけ敵視していたのにあの変わりよう。思い出したらなんだかおかしくなってきた。


 やがてかき氷を2つ持って戻ってくる薫先輩。


「いくらでした?」


 財布を取り出し支払おうとするとかき氷を押し付けられた。


「ちょっとは年上のお姉さんにカッコつけさせなさい。ここはわたしのおごり」


 年上のお姉さんという割にはずいぶんと子供っぽい食べ物だけど、ありがたくいただくことにした。


 少し汗ばんだ体に冷たい氷が気持ちいい。もうすぐ夏だなぁ。




 こうして午前中は穏やかに過ぎていったけど、昼からは少し様子がかわってしまう。


 うちの学園で催し物をやっているという噂をかぎつけた他校の生徒がやってきて、さらに賑わうことになった。そのこと自体はいいんだけど、その中には近所でも有名な不良学校の生徒が混じっていたのだ。


 富樫先輩がいたら出番ですよ!といってぶつけるのだけど、あいにく彼は帰宅部らしい。


 あの顔でスポーツに汗を流していてもなんかイヤだけど。


「なんだこりゃ、へったくそだなぁ」


「しょせん子供のお遊びじゃねーか」


 いや、お前らも同い年あたりだろ。それを言うなら君らも子供という理屈になるぞ。


 こういう連中にはそういった理屈は通用しないのか、そこらじゅうで傍若無人な振る舞いをしだした。


 さすがにいつまでも黙って見ているわけにはいかない。


「……!」


 わたしが出ていこうとすると薫先輩がやんわりと止めてきた。


「あなたが出てしまうと騒ぎになるのでここはわたしにお任せくださいな」


 そう言って一人敢然と不良生徒たちに立ち向かっていく薫先輩。その後ろ姿はなんかかっこいいかも。


 しばらく冷静にやり取りをしていたようだが、しばらくするとブチギレだした薫先輩。


 やれやれ。こうなるような気はしていたんだけどね。


 結局わたしが介入して穏便にお引き取り願うことにした。穏便に。


 あくまで穏便に、だよ?


 数人腕を押さえながら逃げるように出ていった、なんてことはないからね?


 そうしてその後はなんの問題もなく時間は過ぎていき、1日目の日程は終了。


 だけどここで予定にはなかった不測の事態が起きていることが判明してしまった。


 想定以上に売り上げが良かった結果、明日のフリマに出品する作品が底をついてしまったというのだ。


 さすがに開店休業の事態は避けたい。


 来年以降も同じようにやっていくつもりなのに、ここでフリマ自体の信用を落とすわけにはいかないからだ。




 フフフ。こうなっては仕方ない。ここは会長の権力を濫用させてもらうことにしよう。


「文芸部のみなさん、今日は合宿にしましょう! 1日泊まりこんで作れば明日の分くらいはどうにかなりませんか?」


「そんなことが可能なんですか? 1日ずっと学校の施設を利用できるのなら今日以上のものを作って見せますよ!」


 そう言って鼻息を荒げているのは手芸部部長の江川真紀先輩。他の部員の目を見てもやる気満々だ。


 今日のフリマの実質的な主役は彼女たちだったので、これだけ気合が入っているのなら明日も大丈夫だろう。


 学校への相談と報告?もちろんしましたよ。報連相は大切ですから。


 ぜーんぶ予定と役割、連絡手段などを決めてぐうの音も出ないような計画を立ててから事後報告しましたとも。


 苦虫をかみつぶしたような顔をしてたのは白峰先生だけだったし♪




 でね。でね。


 夜になったの。


 その頃には手芸部のみんなの作品作りにもある程度目途がついてさ。


 そしたらさ、みんな何て言ったと思う?


「肝試ししよう!」って言い出すんだよ!?


 夜の学校でだよ!?


 学校だよ夜だよ暗いんだよ理科室なんだよ?


 むりむりむりむりかたつむり!


 だってお化けって攻撃無効じゃん!(物理)


 殴れないし投げれないしいなせないし。


 2人ペアで回ろうというからどうぞみなさんで、はいどうぞ。


 わたしは生徒会長だからみんなを監督しないといけないので入口でみんなを待ってます……。


 するとね、なんということでしょう!薫先輩が腕をがっしり掴んでくるじゃありませんか!


「ゆき会長はもちろんわたしと回るんですよ」


 なになになに?ナニソレ聞いてない。わたし何も悪いことしてない。ゆきウソつかない。


 ヤダヤダヤダひきずっていかないで~……。


  挿絵(By みてみん)

 

 うううぅぅ~……。


 懐中電灯の頼りない光が逆に怖い……。


 なんで薫先輩は平気な顔してるんだろう。


 この人は化け物か。


「どうしました?ゆき会長。顔が真っ青ですよ?」


「なななんでもななないででですぅ」


 だからなんであなたは平然としてるのさ!


「会長ひょっとしてお化け怖いとか?」


「ぼひゅ!そそっそそんなわけないじゃないないないじゃないないですかぁ!もう高校生ですよぉ!アハハハハ」


 思わず変な音が漏れた。おまけにとっさにゆきウソついた。うぅ正直に言って帰らせてもらえばよかった……。


 肝試しのルートは保健室、音楽室、理科室と回って帰ってくるというもの。


 怖いとこシリーズ制覇じゃん……泣。


 まずは保健室。うぅぅ、消毒液の匂いが病院みたいでヤダ……。


「ゆき会長!」


「ひゃい!なななにかあった!?」


 突然声かけるのやめてほしいよぉ……。


「いえ、何もないので次に行きましょうか」


「でででですよねぇ。な、なにもあるわけありませんよね!」


 そう、ここはただの学校。いつも昼間に授業受けてるだけのところじゃないか。


 お化けがいるなら昼間にも目撃されてるはず!お化けが夜しかでないなんて誰が決めたんだ!


 自己暗示でどうにか平静を保ちがながら(?)薫先輩の陰に隠れるように小さくなって探索を進めていく。


 次は音楽室。うぅぅ……。夜になると音楽室のピアノが勝手になるとか聞いたことがある……。


 ポローン♪


「にゃあぁぁぁぁ!ピピぴっぴぴっぴピアノが!」


「あらごめんなさい、ピアノを習っているものでつい」


 薫先輩……。


「そそそそそういうことする時は事前に声かけてね、ね、ね?」


 思わず超至近距離まで詰め寄り懇願。


 なんで顔赤くしてんの!?なんかあった?


 警戒心マックスで周囲を見回すわたし。


「何もないよ!?」


「かか会長、顔が近い近い近いです!」


 顔が近いくらい怖くないじゃん!


「もう次いこうよー」


 もはや半べそ。


「そうですね、音楽室にも何もなさそうですし最後の理科室に行きましょうか」


 そうだったぁ!最後は理科室なんだったぁ!


 もうやだタスケテみんな……。頭に浮かぶのは姉妹たちの優しい顔。


 ごめんね、みんな。先立つ不孝をお許しください。


 そしてたどり着いた最終関門、理科室。


 ガラガラとスライドドアを開けるとまず目に飛び込んできたのは人体模型。


 あばばばば……。生徒会長権限でこいつは普段準備室に隔離するように規則を変更してやる!


「ほら、会長、最後にあのロッカーの中にあるピンポン玉を回収して帰れば終了ですよ」


「お、おっけー。さっさと回収してこんなとこ早く出よう!」


「じゃあ回収お願いしますね」


 は?


 なんですかそのいい笑顔。


 わたしに回収しろと!?


 でも無理とか言えないし。ここは覚悟を決めてロッカーを開けるしか……。


 心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキしながらロッカーの扉に手をかける。


 その瞬間。


 バーン!「うらぁぁぁ!」


 ぷち。


 ヒュン。


 隣で見ていた薫先輩が事態を理解する前にロッカーから飛び出してきた脅かし役の男子生徒は宙を舞い、わたしは脱兎のごとく逃げ出していた。


「にゃあぁぁぁぁぁ、もう無理~~~~……」


 ドップラー効果を残して走り去っていくゆきの後ろ姿を呆然と眺める薫先輩。


「やっぱりお化けが苦手だったのね……。でもそういうとこもかわいい」


 幸い投げられた男子生徒には怪我のひとつもなく、肝試しは無事終了した。


 生徒会長の心に深い傷と、会長はお化けが苦手という評判だけを残して。

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