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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第68曲 無理したらこうなった

 その日も次の日もわたしの熱は一向に下がらず、ずっと寝て過ごした。


 姉妹たちも順番に看病してくれて、おかゆを作ってくれたり着替えを手伝ってくれたり。


 とてもありがたい。


 こういう時、ひとりじゃなくてよかったと思う。


 ただひとつ、問題がある。


 今日は生配信の日。


 ずっと寝ていたので今日は病欠という告知も出来ていない。


 突然のサボりはリスナーさんへの信用にかかわる。


 どうにかしないと……。


 夜はひよりが作ってくれたおかゆを食べた。一緒に用意してもらっていた薬を口に含んで水を飲む。


「ありがとう、ひより。薬も飲んだし後はきっと明日の朝まで眠るからもう大丈夫だよ」


「え、でもまだ熱高いし放っておけないよ」


 もう優しいんだから。かわいいなぁ。そんなにそばにいたいのね。


 でも今はそんなことも言ってられない。


「ひよりも一晩中付きっ切りってわけにもいかないでしょ。それにもう電灯を消して真っ暗にして眠りたいからひより退屈しちゃうだけだよ」


「そっかゆきちゃん暗くないと熟睡できないんだっけ。わかった。でもすぐ前の部屋なんだから何かあったら呼んでね」


 ありがとう。ひより。お兄ちゃんは嘘つきです。ごめんね。


「うん、それじゃおやすみ」


「おやすみ、ゆきちゃん」


 電気を消してゆっくりとドアを閉めてくれる。そして向かいの部屋に入っていく音。


 あとは時間が来るまで待機。さっき飲むふりをして口に含んでおいた薬を吐き出す。


 これ飲むと本当に眠くなっちゃうからね。


 時間が来た。地下まで下りれば音は上にまで聞こえないから、そこに行くまでが勝負だ。


 そ~っと。そ~っと。


 抜き足差し足でゆっくりと階段を下りていく。家の中は静かなものだ。


 姉妹たちがわたしの動向に目を光らせてるんじゃないかと警戒していたけど、すんなりとスタジオにたどり着いた。


 重い体を引きずってステージ衣装に着替える。いつもの作業なのにやはりしんどい。


 カメラの前に座り、いつも通り配信をスタート。


【なんか顔赤くない?】【ちょっと苦しそうだけど】


 開始早々そんなコメントが並ぶ。意外とリスナーさんも目敏いな。嘘をつくのも心苦しいので一部本当の事を言っておこう。


「ちょっと風邪気味なんだ。歌もいつものような伸びは出ないかも。ごめんね」


 ホントは結構無理してます。ふらつくし、多分熱も上がってる。


【無理しないで】【配信休んでも良かったのに】【今からでも休んだ方がよくない?】


 みんな優しいなぁ。でもせっかく見に来てくれたんだ。わたしの歌声を聞いていってほしい。


 特に喉に異変はないけどケアする必要もあるし、スローテンポの大人しめな曲を選曲。


 それでも歌うことがこんなに息苦しいと思ったのは初めてだ。


 ロングトーンで息が続かない。ハイトーンを出そうとすると声がかすれる。


 ちょっと酸欠気味になりながらもなんとか最後まで歌い終えた。


「みんなごめんね、本調子じゃないから今日の歌は酷い出来になっちゃったね」


【本調子じゃなくても十分キレイな歌声】【無理はしちゃダメ】【今日は早めに配信終わろう】


 みんな気遣ってくれてる。ありがたいけど申し訳ないな。


 ちゃんとみんなにお礼を言わないと。


 そう思ってモニターの前に戻ろうと足を踏み出した途端、目の前が真っ暗になった。




 気が付くとより姉に抱きかかえられていた。


「ゆき!ほんとにこのバカヤロー!」


 見ると周りを姉妹たちに囲まれている。


 あれ、ここどこ?そうだスタジオ。


 あれ、生配信中だったような。そうだ!


「みんな、カメラ回ってる!映っちゃうよ!」


「そんなこと気にしている場合じゃありません!本当に無茶ばっかりして!」


 かの姉が珍しく本気で怒っている。


 ひよりがモニターの方に歩いて行った。何するつもり?


「リスナーさん、いつもうちのゆきちゃんがお世話になっています。

 御覧の通りゆきちゃんは体調がよくなくて、結構熱も高いんです。

 申し訳ないんですけどここで配信を終了とさせていただきますね。

 ごめんなさい。

 後日ゆきちゃん本人に土下寝でも五体投地でもさせますので。」


 そう言って配信を切ってしまった。


 いや、五体投地って。よくそんな言葉知ってるな、ひより。


 とりあえず着替えさせて上に連れてくぞというより姉の言葉でみんな動き出し、あっという間に裸にひん剥かれてパジャマに着替えさせられてしまった。


 問答無用。恥ずかしいからと言っても聞いてもらえなかった。


 これは相当ご立腹のようだ。


 ひとまずリビングのソファーで横になる。あか姉が膝枕をしてくれたけど、より姉たちはどうやら説教モードらしい。


「あのな、リスナーさんを大切にする気持ちはわかるけどな、それで体調が悪化したら元も子もねーだろうが」


「本当にゆきちゃんは言うことを聞いてくれないんですから。どんな気持ちで見てたと思ってるんですか」


「ほんとだよ!いつ倒れるかって冷や冷やしてたら本当に倒れちゃうんだもん!どれだけびっくりしたか!」


 みんなのご立腹はごもっとも。わたしも大変反省しております。ただね。


「みんなボロ出てる」


 あか姉の言う通り。


 見てた?冷や冷やしてた?どこで?


「ごめんね、みんな。大人しくせずに配信してたことは悪いと思ってます。ごめんなさい」


 謝るべきところは謝る。


 でもそれとこれとは話が別だ。


「で、みんなはわたしが配信してることをどうやって知ったのかな?」


 笑顔で問いかけた。けどきっと目は笑っていなかっただろう。


「あ」


 どうやらみんなも自分たちの言ったことに気が付いたようだ。


「いつから?」


 あからさまに目を逸らすより姉たち。


 あか姉だけが膝枕でわたしの頭を撫で続けている。マイペースだ。


「い・つ・か・ら?」


 ひよりが吹けない口笛を吹いている。そうか主犯はひよりか。


「ひより?いつからかな?」


「あはは。そんな怖い顔しないのゆきちゃん!えっとね……最初から……」


 最後はボソボソとしゃべっていてよく聞こえなかったけど、最初からって聞こえたのは気のせいだよね?


「よく聞こえなかったな~。いつからだって?」


「だから……。最初から!」


 また目の前が真っ暗になりそうになった。なんてこったい。


 それじゃ今まで全部聞かれていたということ?


 リスナーさんからもツッコミが入るくらいさんざんシスコンぶりを発揮してた今までの配信全部!?


 それにあの話!


「わたしのストライクゾーンの話も?」


 おそるおそる尋ねてみた。


「嬉しかった」


 目を逸らすひよりに変わってあか姉が答えてくれた。本当に嬉しそうだ。


「~~~~~~~~!」


 声にならない声を上げてあか姉の膝に顔を埋めた。はずかちい。


「ゆき、耳真っ赤」


 分かったから耳つまんでぷにぷにしないで。熱くなってるから。


「大丈夫。わたしのストライクゾーンもゆきにしか撃ち抜けない」


 そういう問題でもないような……。いや嬉しいけど。


「ダメだ。余計に熱が上がってきた気がする」


「それは大変。早く寝る」


 起き上がろうとするとあか姉が抱きしめて起こしてくれた。ちょ、恥ずかしいよ……。


 詳しいことは明日聞くとして、今日はホントに寝ることにしよう。


「みんなが聞いていた内容によってはわたし切腹するかも」


「ゆきーー!」


「ゆきちゃ~ん!」


 みんなの叫びを背に受けながらあか姉の肩を借りて自室に向かった。




 翌日、少し熱の下がったわたしは昨日の配信の終わり方が気になったのでノートパソコンでネットニュースを閲覧していた。


 案の定、しっかりとネタにされていた。


『大人気配信者YUKI、配信中に倒れる!』


 なんか病院にでも運ばれたみたいだな。


 そんな記事の中でも一番注目を集めていたのが『配信者YUKIの姉妹生出演!美女勢揃い5姉妹の豪華競演』


 5姉妹じゃねー。


 うちの姉妹が美女ぞろいなのは認めるけど。


 あーこれでまた心配の種が増えた。みんなに変なのが寄ってこないといいけど。


 かの姉やあか姉、ひよりに関しては同じ学校に通っていたから問題はないだろうけど、より姉が心配だ。


 わたしを抱きかかえていたのがより姉だから、ひよりのアップと並んで一番ピックアップされている。


 これは注目されるだろう。


 ただでさえ美人のより姉。わたしのことがきっかけで余計に悪い虫が寄ってこなきゃいいんだけど。

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― 新着の感想 ―
YUKIがよく知ってるなと思ったひよりの一言、読んでいてくすっと微笑んでしまいました♪ そして姉妹の愛にほのぼのしました。YUKIちゃん、無理はだめだよ〜と、姉妹と一緒に一読者として心配しながら読んで…
あぁぁぁ。姉たちがネットで顔バレした。うーん、騒動の匂いがしますね
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