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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第67曲 風邪ひいちゃった

 きらりさんたちの来訪から数日たって金曜日。


 朝起きて自分の体の異変に気が付いた。


 なんだか体が重い。


 おまけに寒気がする。


 やばい、これは風邪を引いたかも。


 でも動けないほどじゃないし、学校を休むのもイヤだ。


 それに明日は配信もあるし、風邪なんて引いてる場合じゃない。


 そこまでしんどいわけでもないし、いつも通り生活をしていればそのうち治るだろ。




 パパっと朝食を作って両親を送り出し、それから日課となっている姉妹たちを起こして回るお仕事。


 いつも最初はより姉から。


「より姉~起きて。朝ですよ~」


 もぞもぞと動くより姉。いつもの展開だとこの後……。


「ゆき~」


 やっぱり腕が伸びてきた。風邪をうつすわけにはいかないのでひらりとかわす。


「ふぎゃん!」


 空ぶったより姉はそのままベッドから落ちた。しかも顔から。痛そう。


「ごめん、より姉!ついよけちゃって。大丈夫?」


「今日は冷たいな~。いつもならもっと優しいのに……」


 ごめんってば。でもとりあえず起きてくれたのでヨシとしよう。


 次はかの姉。


 かの姉の日課はおでこにちゅー。でも風邪がうつったらダメなので今日は封印。


 めっちゃ駄々こねられたけど。


 心を鬼にして無視を決め込み、あか姉の部屋に。


 あか姉はちょっと強めにゆさぶらないと起きないんだけど、少しでも距離を開けようと腕を伸ばしてゆさぶったらいつもよりやりすぎたみたい。


「ゆき、おはよウプッ」


 吐きそうになってる。ごめん。


 少し背中をさすってあげたら落ち着いたようなので最後はひより。


 いつものごとくお姫様抱っこをせがんでくるけど、あの体勢だと顔が近いからダメ。


 今日は趣向を変えてってことでおんぶしてあげたんだけど、それはそれで喜んでいた。




 そうして全員が食卓についたわけなんだけど、当然みんなからツッコミが入った。


「今日のゆきはなんか変だぞ。生理か?」


 こねーよ。さすがにぶっ飛ばすよ?


「ゆきちゃんいけずでした」


「わたしは酷い目に遭った」


 あか姉はホントごめん。まさか酔うとは思わなかった。


「そう?今日はいつもと違ってちょっと楽しかったよ!」


 ひより、無邪気だ……。かわいいなぁ、もう。


 ただ、いつもと様子が違うという点では姉妹の意見が一致したようで怪訝な目を向けられてしまう。


 とりあえず体調の事がバレないようそれ以後は普通に洗い物など家事をして過ごし、学校へ行く時間になった。


 通学中、少しふらつきそうになるがなんとか耐えていたらまたしてもかの姉とあか姉から怪しまれてしまったけど、どうにか学校へ到着。


 学校にさえ着けばあとは授業中座っているだけだし、休み時間は本でも読んでおこう。


 でも事件(?)は早くも2限目に起きてしまった。科目は古文。担任の山野先生の受け持ちだ。


「それじゃ、ここの問題を~広沢分かるか?」


 黒板に書かれた問題。答えはわかるけど、あそこまで行って答えを書くのが億劫(おっくう)だ。


 少し熱が上がってきたのか、足に力が上手く入らない。


 でも当てられた以上は答えないわけにもいかない。全教科満点の分際で「わかりません」と逃げることもできない。


 ゆっくりと立ち上がり、黒板に向かって歩いていく。


 黒板前は少し段差があるので上がろうとした時に少しふらつき、けつまずいてしまった。


 途端にどよめく教室内。


 は?


 つまづいたくらいで驚くようなこと?


「ゆきちゃんがつまづいた!」


「運動神経化け物級な広沢が!?」


 いくらわたしでもつまづくことくらいあるよ。


 人間扱いして?


「どこか具合でも悪いんじゃないの?」


 文香がすぐに駆け寄り、おでこに手を当ててきた。


「あっつ!めっちゃ熱あるじゃん!なんでこんな熱あるのに平然と学校来てんのさ!」


 そんなに熱いのか。測ってないから知らなかった。


 小さいころは熱を出して数日寝込むというのをよくやってたけど、中学に入って以降はすっかりそんなことも無くなってたのに。


「とりあえず保健室に連れていきますね。ゆきちゃんつかまって」


 そう言ってわたしの腕を肩に回してくれる文香。


 だからなんで羨ましそうな視線をわたしじゃなくて文香に向けるんだよ、男子。


 けどもうツッコむ元気もないや。


 文香に肩を貸してもらって保健室まで行ったけど、中島先生はいなかった。


 またどこをほっつき歩いてんだあの不良教師。


 ベッドへ横になると文香が横の椅子に座って手を握ってくれた。


「授業に戻らなくていいの?」


 問い掛けるとふんわりとした優しい笑顔でわたしの頬に手を添える文香。どうしたんだろう。


「ゆきちゃんが眠るまでそばにいるよ」


 わたしの方が熱いはずなのに文香の手が温かい。安心する。


 フワフワしてきた。これは眠っちゃうやつだな。意識が途絶える直前に文香の手を握り返した。


 * * *


「寝顔もかわいいな、ゆきちゃん」


 ゆきちゃんが転校してきてから2年以上の付き合い。


 初めて見た時は衝撃だった。こんなにキレイな男の子が存在するなんて。


 しかもいきなり隣の席にきたもんだから、もう心臓がバクバクして口から出そうだったよ。


 でもいざ話しかけてみたらすごく優しくていい人で……。


 さっきだって眠る直前に手をギュってしてくれて。


 ほんと無自覚に人の心を鷲掴みにしてくるんだから……。


 そっと顔をゆきちゃんに近づける。このままキスしたら目覚めるかな。


 眠ってる姿は眠れる森の美女そのままだもんね。ふふ。


 そうしたらわたしが王子様?鈍感姫に苦労させられそうだ。


 進学の時、わたしの成績じゃこの学園は危なかったけど、ゆきちゃんと一緒にいたくて受験勉強必死に頑張ったんだからね。


「この女たらし」


 そっと呟いても目が覚める気配はない。


 * * *

 

「誰かいるのか?」


 乱暴にドアを開ける音で目が覚めてしまい、次に聞こえてきたのはで中島先生の声だった。


 文香ちゃんの姿はもうない。頬のあたりに違和感を感じたけど、触ってみても何もついていない。


 まだ気だるいのでそのまま横になっていたら中島先生が無遠慮に入ってきた。


「なんだゆきじゃないか。眠ってんのかよ」


 ずかずかと近づいてきたと思ったらおでこに手を当てられた。


「けっこう熱いな。これはチャンスか?」


「なんのチャンスですか」


 目を開けて問いただすとぺろっと舌を出して離れていく。


「なんだよ、起きてたのか」


「あれだけ騒がしく入ってきたら誰でも起きますよ」


 そう言って体を起こそうとすると制止された。


「まだ熱が高いし休んどけ。歩けるようなら早退しろ」


 だんだん熱が上がってきているのを感じているが、まだ歩けないというほどではない。


 確かに帰るなら今かな。でも。


「生徒会長が早退というのもどうなんでしょう」


「ばっか。生徒会長だって人間だろーが。体調を崩すことくらいあるっての」


 それもそうだ。よかった。ちゃんと人間認定してもらえた。


「歩けそうにないならわたしが送っていってやるけどどうする」


 こんな送り狼に送ってもらったらどんな目に遭うか。


 丁重にお断りすると舌打ちされた。やっぱりなんか企んでたな、この人。


 カバンを回収するためいったん教室に戻ると文香や穂香をはじめとしてたくさんのクラスメートが心配そうな表情をしている。


 早退することを伝えて教室を出ると校門のところまで文香がついてきてくれた。


 人間関係に恵まれているな、わたしは。


 すこし足元が覚束ない感じはしたけど、なんとか家に到着。


 誰もいない自宅は寂しい雰囲気だけど、このまま眠るにはちょうどいい静けさかもしれない。


 制服からパジャマに着替えて、水分補給だけをしてそのままベッドに潜り込んだ。




 体が気持ち悪くて目が覚めた。


「ん、ゆき起きた?」


 横を見るとあか姉が座っていた。本を読んでいたようで、わたしが起き上がると栞を挟んで横に置いた。


「起きて大丈夫?」


 心配そうにのぞき込んでくる。そういえば小さい頃もわたしが熱を出して寝込んでいるとみんな心配して様子を見に来てくれたっけ。


「大丈夫。それより汗いっぱいかいたから体拭いて着替えたい」


 大量の汗をかいていたようで、パジャマだけでなく下着までべとべとだ。


 着替えを用意しようと思って立ち上がろうとしたらあか姉に止められた。


「ちゃんと用意してあるから。立たなくていい。少し待ってて」


 ふと横を見るとわたしの着替えが置いてある。パジャマだけじゃなくて下着まで用意してあった。なんか恥ずかしい。


 すこし待っているとお湯をはった桶とタオルを持ってあか姉が戻ってきた。


「背中拭いてあげる」


 上半身裸になり、あか姉に背中を向けた。同じものを持っているとはいえ、異性に胸を見られるのは恥ずかしい。


 優しい手つきでゆっくりと背中を拭いてくれるあか姉。温かくて心地いい。


 静かな時間の中、タオルが肌をこする音だけが微かに聞こえる。


「前も」


「さすがに前はいいよ。恥ずかしい」


「恥ずかしくなんかない」


 強引に正面を向かされてしまった。思わず腕で胸を隠してしまう。


「邪魔」


 その腕もあか姉によって取り払われてしまった。


 顔が熱い。真っ赤になってるに違いない。


「ゆき、とてもキレイ」


 笑顔でそうつぶやく。本当にそう思っているようで、その眼は恍惚としている。


「気持ち悪くない?」


「どうして?」


「男なのに……」


 わたしの顔をじっと見つめるあか姉。


「男、女。そんなの関係ない。ゆきはゆき」


 わたしはわたし……。たしかにその通りだ。


 あか姉にそう言われたら胸を見られているのも恥ずかしくなくなってきた。


「次は下」


「さすがにそれはダメ」


「ちっ」

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― 新着の感想 ―
ちょっと、ちょっと、あか姉ったら.....
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