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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第63曲 対立と和解

「それでは、須藤、石口、村山の3名を1週間の停学処分として職員会議に提出しようと思います。誰か反対の意見がある人はいますか」


 淡々と事務的に、ゆるぎない決定事項を告げるかのように処分内容を読み上げる御手洗委員長。


 そこに一切の感情はなく、停学を受けた生徒が今後どうなるかなどについての配慮も感じられない。


 しかも停学なんかに値しないくだらない理由で、だ。


「生徒会は全員一致で反対です」


 予定調和で決められた判決に気を遣う必要もないので遠慮なく反対を申し出た。


 予想通り敵意がたっぷり込められた反論が返ってくる。


「いじめは今全国的にも問題になっている由々しき事態です。停学処分は妥当どころか穏当ですらあると思いますが、生徒会はどういった根拠で反対をされるのですか?」


「根拠は根拠がないからです」


 禅問答のような返しをしてしまった。でもその通りなんだから仕方がない。


「風紀委員が調べた内容に根拠がないというのですか?」


 また敵意むき出しの目で見てくる。そんなに睨まなくても。


 わたしあなたの大事なプリン取って食べたりとかしてないですよ?


「風紀委員は加害者とされる生徒の方々からどういった証言を得て停学という判断に至ったのですか?」


 質問に質問で返すのは申し訳ないが、そこをハッキリさせないと話が進まない。


「3名はハッキリ言いましたよ。3人がかりで暴力を振るったと」


 勝ち誇った顔しちゃって。


 思い込みの正義で突っ走る人って怖いな。冤罪でもここまで自信を持てるんだから。


「それは事実であって真実ではないですね」


 またもや哲学的な答え。


 別に好きで難解な言い回しをしてるわけじゃないからね。


 無駄なやりとりをしていても時間がもったいないので生徒会が調べた事実を一気に述べることにした。


 元々4人は仲のいい友人関係で、同じ道場に通う仲間でもあった。


 その中で鬼嶋先輩が唯一初段の昇格試験に合格し、黒帯を取得。


 それで得意になった鬼嶋先輩が3人にマウントを取り、煽り始めた。


 最初は冗談で済ませていたものの、3人にだんだん不満が溜まっていき、ある日些細なことが原因で1対3の喧嘩になってしまう。


 いくら黒帯でも実力にそこまで大差があるわけでもない。


 同じ空手を習っている者たち3人がかりでかかってこられては太刀打ちできず負けてしまう。


 それで調子に乗った3人が何度も喧嘩を繰り返していたのが周囲にはいじめに見えてしまった。


 喧嘩のそもそもの原因がとても下らないことだったので妙なプライドが邪魔をして誰も真実を口にすることができない。


 そうしているうちにいじめという噂が立ち今回の結果につながってしまったことまでを一気に話すと、御手洗委員長の表情は完全に憎悪に染まっていた。


「それはたった一人、鬼嶋君が言っているだけのことでしょう!それに証拠はあるんですか!」


「いじめられた側がいじめた側をかばいますか、フツー。

 証拠もなく判決を下そうとしているのはそちらの方でしょう。

 ちなみに生徒会側はハッキリとした証拠を提出することができます」


「証拠があるですって?そんなものどこに……」


 強気を装っているものの御手洗委員長の様子には動揺が見て取れる。


「証拠は加害者とされた3人の体にハッキリ残っていますよ」


 そこまで言ってからその場で成り行きを見守っていた3人の先輩の元へ行き、ひとりひとりの袖をまくり上げていった。


 3人の腕にはたくさんの痣ができていた。


「皆さん見えますか?この痣がなんの跡かわかります?これは鬼嶋先輩が反撃したときにガードして受けたものですよ」


 御手洗委員長が驚愕に目を見開いた。


 リアクションがオーバーすぎ。アメリカ映画じゃないんだから。


「これが証拠ですね。つまりいじめなんて存在せず、仲間内のただの喧嘩だったということです。なので処分としては反省文の提出が妥当かと」


 ほんと下らない大騒ぎだ。でも……。


「生徒会がまた風紀委員の邪魔をするんですね。いつもいつも」


 わなわなと震えるいいんちょ。だからオーバーだって。


「わたし達は何も邪魔なんてしていないですよ。ただ片側の意見だけを聞いて判決を下そうとする魔女裁判を阻止しただけです」


「黙りなさい!前の生徒会の時もそう。あなたたち生徒会はことあるごとにわたし達風紀委員の邪魔ばかり!もはやこの敵対関係は我が校の伝統ともいえるものなんです!」


「くだらない!」


 つい大声をあげてしまった。わたしが声を張ると会議室全体にビリビリと響き渡ってしまう。


 場のみんなが驚いて凍り付いてしまっている。


 やっちゃったー。


 でもいい加減腹に据えかねていたのでいい機会だ。いっちゃえ。


「なーにが伝統ですか、くだらない!そんな伝統なんて百害あって一利なし。

 そんなものをなに後生大事に抱えてんですか。

 今までずっとそうだった?生憎(あいにく)わたしは今年入学してきたばかりなんでそんな過去のことなんて知ったことじゃありませんよ。

 生徒会、というだけで憎しみをぶつけて坊主憎けりゃ袈裟まで憎いですか?それこそくだらない。

 わたしという個人を見ず、生徒会という名の偏見にまみれた箱だけを見て敵視する。

 そんな子供じみたこと、高校生にもなってすることですか?

 わたしは風紀委員の邪魔をする気もなければ、そんな必要性も感じない。

 むしろお互いが協力しあってよりよい学校を作っていくことの方がよほど伝統にしてほしい建設的なことだと思います」


 下級生に正論をぶつけられて悔しいのだろうか。御手洗委員長は唇を噛んで下を向いたまま。


 わたしは自席から立ち上がり、御手洗委員長の席まで言って彼女の手を取った。


「昨日の敵は今日の友なんて言いませんよ。

 だってもともと同じ学校に通う仲間であって最初から敵なんかじゃないんですから。

 今まではどうだったかなんて知りませんけど、わたし個人とは仲良くしてもらうことはできませんか?」


 わたしはいつもかの姉が評してくれる、天使の微笑みを浮かべて御手洗委員長の手を胸まで持ち上げて両手で包み込んだ。


 わたしは天使じゃなく精霊なんだけどね。


 プライドの高いいいんちょのことだから振り払われるかなと思いきや、じっとしたまま動かない。


 よく見ると耳が赤い。


 おや?


 思っていたのと反応が違うぞ。


 突然いいんちょが顔を上げた。その顔は真っ赤になっていて、目には涙を浮かべている。


 そんなに怒っちゃったの?


 そんなにきついこと言っちゃったかな?


 そう思ったけどどうやら違ったみたいだ。


 いいんちょはわたしの手をしっかりと握り返して、目を輝かせていた。


「素晴らしいです、広沢会長!毅然とした態度に断固とした物言い、凛とした立ち姿。

 そして気高い精神!とても美しい!会長のお言葉、しっかりと心に響きましたわ!」


 おんやぁ?まさかの手のひらクルックルですか。


 周りのみんなもあまりの激変ぶりに唖然としてますよ。


「広沢会長!いいえ、ゆき会長!これからは生徒会と風紀委員、手を取り合ってよりよい学校づくりを目指していきましょう!」


 うん、まぁいいんだけどね。


 ある意味目的は達成したわけだし。


 でもさすがにこの急変ぶりにはわたしも驚いたかな。


 何が彼女をそうさせたのか、よくわかんないし。


 でもまぁこれにて一件落着でいいのかな。




 その後の御手洗委員長の変貌ぶりは誰もが驚くほどにすごいものだった。


 完全にわたしに心を許したのか、何かにつけては生徒会室を訪れて細かいことまで相談するようになったり。


 かの姉とあか姉の3人でお昼ご飯を食べているところに無理やり参加してくるようになったり。


 挙句の果てには「御手洗委員長なんて他人行儀な呼び方ではなく薫と呼んでください」なんてことまで言いだした。


 そこまで行くとなんか逆に怖い!


 一度言い出したら聞かないので仕方なく薫先輩とは呼ぶようになったけど、初めてその名前で呼んだ時はなんだかプルプル震えてたし。


 風紀委員の面々も最初は戸惑っていたものの、トップである薫先輩がそんな調子だから徐々に生徒会メンバーとも会話するように変わっていった。


 そしていざ会話してみると人間そんなに極端な悪い人なんて滅多にいないので仲良くなっていくのも時間の問題でしかない。


 結果、生徒会と風紀委員の確執は完全に消え去り、以後は良き協力関係を築いていくことができるようになった。


 そしてそれは以後も受け継いでいかれ、いつしか本物の伝統となっていった。




 ちなみにわたしの知らないところで『ゆき会長ファンクラブ』なるものが誕生しており、その会員第1号は薫先輩だったそうだ。

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