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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第60曲 ゆきのストライクゾーン

 生徒会のSNSが開設されて、いろんな問題が持ち込まれるようになった。


 たいていは階段の手すりのネジがゆるんでぐらぐらするとか、トイレットペーパーが切れていることが多いとかの些細な問題だったからひとつずつ確実に解決していったんだけどね。


 本当に何ひとつ漏らさず対応していたら生徒間で評判になったらしく、捨て猫の里親を探してほしいとか、近所の飼い犬がリードにつながれていないので何とかしてほしいとか学外の事まで相談されるようになった。


 さすがにこれはマズイことになりそうだったので、SNSに学内で解決できることに限るって注意書きをしたところ、どうにかその類の問題が持ち込まれるのを防ぐことはできた。


 それは良かったんだけど、次に持ち込まれた相談にわたしは頭を抱える羽目になってしまう。


 恋愛相談。しかも生徒会長直々の回答をご指名。


 恋……愛……相談?


 なにそれおいしいの?


 いやいやいやいやいやいやいやいや。おいおいおいおいおい。


 この恋愛偏差値全国最下位のわたしに何を相談しようというのか。


 何かの間違い?誤送信?このまま闇に葬る?


 待て待て。


 とりあえず落ち着けわたし。


 まがりなりにも15年以上生きてきたんだ。恋だの愛だのについて何も知らなくてどうする。


 分からなければ勉強すりゃいいんだ!


 こうして混乱したわたしは本屋さんで恋愛ハウツー本を買いあさっている姿をひよりに目撃されることになってしまった。


 いやぁぁぁぁ!




「まだ笑ってるの!?」


 家についてもまだ笑ってるひより。


「だって~!ゆきちゃんが、ゆきちゃんがれん、れん『恋愛学校』って!ぶふぅ!」


 女の子がそんな笑い方しちゃダメ!ってかそろそろ死ぬよ?


 より姉たちまでニヤニヤしちゃって……。


 事情はちゃんと説明したのに。


「生徒会長が生徒の相談に『経験ないからわかりません』って突き放すわけにもいかないでしょ!」


「わかったわかったって。で、その、なんだ、ぷふっ、れ、恋愛学校は役に、ぷふぅ!立ったのかあははははっ!」


 笑うか話すかどっちかにして!


「もうとっくに読み終わったよ。結論!よくわからん!でもこの中からいくつか抜粋してアドバイスすればいけるかなって」


 かの姉が真面目な顔をして感心している。目尻に涙ついてるけど。


「相変わらず速読ですねぇ。中身を確認してみたいのでわたしにも貸してもらえます?」


「いいけど、デートの作法とかどうやって男性の気を引くか、なんて説明しかないよ。かの姉そんな相手いるの?」


 素朴に疑問に思ったことを聞いたら頬を膨らませたかの姉に怒られた。


「こう見えても乙女なんですから。これくらいの事を知っておくのもたしなみのひとつですぅ!」


 なるほど、そういうものなのか。ひとつ勉強になりました。でもみんな浮いた話のひとつもないからなぁ。


「楓乃子、読み終わったらわたしにも貸して」


 あか姉も興味あるの!?これはちょっと意外かも……。


「ゆき、失礼なこと考えてる」


「そ、そんなことありませんよ?」


 本当は考えていました。あか姉って姉妹の中で一番そういうのに興味なさそうなのになーって。


 わたしが知らないだけで実はみんな青春を謳歌してるのか?


 でも誰も男のおの字すら出てこないくらい男性に興味なさげなんだよなぁ。


 まぁいいか。明日ちょうど配信の日だし、リスナーさんに相談してみるか。



 

「今日はみんなに教えてほしいことがあります」


 配信が始まってすぐに疑問をぶつけることにした。


「男の人ってさ、どういうきっかけで女の子の事気になったりするの?」


【ぶっ】【ゆきちゃん?】【男落とすことにしたの?】【え~】【よっしゃ!】


 いやいや。


 そうじゃなくって。てか誰だ最後によっしゃって言った人。


「実はさ、わたし今生徒会長やってるんだけど……」


【ゆきちゃんが会長うぅ!】【俺その学校に編入する!って年齢的に無理だったわ泣】【かわいい会長さん】


 話がすすまねー。


「そのことはまぁいいとして、生徒から相談を受けたの。詳しいことはプライバシーの問題で話せないけど、恋なるものをしたようで」


【そこでゆきちゃん指定?】【ゆきちゃんならなんとかしてくれそう】


「本当にそう思う?」


【だってゆきちゃんだろ】


 そのゆきちゃんだからですよ。


「本気で本当に心の底からそう思う?」


【なんか圧がすごい】【さてはゆきちゃん】【そういう経験ないな】


 やっと正解にたどり着いたか。


「恋って何なの?どうやったら発生するイベントなの?パンくわえて学校まで走ればいいの?」


【パンて。古典的な】【イベントてギャルゲーじゃないんだからさ】【ゆきちゃんひとまず落ち着こう】


 落ち着け、だと?


 これが落ち着いてられるか!未知の領域に踏み込むんだよ?2001年宇宙の旅だよ!もう過ぎたけど。


【ゆきちゃんに恋愛経験皆無なのはいいとして】


 いいのか。


【問題はどうやって恋心と言うものを知るかだよな】


 なに?


「コイ……ゴコロ」


【処理落ちしちゃったか】【どう教えたもんか】【赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるあたりか】


 幼児!?


「いやいや、さすがにそこまでさかのぼらなくていい。さすがに恋がどういったものかくらいは知っています!」


【たとえばさ】ふむ。【ゆきちゃんのストライクゾーンにハマる人ってどんなの?】


 またそんな質問を……。 


 ぐうぅ、恥ずかしい。


 思わず三角座りに移行したわたしはそのまま膝に顔を埋めてしまう。だって恥ずかしいし。


 そのまま目だけ足の隙間から出して上目遣いでカメラを見た。


【ぐはっ】【そのアングルは】【殺傷力が……衛生兵!】【彩坂きらり:ゆきちゃんの上目遣い、スクショ!】


 あ、きらりさんいたのね。


「わたしこれ言っちゃっていいのかなぁ。」


【はよはよ】【冬空雪乃:なにがあるの】【日向キリ:ハァハァ】


 雪乃ちゃん!?キリママもいたよ。


 誰かほかにもいるんじゃないか?


「いまのうちにおとなしく出てきなさーい」


 上目遣いのままモニターに呼びかけるとポンと2行表示された。


【水音紡:ナハハ】【Reira:最初からいました】


 なんかそんな気がしたんだよね。


「やっぱりいたか。まぁいいや。それでね、わたしのことなんだけど」


 モニターの向こうからみんなの固唾を飲む音が聞こえてきそうだ。


 そのまま続ける。


「わたしのストライクゾーンってね。すんごく狭いの。それはそれはもう、サランラップに爪楊枝で穴開けた程度」


【それボール通らん】


「ピッチャーマウンドは200m先」


【Reira:イ〇ローでも無理】


 わたしは顔をさらに膝に埋め、目だけが見えている状態。きっと顔は真っ赤になっているだろう。


「でもね、それを見事スナイパーライフルで撃ち抜いちゃった人がいたの」


【彩坂きらり:なんですとぉ!飛び道具とは卑怯なり!】


 ちょっと静かに、きらりさん。


「もうね。直球ど真ん中をキレイにスパーンと撃ち抜かれちゃったんだ」


【撃ち抜かれた……】


「その人達のおかげでわたしのストライクゾーンはもう全部ふさがれちゃって誰にも破れないんだ」


【ん?達?】


「わたしの4人の天使様たちがね、理想であって最高なの!ひゃー言っちゃったー!」


 公衆の面前で何言ってんだわたし!恥ずかしくて顔から火が出そう!


【【……】】


 反応がない。わたしがこんな恥ずかしい想いを吐露したというのに。


【彩坂きらり:なんだいつものシスコン自慢か】【Reira:聞いて損した】


 なんだいつものって!?いつもそんなに……言ってるか。


 損したまで言われたし。


【冬空雪乃:さすがゆきさん、素晴らしい家族愛!】【日向キリ:想定通り】


 雪乃ちゃん、分かってくれるのは君だけだよ。キリママ悪人顔してそう。


 だけどわたしが愛情を持って語れるのはこの4人の天使様しかいないしなぁ。


「でも、ひとつだけ言えるのはもうストライクゾーン埋まっちゃってるからわたしはこれから先、一生恋をしないだろうってことかな」




 その頃、ゆきの頭上数メートルの地点でもだえ苦しむ4人の女たちがいた。


「天使様……ゆきがあたしらのことを……ストライクゾーンぶち抜かれたのはこっちのほうだっての!あんなかわいい照れた顔で」


 とベッドに埋もれて余韻を噛みしめるより姉。


「まぁ、わたしもちゃんとゆきちゃんのハートを撃ち抜いていたんですね……あぁゆきちゃん大好き!はぁかわいすぎます」


 と恍惚の表情を浮かべるかの姉。


「わたしはゆきだけに撃ち抜かれた。わたしだってゆき以外に恋なんてしない。天使様……フフ」


 無表情にほほえむあか姉。


「あ~ん、ゆきちゃんのはにかんだ顔最高!わたしもゆきちゃん大好きだよ~今すぐ下りていってぎゅーしたーい!」


 ひよりはベッド上をゴロゴロ転げながら悶えている。


 しかし、4人に共通した思いはひとつ。


「ゆきにはだれにもちょっかいを出させない!」


 心の中で腕を組む4人のブラコンたち。




【でも、ゆきちゃんのブラコンを恋愛相談にあてはめることはできないんじゃ?】


 それをいわれたらそれまでなんだけどさ。


「でも誰かの事を強く思うのが恋なんでしょ?だったらわたしの気持ちも似たようなもんじゃないかな」


【彩坂きらり:ぐぬぬ、最大のライバルが身内とは……】


 ほんときらりさんうちに来るとキャラ変わるよね。


「ライバルっていうより、わたしが恋をできないってだけで人を強く思う感情はわかるよ。

 その人のことを考えるだけで胸が高鳴って、目が合うだけで嬉しくてドキドキして。

 ちょっとしたことでも気になって、今何をしてるのかなぁとか考えちゃう。

 それに他の人と話してたりするのを見ると何話してるのかすごく気になっちゃう。

 これって恋心に似てるでしょ?」


【Reira:ゆきさんの強すぎる家族愛にあてられて酔いそう】【日向キリ:これがゆきちゃんの魅力のひとつでもあるのよフヘヘ】【冬空雪乃:さすがゆきさん、愛が深いです!】


 レイラさん失礼じゃない?こんなに純真な家族愛を披露しているというのに。


 キリママはトリップしかけてるから置いといて、雪乃ちゃんだけだよわかってくれるのは!


【でも確かに誰かに愛情を注ぐという点では共通する面もあるだろうね】【下手なハウツー本買ってアドバイスされるより説得力はありそうだ】【ゆきちゃんなら好きな相手にどうしたいかを考えて伝えてあげればいいんじゃないか】


 おぉ、コメント欄がなんかまともなこと言いだした。


 やっぱりわたしの愛情はまちがってなんかいないよね!


 ところでなんでわたしがハウツー本買ったの知ってるんだ?見てた?見てたのか!?


 リスナーさんの中には学校の同級生も混ざってるから油断も隙もない。


 一応プライベートな発言ばっかりする人は出禁にしますって言ってあるけど。


 でもリスナーさんに相談して肩の力が抜けたのは事実だからお礼くらいはしないとね。


 今日の新曲は恋心を思いっきり歌詞に織り込んだから、しっかり情熱的に歌って届けよう!


 珍しく生配信でのダンスを封印してマイクを持って歌う。気持ちのこもったわたしの歌声はいつもより数段情熱的だった。



 あんな愛の告白めいたセリフを聞かされた後にこの曲を聴いた姉妹たちのHPがほとんどゼロになってしまったのは言うまでもない。

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