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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第59話 生徒会長ゆきの初仕事

 本番まで日がないので、翌日さっそく昼休みに校内放送で各部活の代表に視聴覚室まで集まってもらうようお願いした。


 部活勧誘会の件なので不参加を決め込む部活はないだろうと思う。


 どこも新入生獲得に必死だもんね。



 

 そして放課後。想定通りに全部活の代表者が一堂に会した。こうやって集まると部活の数がどれくらい多いのか実感できてなかなかに壮観だ。


 でもこの数の部活が限られた数の新入生を取り合うのだから、白熱してしまうのもわかる。


 ひとまず生徒会は会議の進行役に徹することにして、ホワイトボードに今日の議題を書き出していく。


『部活勧誘会における屋外使用権の公平な分配について』


 わたしご自慢のキレイな字でそう書き出すと主に運動部の方からざわめきが起きた。


 既得権益として屋外を占有してきた立場からすれば権利侵害に映ってしまうのだから当然と言えば当然のことだろう。


「まずこの議題の発起人でもある華道部の錦山灯先輩から詳しい内容説明、お願いできますか?」


 呼びかけに応えて錦山先輩がキレイな所作で立ち上がる。何をしても絵になる人だな。


「ご紹介にあずかりました、錦山灯と申します。以後お見知りおきを。

 さて、議題の趣旨でございますが、昨今文化部に所属する部員の減少により中には存続すら危ぶまれる部活が多数存在することを(かんが)みまして、新入生の部活勧誘会において文化部にも校門、校庭などの屋外での宣伝活動を認めていただきたく今回発起人(ほっきにん)として議題を提案させていただいた次第であります」


 相変わらず時代がかった話し方をする人だ。扇子で口元を覆いながら話してくれたら貴族っぽくて完璧なのに。


 いけない、バカなことを考えていたら吹き出してしまいそうだ。


 吹き出しそうになるのを肩を震わせながら必死に耐えていると、予想通り運動部の方から反対意見が出てきた。


「文化部が屋外使うってことは屋内に回される運動部がでてくるってことだろ?運動部が学校の廊下で勧誘とか何しろって言うんだよ」


 発言したのはサッカー部のキャプテンらしい。名乗らなかったので名前は知らない。


 この学校特有なのかはわからないけど、勧誘活動の内容を聞けば彼の言うことも納得できる。


 言い方に少しとげを感じるのも反発の表れだろう。


 この学校の運動部は部活勧誘の際にパフォーマンスというか、エース級の人間に実際の華麗なプレーを再現させて見るものを魅了させるような手法を取っている。


 なのである程度の広さが必要になり、とても学校の廊下で同じことができるとは思わない。


 だけど、存続すら危うい文化部の方もそんな言い分には負けじと発言する。


「本来運動部と文化部には上下関係はないはずです。

 文化部だって広いスペースを使って作品を展示すれば見た目も映えますし、勧誘活動に屋外を利用したいという意見が多いんです。

 今までの慣習で自然と分かれていただけで、我々にも屋外使用を希望する権利はあるはずです」


 反論したのは手芸部部長。


 こちらの言い分もわかる。芸術的作品がずらっと周囲を囲んだ時のインパクトは廊下で一列に並べているだけの現状に比べれば比較にならないだろう。


「だったらどうすんだよ?くじびきに文化部も参加させて、屋外屋内の両方を抽選で選ぼうってのか?」


 次に意見したのは野球部キャプテン。


 それにしてもみんな名前くらい名乗ろうよ。誰が誰かわかんないよ?ちゃんとみんなの名前覚えておきたいんだけどな。


「もちろん公平性の面からそうするべきだと思います。運動部だけが独占するというのは横暴です」


 少し感情的に言い返したのが家庭科部部長。校門前で料理を振舞ってくれたら嬉しいかも。


「だからぁ。運動部に廊下で何しろって言うんだよ。廊下は走っちゃダメなんだぞ」


 ちょっと嫌味っぽく言い返したのがバスケ部キャプテン。


 確かに廊下でドリブルしてたら先生に怒られるだろうな。


 だんだんみんな感情的になってきたのか、言い方が攻撃的だったり揶揄したりとちょっと穏やかでないものになってきたな。


 ここら辺まで来たらいよいよ生徒会の出番かな?


「はい!みなさん落ち着いて!このままではどこまで行っても平行線です!」


 わたしの良く通る声でそう呼びかけると視聴覚室内は再び静かになった。わたしは続ける。


「ご自分の意見や都合を主張するのは結構ですが、もう少し相手の立場に立った意見も必要なんではないでしょうか?

 例えば条件を飲む代わりにどうしてほしいと要望を出すとか。

 反対をするなら対案も合わせて出すのが友好的な議論というものではないですか?

 その中で生徒会にもできることがあればお聞きします」


 その言葉に全員が押し黙る。やっぱりみんな自己都合を最優先に考えてしまうのは仕方ない面もあるんだけどね。


 でもそれじゃ議論はすすまないよね。四角い頭を丸くしよう!


「どなたかこうすればより建設的な結果になるんじゃないかという意見をお持ちの方はいませんか?」


 そう呼びかけてもなかなか意見は出ない中、恐る恐る手を挙げた人がいた。


「あの、文芸部2年の麻生加奈子と申します。

 ひとつの意見なんですけど、校庭を半分にわけて、それぞれを文化部と運動部に分けるのはいかがでしょうか?少し狭くはなりますが、そこは双方我慢するということで……。

 生意気言ってごめんなさいごめんなさい!」


 謝る必要ないでしょ。ちゃんとどちらの意見も踏まえて考えられていていい意見だと思うけどな。


 でも当然と言えば当然、反対の意見もでるわけで。


「そうするとできることも限られてくるんだよなぁ。もっとダイナミックな感じで見せたいわけだしさ」


 陸上部のキャプテン。なんだダイナミックって。42.195km走るのを見せるつもりか?


 こりゃあダメだな。出てきた対案が一件だけじゃとてもじゃないけど解決まで持っていける気がしない。


 時間もないし、そろそろ生徒会の実力というものを見せてあげることにしますか!


「議論もなかなか進まないので、わたしからの意見を言ってもいいですかね?

 みなさん、大きさの変わらないパイを取り合いしてるから話が進まないんだと思いますよ?

 ここは視点を切り替えて、それぞれ日を替えて部活勧誘会をするというのではどうですか?」


 みな一様に驚いた顔をしてこちらを見る。


「それって1日目は運動部、2日目は文化部だけで勧誘をするってこと?」


「それは思いつかなかったな」


 物事はちょっと見方の角度を変えるだけで違う側面が見えてくるもんだ。


 ただその上でまだ出てくるであろう反対意見をどう処理するかが本当の腕の見せ所。


「でもそれじゃ、活動期間が実質半分になってしまうんじゃ。それは痛いかなぁ」


 ほらね。やっぱり出てきた。もちろんその反論も予測済み。


「それじゃ延ばせばいいじゃないですか」


「え?」


 みんな分からないといった顔をしている。なに、ごく単純なことでしかない。


「現状2日間の新入生勧誘会を4日間に延ばせばいいんですよ!

 それで1日ずつ交互に運動部と文化部がアピールする。

 これにはちょっとしたメリットもありますね。

 勧誘されたその日や翌日に即決できないような生徒だっていますよね。

 そういう人に、翌日はジャンルの違う部活を見学しながらじっくり考えてもらうことができます。

 その結果やっぱりあの部活に入ろう!って決心がつく生徒もいるんじゃないですかね?」


 みんな驚愕に目を見開いている。信じがたいのも無理はないかも。


 だって今まで勧誘会は2日間っていう不文律に従って活動してきたんだもんね。


 でも思考を縛ってしまうような不文律があるなら新しい法案を出して上書きしてしまえばいい。


 提案されてみると簡単な事なんだけど、なかなか思いつかないというのが日本人は保守的だと言われる所以(ゆえん)なのかもしれない。


「本当にそんなことが可能なのか?」


 そりゃそうも思うよね。でもわたしは就任演説の時に言ったはずだよ。


「わたしはどんなに馬鹿げていると思われる意見でも決して無視したりしません!

 言いましたよね?みなさんの学園生活が少しでも楽しく、実りあるものにするのが生徒会長であるわたしの役割であり、責務です。

 期間の延長くらいわたしにどんと任せてください!

 なんなら校長の弱味でも握って見せますから」


 そう言ってウィンクするとあれだけ殺伐としていた視聴覚室内に笑いが巻き起こった。


 何人か赤い顔をしている男子生徒もいるが放っておこう。


「他に反対意見、もしくはもっといい解決案のある方はいますか?」


 誰も手をあげない。


「それではわたしの出した提案でいいと思う方は挙手お願いします」


 全員が手を挙げた。満場一致で可決。


「ありがとうございます。それでは各部活の方はどんなアプローチをするかを部活内で話し合ってくださいね。

 場所取りのくじ引きは明日の放課後、屋外に絞って運動部、文化部で2回ずつ抽選を行いますので参加してくださいね!不参加は棄権とみなされますよ。

 やっぱり屋内がいいという部活があったら申し出てください。

 それでは、後のことはわたしにお任せくださいね」


 最後に生徒会員一同深々と頭を下げる。


 教室内に拍手が響き渡る。初めてのお仕事としては上々の出来じゃないかな!




 ちなみに先生方との交渉だけど、もはや交渉と呼べるようなものではなかった。


「というわけで新入生の部活勧誘会は4日間に延長となりました!」


 と有無を言わさぬ勢いで事後報告をしただけ。学年主任が異議を言いそうな気配があったので最後に釘を刺した。


「全部活の代表者による満場一致で可決したことなのでもし覆すとなれば相応の反発があると思いますが、優しい先生方はそんなことしたりしませんよね」


 と満面の笑顔で告げるとそのまま黙ってしまった。


 校長先生と担任の山野先生は笑いをこらえるのに必死みたいだったけど。




 そして迎えた新入生部活勧誘会当日。


 結果は大盛況だった。


 抽選の結果、文化部が1日目の権利を獲得したのだけど、各部活が集まって話し合ったんだろう。


 華道部と園芸部が他の部活の垣根を越えて校門から校庭のそこら中に生け花やフラワーアレンジメントを飾ったおかげで全体の彩りが鮮やかになった。


 美術部も同じく彫刻や絵画をあちこちに飾ったおかげで一時的に校庭がヨーロッパの庭園のような華やかな場所に激変。


 各部活に書道部から提供された一言紹介が設置された看板の存在感を増している。


 それらの相乗効果は飾られる手芸部や家庭科部などの展示品をより引き立たせていた。


 それを見た教師陣からも感嘆の声が漏れるほど。


 それに触発された運動部の方も例年とは違うパフォーマンスを披露し、新入生からは大盛況。


 運動部、文化部共に満足できるだけの部員が集まったようだ。


 そこには1日開けて開催したということのメリットもあったようで、2回目の勧誘会に来て「1日じっくり考えてやっぱり決めました」と入部届を出す生徒が結構多かったらしい。


 人間の心理ってそんなもんだよね。


 学校からの報告によると、今回の結果で例年より帰宅部の割合が相当な程度減ったらしい。


 一石二鳥どころか三鳥も四鳥もいっちゃったみたいでなにより。



「去年はこうだったから」なんてセリフはもういらない!

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