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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第58曲 ゆき、いきます!

 結局生徒会長選挙の信任投票は行われなかった。


 会場を揺るがすほどの万雷の拍手が満場一致とみなされ、投票するまでもないという意味だ。


 生徒会長と副会長は同時に選ばれる慣習のせいで副会長も選挙のやり直しになってしまったのだけど、そちらはうってかわって激戦。


 たくさんの候補者がいて、それぞれのスピーチを聞いているのは楽しかった。


 真剣に学校を良くしようとする人、ユーモアを効かせて観衆を沸かせる人、緊張してどもりながらも一生懸命語る人などさまざまだ。


 激戦の結果、副会長は今年3年生の谷村彰浩たにむらあきひろ先輩が当選。なぜか乱立してしまった大勢の候補者の中から選ばれたある意味精鋭だ。


 そして、生徒会長と副会長は選挙で選ばれるが、会計、書記、庶務については会長に任命権限があるのが我が校のシステム。


 会計と書記は前年度2年生で勤めていた先輩に再就任をお願いしたら快く引き受けてくださった。


 会計は横河睦美よこかわむつみ先輩で書記は杉山佳乃すぎやまよしの先輩だ。


 庶務に関しては前年勤めていた方はもう卒業してしまっていたので悩んだけど、生徒会の中にも気心の知れた相手が欲しいと思い文香にお願いした。


「そんな1年生で役員なんて!」と最初は固辞していた文香だったけど、同じ1年生のわたしが生徒会長なんだよね。


 何度も頭を下げると渋々ではあったもののどうにか引き受けてくれた。


「もう、ゆきちゃんの頼みだから引き受けるんだからね!そこのとこちゃんと分かってる?」


 そう言って釘を刺されたけど、もちろん分かっているに決まっている。


 本当に友達というのはありがたいものだ。


 こうして当学園で前代未聞となる新1年生率いる生徒会は発足した。




「近くで見たらもっとかわいい~!」


「けっこう小さいわね。お持ち帰りしたいわ」


 睦美先輩と佳乃先輩とはすぐに打ち解ける(?)ことができた。


 というかおもちゃにされた。


 でも谷村先輩は男子が他にいなくて居心地が悪いのか、会話の輪に入ってこようとせず黙々と書類作成や整理に没頭している。


 せっかく少数派の男同士なんだから仲良くしてくださいよー。


「谷村先輩!」


 わたしが声をかけると余程意外だったのか、椅子から転げ落ちるんじゃないかと心配するくらい飛び跳ねて驚く先輩。


 いや、幽霊じゃないんだからそんなに驚かなくても。


「な、なな何かな?広沢会長」


 平静を装ってるけど、どもってるし声裏返ってるよ?


「せっかく男同士なんですから、これから仲良くしてくださいね!」


 そう言って右手を差し出す。きょとんとする先輩。そういや日本ではシェイクハンドはあまり一般的じゃないんだった。


「握手、握手!」


 言われてようやく気が付いたのか、慌てて右手を出そうとしたけどすぐに手を引っ込める先輩。どうしたのかな?


 ハンカチ出してめっちゃ拭いてる。そんなに手汗すごいの?


 ようやく手を差し出しあって握手!


「男子はわたしと先輩だけですから!少数派は団結して頑張っていきましょうね!」


 笑顔で共同戦線の提案をした。


 了承の返事が返ってくるかと思いきや、手をさっさと引っ込められてしまった。顔が赤い?


 一部始終を見ていた睦美先輩と佳乃先輩が笑いながら肩を組んできた。


「楓乃子から聞いていたけど本当に鈍いんだねぇ」


「今回の副会長選挙、どうして候補者が殺到したか知らないの?」


 どういうこと?毎年そうじゃないの?


「なんといっても今年の生徒会長は雪の精霊YUKIだからね。そりゃ男どもが群がるってもんよ」


「谷村君もゆきちゃんのファンですわ」


 マジですか!?道理で挙動不審なわけだ……。


 ファンでいてくれるのは嬉しいんだけど、わたし男だしなぁ。過剰な反応はこちらとしても対処に困る。


 ちらっと谷村先輩の方を見ると慌てて目を逸らされた。


 こんなんで大丈夫なのか、生徒会。



 

 生徒会を発足して最初にやるお仕事は新入生への部活勧誘会の監視進行。


 各クラブがどこで勧誘するかの場所決めをして、当日は過度な勧誘に走るものがいないか風紀委員と共に監視する業務。


 場所決めに関しては完全に抽選制であり、一番人気はやはり新入生を最初に捕まえられる校門前。


 部活勧誘会は2日間行われるから、公平を期すためにも1日目、2日目と別々に抽選をする。


 抽選自体は場所を書いた紙を箱に入れて各部活の代表者に引いてもらうだけなので楽なものだ。


『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』のことを思い出してくすくす笑いながらくじを作っていると文香が不思議そうに尋ねてきた。


「ゆきちゃんなんかご機嫌だね?くじを作るのがそんなに楽しいの?」


「文香はわたしがVtuberだってことをみんなに隠してたはずの時期に、3人の子とコラボ企画したの覚えてる?」


「根に持ってるなぁ。気づいてるのに黙ってたことは悪かったって何度も謝ったじゃん。で、コラボだっけ?覚えてるよ」


 根にも持つっての。実はバレてましたって聞かされた時の恥ずかしさときたら……。


 黙ってた私も悪いからあんまり強くは言えないけど。


「あの時400人近くの応募があったんだよ。そのくじをひとりで作ってたのを思い出してね」


 2人でそんなことを話していたら先輩も参加してきた。


「その話知ってる~。3週連続で違う子とコラボしたんだよね?」


「最後の子をいじめてましたわね、確か」


 佳乃先輩それどこ情報!?


「ちょ、人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!あれはライバル同士の熱いバトルとそこから和解に至る素晴らしい青春ドラマじゃないですか!」


 レイラさんとコラボをした時のことが文字通り昨日のことのように思い出される。


 そりゃわたしも負けず嫌いを発揮したけどさ。


 いじめていたというのは心外だ。


「でも最後の子泣いてたもんな?」


 睦美先輩分かっていて言ってるでしょ。


「なんで泣いてたらいじめてたになるんです?それを言うなら他の2人も泣いてたし。そんなの当然感動の涙にきまってるじゃないですか」


 歌に必要なのは心だという話をしたんだよね。


 それがレイラさんの心に響いて仲良くなって。熱かったなぁ。


「そういえばコラボする子全員抱きしめてたよな、この女たらしめ」


 ぐぅ!は、反論できない。


 つい感極まってしまって全員ハグしちゃったんだよなぁ。


 でも向こうから飛びついてきたんだもん。


 そこでわたしはふと気になって人生の先輩2人に尋ねてみることにした。


「女の人ってそんなに簡単に男の人にハグしようとしたりしませんよね?」


「そりゃそうだ」


「はしたないですわ」


 うんうん。だよね。ということは、だ。肝心なのは次の質問の答えだ。


「わたしあの3人にもれなく飛びついてこられたんですけど、これってわたしが男として見られていないという証拠なんでしょうか?」


「……」


 2人で顔を見合わせている。


「さ、くじも出来たし今日はそろそろ帰るか」


「そうですわね」


 そこまであからさまに話題を逸らしますか。そうですか。


 もはやそれが答えみたいなもんじゃないですか。


 まぁ以前からみんな気安く触ってくるしそんなところだろうなとは思っていたけど。いいけどね。フン。


 そういえば最後まで会話に入ってこなかったな、谷村先輩。


 存在忘れられても知りませんよ?


 誰に?さぁ誰にでしょう。


 ただ睦美先輩の言う通り今日やる作業は全部済んでしまったので帰る支度をしていた時のこと。


 生徒会室の扉が控えめにノックされる音がした。


「はい、どちらさまですか?」




 ドアを開けるとそこに立っていたのは清楚を絵に描いたような大和撫子だった。


「突然の訪問申し訳ありません。わたくし、華道部主将の錦山灯にしきやまあかりと申します」


 見た目通りというかなんというか、ものすごく丁寧なあいさつをされてしまった。


 こういう時なんて答えればいいんだ?


「いえいえお構いなく。生徒会はいつでも貴女の訪問を歓迎しておりますので。今日はどういったご用件でしょう?」


 少し口調が移ってしまった。なんか緊張する。


 楚々とした動作は理にかなった動きをしており、何らかの道を習得している人物だというのはすぐに分かった。


 それにしても華道とはこれまた見た目にぴったりすぎる。


 きっとこの人も神様からギフトを与えられた類の人なんだろうな。


「本日は、今度行われる新入生に対しての部活勧誘会の件について陳情に伺いました」


 なんか穏やかでない言葉が聞こえたな。


「陳情とはこれまた。何か問題があるのですか?」


 やばい。時代劇みたいなやりとりがだんだん楽しくなってきた。


 扇子が欲しいな。


「はい、問題というよりも公平性に欠けると思いまして。広沢会長の演説を聞いて感動を覚えたわたくしとしましては、この件を解決してくれるのは広沢会長を置いて他にいないと判断してはせ参じた次第です」


 はせ参じたって初めて聞いた!


 なにこの人!ほんとに面白くなってきたんだけど!


 誰ぞ刀を持てい!


 って悪ノリしてる場合じゃないや。


「広沢会長はやめてください。なんか照れます。ゆき会長かゆきちゃんでいいですよ!」


 この辺で軌道修正しておかないと本当に笑いだしてしまいそうだ。


「そうですね。ちょっと畏まりすぎました。ではゆき会長、本題なんですけど」


 まださっきまでのノリが抜けきっていないのか、体を少しひねって斜めに身を乗り出してきた錦山先輩。悪代官とのやりとりみたいだ。


「毎年、部活勧誘は運動部が校門前を含めた屋外、文化部は校内と決まっているんですがそれではどうしても公平性に欠けると思うんです」


 なるほど。今までは校舎の内外で棲み分けをして活動範囲がかぶらないようにしてきた、と。


 それはそれで合理的ではある。文化部は室内の活動がメインだし。


「だけどそれではどうしても屋外で活動する運動部の方が目立ってしまい、結果的に生徒の大半を運動部に取られてしまっています。元々人数に課題を抱える文化部側としてはこれ以上看過できない状況になっているんです」


「つまり、文化部にも屋外での勧誘活動をさせろと?」


 わたしが問うと黙ってうなずく錦山先輩。


 こればっかりはさすがの生徒会も一存で決めるわけにはいかないな。


「であれば、まずは各クラブの代表者に集まってもらっディスカッションの場を設ける必要がありますね。生徒会の方で呼びかけますので、日程はこちらで決めてもいいですか?」


 部活勧誘会までそんなに日がないのでのんびりしているわけにもいかない。スピード勝負だ。


 逆にここが新生生徒会の腕の見せ所とも言える。我が校はけっこう部活の数も多いので意見の一致を図るのもなかなかの難題。


 これを鮮やかに解決してしまえば、その実行力や裁定力を生徒たちにも認めてもらえるかもしれない。


 生徒会長としての初仕事はこうして陳情の解決という難題をいきなり抱えることになってしまった。やるしかない!

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