表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/74

第52曲 神様、おねがい

 家に帰るとより姉たちが心配して玄関先まで飛んできた。


「通り魔出たんだって!?ちょうどお前らが出かけた場所だったから心配したぞ!何度も連絡したのに!」


 え?と思ってカバンのスマホを確認したら3人分の着信とメールでえらいことになってた。やば。


「えっと、情報早いね。なんで知ってるの?」


「ニュース速報」


 そっか。納得。


「まぁわたしたちはどうもなかったし、事件も無事解決したからさ」


 どうにか話を誤魔化そうとしたけど甘かった。


「聞いてよお姉たち!ゆきちゃんたらさ~無茶ばっかするんだから!」


 ひよりがチクってた~!


「まぁまぁ!玄関先で立ち話もなんだし、リビング行こ!」


 姉妹たちの背中を押してリビングに押し込む。


 すると点けっぱなしになっていたテレビから今日のニュースが流れてきたところだった。


『本日午後3時ごろ、〇〇ショッピングセンター前で通り魔事件が発生しました。視聴者様から寄せられた現場の映像が届いていますのでご覧ください』


 ん?映像?


 画面に映し出されたのは電柱に突っ込んだ車。あの親子をはねた直後だ。また少し毛が逆立つ。


 そして車から下りてくる男、刺される男性。何度見ても気分が悪い。


 そこでカメラが急に振れて走る少女を映し出す。


 少女ちゃうし!わたしだし!


 い、いつの間に撮られてたの?


 そこからの展開はご存じの通りで、あああぁぁぁぁぁ!


 もう見てられない!うずくまるわたし。


 ご丁寧に犯行車両の裏まで回り込んできていたようで、AEDを使うわたしの声も聞こえてくる。


 やめてぇ~。


「ゆ~き~……」


 怒気をはらんだより姉の声。こ、こわい……。


 そーっと立ち上がる。でもみんなの方を見る勇気がない……。


 ナイフめがけて突っ込んでいったんだもんなぁ。そりゃ怒るよね。


「なんであんな無茶なことすんだよ!」


 後ろから肩を掴まれて振り向かされたら、より姉の顔が間近にあった。


 近い近い!


 思わず目を逸らすと、後ろめたいと勘違いされたのか余計に怒られた。


「ちゃんとあたしの目を見ろ!本当にどこも怪我とかしてねーんだろな?」


 うんうんうんと首を縦に振る。それよりも顔が近いんだってば。


「はぁ。あの映像見て心臓止まるかと思ったわ。ナイフに向かって全力疾走するとか……。アホか」


「そうですよ、ゆきちゃん。こんなに心配かける子はめっです」


 かの姉にデコピンされた。痛くないけど。


「ゆきの体が一番大事」


 お腹のあたりに感触を感じたと思ったらあか姉がしがみついてた。


「もう、みんな大げさだってば!わたしがあんな程度の奴に後れを取るわけがないことくらいみんなも知ってるでしょ?」


 すると次はより姉からデコピンを食らった。


 今度は痛い……。


「そういう問題じゃねー!」


 そしてお腹のあたりをしめつける感覚。


 だんだん力が強く……痛い痛い!あか姉!?


「人の心配を考えないゆきにお仕置き」


 それもうベアハッグ!


「ごめんなさいごめんなさい!もうしません!だから許して!」


 ちゃんと素直に謝ったらどうにか離してくれた。中身出るかと思ったよ……。


「細いから締めやすかった」


 そんな感想どうでもいいから。


 ようやく解放されたのでもう一度テレビに目をやるとまださっきのニュースの続きをやっている。


『なお、病院に搬送されたのは男性1名が重傷。女児1名が意識不明の重体とのことです』


 え?


 意識不明?


 重体?


 そんなまさか。たしかにあのとき「おかあさん」って。目もうっすら開いてた。


 ま、まぁ痛みでまた気を失っちゃっただけだよね。


「ゆき、大丈夫?」


 あか姉がわたしの顔を見て声をかけてきた。


「ちょっとゆきちゃん真っ青ですよ!?」


 かの姉。わたしそんなにひどい顔なのか。


 ダメだ。


「大丈夫!それじゃわたしご飯作るから!」


 心配そうに見守る姉妹たちに背を向けてキッチンへと逃げ込む。


 大丈夫。大丈夫。


 きっとあの子だって神様が助けてくれる。わたしのように……。


 信じてるから大丈夫。


 ふぅ。気持ちの切り替え完了。


 今日もみんなに美味しいご飯を作ってあげないとね!




 いつものように食卓は笑顔に包まれている。


 両親はやっぱり残業でいないけど、姉妹たちに囲まれているだけで十分に賑やかだ。


「もーより姉!好き嫌いいくない!ちゃんと自分で食べなよー」


 ひよりに嫌いなものを押しつけたより姉が怒られている。


 かの姉が笑う。あか姉も……多分笑ってる……ように見える。つられてわたしも笑ってしまう。


「もーゆきちゃんからも言ってあげて!好き嫌いはだめだって!」


「しょーがねーじゃねーか。嫌いなもんは嫌いなんだから」


 もう。成人したってのに変わらないな。より姉は。


 まぁひとつ歳を重ねただけでいきなり急変してもびっくりするけど。


「今度味がわからないようにしてこっそり料理の中に混ぜ込んでおくよ」


「やめてくれー」


 大丈夫だって。食べ終わるまで種明かししないから。


 そうやって笑いあっていた中でわたしの耳に飛び込んできたのは昼間のニュースの続報。




 反射的に立ち上がり、すかさずテレビの前へ移動していた。


 無意識に両手を握り合わせてしまう。


 お願い!


『本日〇〇ショッピングセンター前で起きた通り魔事件の続報です。犯人の男は……』


 そんな奴の動機なんてどうでもいい!それより!


『事件の被害者ですが、男性1名重傷。女児1名死亡とのことです。亡くなった方にご冥福をお祈り申し上げます』


「テレビ消せ!」


 より姉が慌てて叫んでいた。


「より姉、もう遅いよ」


 ひより、なんでそんな悲しい声してるの?


「ゆき」


 何?あか姉。


「気をしっかり持ってくださいね」


 何を言っているの?かの姉。わたしはいつも通りだよ。


 いつも通り……。


 気が付いたら膝をついていた。胸の前で組んでいた掌も今は両側に力なく垂れ下がっている。


 こんな姿をみんなに見せてちゃダメだ。


 しっかりしろ!ゆき!


 やれるだけのことはやったんだ!胸を張れ!


 下を見るな。考えるな。


 わたしの大切なものは今ここにある。


 みんなを心配させてはいけない。


 自分を叱咤激励してなんとか立ち上がり、食卓へ戻る。


「ほんとひどい奴だよね。あんな罪もない小さな子を」


 苦笑いを作ってそこまで言った。


 でもそれが限界だった。


 口を押さえて再び食卓から立ち上がったわたしはそのままお手洗いへ。胃の中のものを全部吐き出してしまった。


「女児1名死亡……」


 思わず口から洩れた言葉。


 救えなかった……。あんな小さい命を。


 なんで……。


 どうして!


 なぜあの子を連れて行ったの!


 わたしでさえ今のうのうと生きているのに!


 悔しい悲しい痛い辛い許せない!


 思わず叫びそうになる。


 拳を固く握りしめ、内からあふれそうになる感情を必死に抑え込む。


 ……許せないのは犯人のことか、それとも自分自身なのか。


 目を開いたあの子の姿が頭に浮かび、心が乱れる。


 わたしがしたことは一体なんだったんだ。


 わたしはなんて無力なんだろう……。


 人に幸せを届けるのが使命なのに……。


 こんな体たらくで何が雪の精霊だ!不甲斐ない!


 座り込み、慟哭しそうになる心を鎮める。




 どれくらい時間が経ったのか分からない。

 

 気が付けば背中に温もりを感じていた。


 より姉がそっと包み込んでくれていたことに気が付いた。


 いつから?


 わたしのお腹まで回された手に自分の手を重ねる。


「ごめんね。心配かけちゃったね。ちょっとショックだったけどもう大丈夫だから」


 そう言って立ち上がり、笑顔を作る。


 上手く笑えている自信はない。


「無理に笑わなくていいんですよ。ゆきちゃんはよくがんばりました」


 頭を撫でてくれるかの姉。


「自分を抑えなくていい。わたし達は家族」


 あか姉も一緒に撫でてくれる。


「ゆきちゃん……」


 そんな顔しないの、ひより。わたしなら大丈夫。


「大丈夫!びっくりしちゃっただけだよ!そりゃちょっとはショックだったけどさ。お腹の中からっぽになっちゃったからご飯の続き食べよ?」


 そう言って立ち上がったわたしにそっと手を伸ばしてくるひより。


 唇に触れられた。


「全然ちょっとじゃないじゃん。血が出るほど唇噛みしめて。悔しいんでしょ?辛いんでしょ?痛くない?」


 言われて初めて気が付いた。


 手であごを拭うと血がついている。


 ひよりが触れた唇に少しだけ痛みが走る。


 そうか。わたしは……。


「まだまだ未熟だな、わたしも。唇は少し染みるけどそんなに痛いわけじゃないから平気だよ。さ、ごはんごはん!」


 何事もないような顔をして食卓に戻るわたし。


 心配そうな表情で見守る姉妹たち。


 そんな顔しないで、お願い。


 ダメだな、わたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ