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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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50/74

第50曲 仮面を脱いだ少女(少年)

「そばにいてね 」

蒼狼(あおかみ)ルナ【Official】

https://youtu.be/BrzZDMlUZCA?si=NTacOfQypPQ5sUeX

@YouTubeより

作中挿入歌

 海で遊んでお祭りにも行って、去年は行かなかったけど今年は水族館にも行って夏休みはあっという間に終わってしまった。


 夏休みが終わると中学3年生は一気に高校受験モードに入る。


 わたしは全ての定期考査で満点をたたき出していて常に学年トップだし、かの姉とあか姉が進学した高校を受験する。


 その高校はそこまでレベルが高いわけじゃないので呑気なものだ。


 自習時間が多くなる時期だし、みんなの邪魔をしないよう極力静かにしている。


 でも全然暇なんかじゃない。むしろみんなが分からないところを質問してくるのでクラス専属家庭教師になったようで忙しいくらいだ。


 みんなどうして先生に聞かないのかな?




 今年の体育祭は待ち望んでいた騎馬戦に参加!


 確かに騎手にはなりたかったけど、まさか満場一致で大将に選ばれるとは思っていなかった。


 総当たり戦は2回とも紅白両陣ほぼ互角。


 勝ち抜き戦では我ら紅組が圧倒的不利で、残り5組を残して大将のわたしに出番が回って来てしまった。


 だけどわたしのスピードについてこれる人なんてほとんどいない。


 相手は手を出す暇もなくあっという間に3人抜き。


 副将は柔道部主将。さすがに速い。


 でもそれくらいではわたしの鉢巻を奪うなんてことはできない。


 伸ばされた相手の腕を弾き、それで体勢を崩した一瞬を逃さず腕を矢のような勢いで繰り出して鉢巻を奪取。


 残るは大将同士の対決ということで観衆のボルテージも急上昇マックスバリュー!


 対する相手は空手部主将。力のないわたしは組み合いになってしまうと絶対に負ける。


 さすがの反射神経。おまけにしっかり体幹も鍛えられていて体勢をなかなか崩せない。


 それでも所詮はまだ中学生。


 長時間対峙していると集中力が続かなかったようで、一瞬だけ見せた隙を逃さず右フックの要領で腕を振り鉢巻をかすめ取った。


 まさかの5人抜きに大盛り上がりする生徒たち。


 体育祭が終わってもしばらく話題になり、ついたあだ名が「猛禽類」


 おお、なんかかっこいい。でもわたし別に取って食べたりしないからね?



 

 10月と11月はみんなの誕生日が集中している。かの姉、ひより、あか姉の順番でお祝い。


 料理とケーキはもちろんわたしの手作り。


 心を込めて作った料理は毎回会心の出来で、ひよりが美味しすぎるって泣いちゃった。そんなに感激したのかな。


 ほんとお兄ちゃん子なんだから。




 お誕生日ラッシュが過ぎるともう師走。


 去年は赤だったから今年は青系ということで、お正月の振袖は紺地に桜柄の比較的おとなし目で少し気品のある印象のものを選んでくれた。


 着回しでいいのにって言ったら5年前のなんてサイズ的にもう着られないでしょって言われた。みんなで着まわすとそんなに経つか。


 ごもっとも。


 まぁ今年は落ち着いた印象だからそんなに注目も浴びないかな。


 結果。


 去年と変わらず人に囲まれ身動きが取れないわたし。


 結局おんなじかーい。


 今年もまた空腹を抱えながら参拝する羽目になってしまったよ。


 神様にお願いすることは今年も同じ。


 みんなが健康で実りある1年を過ごせますように。




 そして迎える15歳の誕生日。


 今年の1月13日は日曜日。なので土曜日の生配信は前夜祭!


 そこでは2年も前からリスナーさんとしていた約束を果たす必要がある。


 そう。


 Vtuberとしての活動に終止符を打ち、以後は素顔をさらしてただの配信者になるということ。


 めっちゃくちゃ緊張するんですけど!


 数日前から学校でもそわそわ。家でもじっとしてられずウロウロ。


「おめーは動物園の熊か」


 より姉に突っ込まれても上の空。


 だって素顔をさらすんだよ!?


 今まではキリママの渾身の力作のおかげでかわいいって言ってもらえてたけどさ。


 がっかりされたらどうしよう。


 登録者が半分とかになったら泣くかも……。


 うろうろしながらブツブツ言っているわたしをソファーでくつろぎながら眺めている姉妹たち。


「ゆきちゃんて自分の容姿にほんと無自覚だよね」


「自己評価バグってる。もっと人気出る」


「自分が今使ってるアバターよりかわいいってこと分かってないんですねぇ」


「ま、天然だからな、あいつは」


 なんか言ってるけどわたしの耳には届かない。


 緊張する。あばばばばば。




 そしてとうとうやってきました配信当日。


 おまちくださいの画面が表示されている。


 同時接続120万て。どんだけ期待値高いのさ……。


 コメント欄はすごい勢いで流れて【楽しみ】【いよいよだな】【キリママ:ひさびさにご尊顔を仰げる……】【彩坂きらり:みんな恐れおののくがよい!】


 ってそこ!わたしの素顔を知ってる2人は煽らないでください!


 あぁ!とうとう始まっちゃった!


【誰もいない……】【ゆきちゃーん】【彩坂きらり:恥ずかしがり屋さんですから♡】だからきらりさん……。


 よし、覚悟を決めた。カメラの前に出るぞ!


 でもそーっと。


 カメラの画角内に入るようにひょっこり顔を出して、ちょっと様子を見てからそそくさとモニターの前に移動して椅子にちょこんと座る。


 俯いたままのわたし。反応が気になるけどモニターを見れない……。


 うー顔を上げられない。顔が熱いよー。


 ええい!こんなことをしていても仕方がない!腹をくくれ、ゆき!


 決意したわたしは思い切って顔を上げた。


 コメ欄は大変なことになってるかなと予想していたのだけど、それは外れてコメントは2つだけ。


【彩坂きらり:はぁ、ゆきさんかわいい】【日向キリ:尊いわぁ】キリママ、きらりさん……。


 他のみんなはどうしたのかな?やっぱりがっかりさせちゃったかなぁ……。


「あのーみんな?」


 おそるおそる声をかけてみると、ぽつりとコメントが入った。【かわいい】とひとつだけ。


 そう思ったのもつかの間。


 怒涛の勢いで流れだすコメ欄。さすがにわたしでも追い切れない!


【かわいすぎる!】【なにこれCGじゃないよね?】【アバターよりかわいいとかアリ!?】【尊い】【ほんとに男の子!?】どうにか拾えたコメントはこんなところで、あとのコメントも似たようなものなんだけど、なにせ早すぎてちゃんと見えない。


「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて!?」


【落ち着くとか無理】【彩坂きらり:ゆきさん見て興奮しない人いないよ】【日向キリ:あぁ至福】ちょっと2人とも!


 なんか賞賛コメントがこんなに並んでるとだんだん恥ずかしくなってきた……。


 思わず手で顔を覆ってしまう。きっと真っ赤だもん。


「そ、そんなに……かわいい?」


 指の隙間からそっと覗いてそう尋ねてみる。


【彩坂きらり:ぐはぁ!】【日向キリ:ぐふっ】【はあぁ!】擬音だけじゃわかんないよ!


「なんかみんなにそうやって褒められると……照れるな。えへへ」


 きっと締まりのない顔してるだろうなぁ。


 だって嬉しいけど照れるんだもん。


【彩坂きらり:オーバーキル……】【日向キリ:ゆきちゃんそれ以上はダメ。人死にが出る……】【…………】どゆこと?


 さっきまでの勢いはなくなって、コメントが少ない。


 どうしたんだろうか。


「受け入れてもらえたってことでいいのかな?これからはVtuberじゃなくてただのYUKIとして活動していこうと思ってるんだけど……」


【全然OK】【むしろ神降臨】【てえてぇ……】【彩坂きらり:毎回ゆきさんの顔を拝めるなんて眼福】そこまで!?


 でもまぁよかった。チャンネル登録解除した人もいないみたいだし。


 同接も減ってない。むしろ増えてる。


 どうやら受け入れてもらえたみたいだ。ほっ。


「でもキリママにはもう一回謝っておかないと。ごめんね、わずかな期間しか使ってあげられなくて」


【日向キリ:気にしないで!私もゆきちゃんの素顔拝める方が嬉しい】キリママ……画面の向こうでどんな顔してるんだろう。


 Vtuberじゃなくなっても支持してくれている人たちがいる。


 その事実はわたしに勇気をくれる。


 ありがたい。


 その恩を返せるようにするのはわたしには歌とダンスしかない!


「それじゃ、新生YUKIのダンスと歌の初披露、いってみようか!」


 選んだ曲は『そばにいてね』


 少しスローテンポで優しい曲だ。


 ダンスも曲に合わせてゆったりしたもの。


 それでも今のわたしにとっては紛れもない本心。


 いつまでも『そばにいてね』


 ずっと応援していて欲しい。


 わたしの体が動き続ける限り。


 この声が枯れない限り。


 指先足先まで神経を張り巡らせ、その所作ひとつひとつに想いを込め、感謝の気持ちを歌声に乗せてリスナーさんたちに届ける。


 輝けわたしの魂!全てを燃やし尽くしてしまうほどの強さを見せろ!


 わたしは確かにここにいる!


 灼熱の炎に身を焦がす、この命のきらめきを見て!




 曲が終わり、余韻に浸る。ほんの数秒。


 まだ体に熱がこもっているのがわかる。少し筋肉がきしむ。


 やりきった達成感で自然と笑顔になる。


 ゆっくりとモニターの前に戻り、コメ欄をチェック。


 賞賛のコメントがならんでいるのを確認して、心の中でガッツポーズ。


「やったぁ!」


 声に出てた。ガッツポーズもしてた。


【生ゆきちゃんのダンス迫力すげー】【すごい、震えとまんない】【歌う生ゆき、なんかカッコいい】生ゆきって。魚介類みたい。


 好評の声が並んでいるけど、きらりさんとキリママのコメントがなくなったな。忙しいのかな?


 そう思っていたらきらりさんとキリママから同時にメールが飛んできた。


「おや?きらりさんとキリママからメールだ。配信中だけどちょっとチェックしてみるね」


 メールを開いてみると、Happy Birthday!の文字と共に画像が添付されていた。


 キリママのはわたしがたくさんの人に囲まれ、笑顔でマイクを握っているイラスト。


 きらりさんの画像はかつてコラボした大物Vtuberたちが揃ってHappyBirthdayの文字を掲げている姿。


 どちらも鳥肌が立つほど嬉しい。


「キリママ、きらりさんありがとう!そしてリスナーのみんなもありがとう!これからも生ゆきをよろしくね!

以前のYUKIについてなんだけど、これでお別れってわけじゃなくてちゃんと登場シーンを考えてあるからVゆきのファンのみんなも安心してね!」


 実はVゆきを使ってやってみたいことがあるのだ。みんなビックリしてくれるかな。


 今から楽しみだ。




 Vtuberとしての自分に区切りをつけた。あとは卒業して、高校へ入学した後に計画を発動するだけ。


 ネット上でも現実でもわたしは輝き続けていきたい。


 わたしは次に始まる高校生活に想いを馳せ、期待と興奮に胸を高鳴らせる。


 だけどその前にひとつだけ懸念事項が。今まで黙っていたみんなにどう説明しよう……。




 そして生ゆき披露配信の翌々日の月曜日。


 わたしは転校してきたとき並みの緊張感を持って教室の扉を開いた。


「お、おはようございます」


 てっきりみんな詰め寄ってくるものだと思っていた。


 Vtuberやっていることをどうして隠していたのかと。


 だけど帰ってきた言葉は拍子抜けするものだった。


「おー生ゆきおはよー」


 穂香?今、生って言った?


「なんだよ、豆が鳩鉄砲食らったような顔して」


 それ逆だよ。穂香の場合素で言ってそうだけど。


 いや、そうじゃなくて!


「生ゆきネタ知ってるということは土曜の配信見てたってことだよね!?」


「ん?あー見てたよ」


 そんな平然と!すごく申し訳ない気持ちでいっぱいなのに。


「みんなに内緒でVtuberやってたこと、怒らないの?」


「え?あーそれね!あははは」


 わたしのその言葉を聞いて教室にいた全員が笑い出した。


「え?え?なんで?ここ笑うとこ?」


 今度こそ豆が鳩鉄砲だ。


「あははは、ごめんごめん!ゆきがVtuberやってることなんてとっくにみんな知ってたよ?気づいてなかったの?」


 んなぁっ!!


 誰も知らないものだとばかり思っていたのに!


「い、いつから?」


「初配信から」


 なん……だと?


 ぐふっ。


 わたしはもうダメかもしれない……。


 まさか最初からみんな知っていたなんて。


「まさかあか姉やひよりも!?」


「さぁ?ゆきの姉妹がそういった会話に混ざってるって話は聞いたことないけど……」


 うーん家でも何も言ってこないし、あの人達嘘ついてたらわたしにはわかるもんなぁ。それらしい素振りもないし。


 きっと知らないんだろう。


 家族にはまだ知られるの恥ずかしいからその方が都合いい。


 でもクラスメート全員知ってたとか。知らぬはわたしばかり。


 はぁ、まぁいいか。


「知ってるなら説明はもういらないよね。これからも応援よろー」


 完全に脱力してしまったわたしはそれだけ言うと机に突っ伏して不貞腐れてしまった。


 でもまぁこれからは気を遣う必要もなくなったし、やりたいことは全部やれるってことでもある。


 これからの配信活動に夢を馳せ、さらに多くの人に歌声を届けるための脳内会議を始めよう!




 だが順調そのものの配信活動の対価とでも言うかのように、わたしはまたしても神様からの試練を受けることになる。

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