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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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第47曲 修学旅行は危険がいっぱい

「あらあら、先生もすっかり忘れてたわ。見た目は女の子なんだし女風呂に入る?」


「怒りますよ」


 こっちは真剣に困ってるんだからどうにかしてよ、みずえもん!


「冗談だってば。そんなに怖い顔しないの。怒っても可愛いわね」


 呑気な事言ってる場合か!


「どうするんですかぁ。わたしだけみんなの後にこっそり入るとか?」


「就寝時間は守らないといけないからそれはダメよ。大丈夫、先生がなんとかしてあげるからついてきて」


 そう言って先に歩き出す先生の後をとぼとぼとついていく。こんなことなんで事前に予想してなかったんだよ、わたしのバカ……。


 そして連れてこられたのは普通の宿泊部屋。ここどこ?


「ここが先生たちの宿泊部屋。ちゃんと男女別に分かれていて男の先生はいないから」


 安心していいのか?いわば女の園だぞ。


 わたしが入っていいのか?てかお風呂は?


 入ることを躊躇していると瑞穂先生が察してくれたのか種明かしをしてくれた。


「先生たちはさすがに生徒とお風呂に入ることができないから、内風呂の付いた部屋に宿泊させてもらってるのよ。露天風呂付よ」


 そういってウィンクしてくる瑞穂先生。両目閉じちゃってるよ。


「他の先生方もいるけど、誰も覗いたりしないからゆっくり入ってきていいわよ」


 おお!なんてありがたいお言葉!ネコ型ロボット扱いしてごめんね。


「ありがとうございます!みずえ……瑞穂先生!」


「みずえ?」


 聞こえてた。


「なんでもないです。それじゃお邪魔します」


 余計な詮索は野暮だよ。


 それ以上聞かれないようそそくさと部屋に入っていく。


 中に入ると体育の船越先生や他の女性教諭の方もいた。


「あら~ゆきちゃん、いらっしゃーい。そろそろ来ると思ってたよ~」


 予想してたのか!さては面白がって黙ってたな!


 やっぱりみずえもんで十分だ!


「Oh!ゆき!お風呂入りに来たんですね。一緒に入って背中を流してあげましょう」


 英語教諭の福島奈津美先生。


 何がOh!だ。あんた立派な日本人でしょ。


 どさくさに紛れてとんでもないこと言うんじゃない。


「けっこうです!ひとりで大丈夫ですから」


 ここは毅然と断っておかないと。でも船越先生がニヤニヤしながら近づいてきた。


 嫌な予感がする。てかなんかふらついてない?


 若干覚束ない足取りでわたしのそばまで来たと思ったらいきなり肩を組んでこられた。


「いいじゃないの。日本には裸の付き合いって言葉があるでしょ」


 先生と生徒の間にはありません!


 てか酒くっさ!


 何この人たちお酒飲んでるの!?見回りとかあるんじゃ?


「生徒の監視見回りは男女で交代制でね。今日は男子教諭の番だからわたしたちは酒盛りってわけ。さてゆきちゃんの回収も終わったしわたしも飲もうっと」


 説明という名の言い訳ありがとうございます。


 それにしても回収って。


 わたしは漂着物ですか?


「飲むのはいいけど先にこの酔っ払い引っぺがしてもらえません?」


 肩を組んだままの船越先生をはがすのは手伝ってくれたみずえもん。


 なかなかてこずったけど。


 酔っ払いめんどくさい。


「ぜっ・た・い・に!入ってきちゃダメですからね!」


 酔っ払いどもに釘をさしてから脱衣所で服を脱ぎ、露天風呂に直行。


「うわぁ、星がキレイ!」


 かけ湯をしてさっそく湯船に体を浸からせる。あ~日本に帰ってきてよかったぁ!


 体が温まったところで湯船から上がり、体を洗うために洗い場へ。


 まずはこの腰まで伸びた長い髪から。


 そろそろお尻にまで届きそうだ。


 切るって言ったらまたひと悶着あるんだろうなぁ。


 シャンプーで汚れを洗い流した後は、少しタオルで水気をふき取ってからコンディショナーをしっかりと手に馴染ませて髪に優しく塗りこんでいく。


 シャンプーの時もそうだけど力を入れてこすると逆に痛めちゃうからね。


 やっぱり髪が長いと洗うだけで時間がかかる。


 バサッと切りたいと思ったことは何度かあったけど、そのたびに家族会議で全員が反対派にまわって総攻撃されたし。あれはもういやだ。


 それに最近はこの髪を自慢に思うようになってきている。みんな褒めてくれるしね。


 そして体を洗い始めた。


 体もタオルやスポンジは使わずに手で洗う。


 小さいころスポンジでごしごしこすってたらより姉に「せっかくのきれいな肌に傷がつく!」って止められてから手で洗うようになったんだよね。


 洗い終えてさぁシャワーで流すだけという段になったころ、脱衣所の方から物音が聞こえてきた。


 え?え?


「ゆきちゃん、ずいぶん遅いけど大丈夫ですか~?」


 先生たちが心配して見に来た!そういえばわたし長風呂だって説明してなかったな!


「大丈夫です!わたしかなり長風呂なんで!もう少ししたら出ますから!」


 かなり大きな声で返答したはずなのに近づいてくる気配は途絶えない。


 わたしは慌てて残りの泡を流して、そのまま湯船に飛び込んだ!


 それと同時に脱衣所に続くドアが開けられ、あろうことか部屋にいた教師全員が入ってきた!


「ゆきちゃん大丈夫~?のぼせて倒れたりしてない~?」


 瑞穂先生の声がとろんとしたものに変わってる。ネコ型ロボットが酔っ払ってるんじゃないよ。


「ちょちょちょちょー!入ってます!入ってますってば!」


 そう言ってるにも関わらずゾロゾロと連れ立って湯船にちかづいてくる。


 絶対聞こえてる!


 わたしはあわててそばに置いてあったタオルで股を隠し、胸に手を回して完全ガード体制。


 湯船にタオルをつけてはいけませんとかマナーとか言ってる場合じゃない。


 貞操の危機だ。


「ゆきちゃん、見つけました~。もう~元気なら元気ってちゃんと返事してくれないと心配するじゃないですかぁ」


 見つかった!


 嘘つけ!絶対聞こえてるのに聞こえないフリしてただけだろ!


「見ての通りのぼせてもいませんし、元気ですから出ていってもらえませんか?」


 たぶんわたしがこれだけ引きつった笑顔をみせることは相当レアなことだと思う。


 本当は酔っ払いどもを片っ端から投げ飛ばしてやりたいくらいだけど相手は教師。


 さすがに暴力はまずいし、なにしろこっちは全裸だ。


 今立ち上がったら全部見られちゃう。それはイヤだ。


「先生方?覗きは犯罪ですよー」


 そう警告しても誰も聞く耳を持たず、とうとう私の背後に迫ってきた。


 大浴場と違って内風呂なので狭い。逃げ場がない。


「ゆきちゃーん、つかまえた」


「ぎゃー!」


 狭い浴場に反響する断末魔。


「肌すべすべうらやましい~」「本当に男の子?」「スタイルめちゃくちゃいいじゃん~」


 その後、酔っ払いモンスター達にもみくちゃにされたことは言うまでもない。


 うぅ……汚された……。




 逃げるようにお風呂から上がり、さっさと服を着て先生たちの部屋を後にした。


 ひどい目に遭ったよぅ……。


 旅館の廊下をとぼとぼと歩いていると、男子生徒に声をかけられた。名前がわからない。ということは一度も話したことのない相手だ。


「あの、広沢さん!」


「はい?」


 さんざんひどい目にあわされた今の私は手負いの熊だ。返事も若干とげのあるものになっている。


 相手は一瞬ひるんだみたいだけど、やがて意を決したようにうなずくとわたしの目を見据えて言った。


「一目見た時から好きでした!ぼくと付き合ってください!」


 はい?


 思わずあたりを見渡してしまう。周囲には誰もいない。


 わたしに言ってるの!?


「あの、わたし男なんですけど……」


「男とか女とか関係なくて!広沢さんという個人が好きになってしまったんです!」


 その言葉を聞く限りはいいことを言っているような気もする。わたしの気持ちは清々しいくらいガン無視だけど。


「あなたの美しさに心を射抜かれました!よろしくお願いします!」


 いや、見た目やんけ!


 そりゃそうだ。この人とは初対面なんだからわたしの内面なんて知るわけもない。


 結局外側だけ見て好きだと勘違いしてるだけ。


 なんだか腹が立ってきた。


「ごめんねぇ。こう見えても中身はしっかり男だし、恋愛対象も女の子なんだよ。男相手にそんな感情1ミリも持てないな」


 バッサリ切り捨てた。


 相手はうなだれ、「わかりました」とだけ言って去っていった。


 次は勘違いじゃない本物の恋をしてね。




 修学旅行を舐めていた。


 中学3年生の修学旅行は彼氏、彼女を作るのに絶好にして最後のチャンスになるかもしれないのだ。


 これが過ぎれば早い人は受験準備に入るし、部活をやっている人なら最後の夏の大会に向けてそれどころじゃないだろう。


 そんな状況でのお泊りイベント。色気づいた人間が現れても少しもおかしなことではないのかも。


 結局その後、わたしは3人に告白された。


 全員、男子だった。


 なんでやねん!


 より姉、あか姉。修学旅行は危険がいっぱいだったよ……。

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