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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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第41曲 ゆき、14歳①

 冬休みが終わってまだ正月気分も抜けきらない人がちらほらいる中、今日のわたしはご機嫌だ。


 今日は1月13日。わたしの誕生日。


 ようやく14歳になる!


 これで念願の合気道と柔道の黒帯が取れる!


「ゆきちゃん今日はご機嫌だね!なんかいいことあった?」


 あれ?


「ニヤニヤしてる。不審」


 あれれぇ?


「いや、うん。まぁちょっとね……。あはは」


 忘れられてる……?


 まぁわたしも14歳だし!


 大人に片足突っ込んでるし!


 誕生日なんて大きくなれば大したイベントじゃなくなるよね!うん……。


「あれ、しぼんじゃった」


「百面相。いよいよ不審」


 ゆきは元気だよ?


 なーんにも気にしてないもん!


「さ、遅刻するから早く行くよ」


 何も気にしていないわたしは2人に顔を見られないようそそくさと先に歩いて行く。ぐすっ。




 教室について朝の挨拶。みんなも普通に挨拶を返してくれて、普段と変わらない平和な空気。


 だよね!わたし誰にも自分の誕生日教えてないもん。


 聞かれなかったし。


 仲の良い友人同士で誕生日のプレゼントを贈ったりしてるのをたまに見かけたけど、わたしは転校生だしね。


 まぁ今日はわたしも忙しいし?


 学校が終わったら昇段試験だし?


 合気道は形式的なものしかやらないけど柔道では実地試験があるから気合をいれとかないといけないし?


 全然気にしてないよ、ぜーんぜん!


 お手洗い行ってこよっと……。




 その後の授業はなんだかボーっとしたまま過ごしてしまった。


 違うよ?


 ただわたしの場合黒板が視界に入っていて、先生の声が耳に届いていればいいだけだから物思いにふけっちゃっただけだもん。


 て誰に言い訳してるんだわたし……。


 やがて授業が済んでホームルームも終わると、担任の瑞穂先生から声をかけられた。


「ごめん、ゆきちゃん。ちょっと手伝ってほしいことがあるから職員室まで一緒に来てくれる?」


 先生に頼みごとをされたら断るわけにはいかない。


 わかりましたと返事をして先生についていくと任されたのは簡単な書類整理と職員室の片づけ。これわたし必要?


 手が足りてないのかな。大丈夫か、この学校?


 若干不思議に思いながらも作業は簡単に終わってしまい、カバンを置いてきてしまっているので帰り支度をするため教室へと戻る。


 もうみんな帰っちゃってるよなぁ。


 そう思いながら教室のドアを開けた。


「ゆきちゃん!誕生日おめでとう!」


 突然のことにビックリ。


 クラス全員声をそろえてのおめでとう。


 キツネにつままれた気分で呆然としてしまう。


「なんで、知ってるの?」


 そうつぶやくと後ろから声がかかった。


「杏奈ちゃんから前に聞かれたのよ。驚かせたいから本人には内緒にして教えてくれってね」


 瑞穂先生が立っていた。グル?


 そんな。みんな揃って?


 最初に浮かんだ疑問はどうして?だった。


「どうして……?」


 声に出てた。


「広沢にはなんていっていいか……感謝してるんだ。お前のおかげでクラスが明るくなったし、学校に来るのも楽しくなった」


 木野村君……。


「いろんな行事は積極的に手伝ってくれるし、クラス会議でもいろいろポジティブな意見を出してくれるしね」


 杏奈ちゃんまで……。


「なによりこないだの体育祭での大活躍は全校生徒での語り草になってるぜ!」


 田村君も……。


「ゆきちゃんが転校してきてからクラスの雰囲気が変わったわ。とても明るくなった。あなたの行動力とポジティブさはそこにいるだけでみんなに影響を与えているの。このクラスの太陽みたいな存在なのよ、あなたは」


 瑞穂先生が優しく声をかけてくれる。


 そんな。わたしみんなに何もしてあげれたことなんてないのに……。


「わたし何にもしてないのに……」


 やっぱり声に出てた。


「そこにいてくれるだけでみんなを明るく照らしてくれてる。先生の言う通り、ゆきはクラスの太陽だよ」


 穂香がそう言ってわたしの肩に手を置く。


「どうする?帰る?それともわたし達のお礼とお祝い、素直に受け取る?」


 少し意地悪な質問。そんなの答えは決まってる!


「みんなありがとう!こんなにみんなから受け入れてもらえてたなんて……。嬉しすぎて言葉にできないよ!」


 精いっぱいのありがとうの笑顔。


 男子、仕掛け人側のくせに赤面すんな。


 そしてもう一度みんなで声を揃えて「お誕生日おめでとう、ゆき!」


 友達ってこんなにいいものだったんだなぁ。


 放課後の短い時間だけど、口々に寄せられるおめでとうの温かい声は確かに幸せを感じさせてくれた。


 そんな幸福で淡い時間はあっという間に過ぎてしまうもので。


 この後、家族のご飯を作り、2カ所の道場をはしごして昇段試験を受けるわたしには時間がない。


 せっかくみんながお祝いしてくれたのに。


 そのことをみんなに告げて謝罪をすると……ぺちっ。


 いたっ。


 振り返ると穂香が仁王立ちでわたしの頭を叩いていた。やっぱり怒るよね……。


「ゆきはいつでも周囲に気を遣いすぎ!今日はわたし達が勝手にサプライズで企画したんだから、ゆきに用事があるからって怒ったりする奴なんてうちのクラスにはいないよ!」


 わたしの頭を叩いた手でそのまま優しく撫でてくれる。


 周りを見るとみんなもそれを見守るかのように微笑んでいる。


 何人かは羨ましそうに見ているけど。台無しだよ。


 わたしも下げていた頭を上げ、まっすぐに立つ。


「みんな本当にありがとう!友達からこんな風に祝ってもらえたの、初めてだったから本当に嬉しかった。みんな大好きだよ」


 だから赤面すんな男子!


「本当にありがとうね!それじゃ、また明日!」


 そして教室を後にする。


 あか姉にメールで今日はひよりと2人で先に帰るよう言っておいたので珍しくひとりの帰り道。


 でも心が温かいからちっとも寂しくなんかない。


 自分で誕生日ってアピールするのも恥ずかしいしシャクだからあか姉にはクラスの用事ってことにしてあるけど。




「主役帰っちゃたな」


「でももう少しお祝いしたい、先生いいでしょ?」


 瑞穂先生は呆れたような顔で生徒たちを見渡す。


「ほんとにみんなゆきちゃんのことが好きなのね。本人いないのに祝いたいなんて聞いたことないわよ。でも下校時刻までよ」


「さすが瑞穂ちゃん、話がわかる!」


「それじゃ、このままゆきちゃんがこのクラスに来てくれた奇跡に感謝してお祝いしますか!」


 そしてそれぞれがゆきとのエピソードを語りあう。ゆきがくれた笑顔、感心したり感動した出来事や感謝の気持ちを共有していく。


 そこには友情という形でのゆきへの愛情が込められていて、まだ1年にも満たない関係とは思えないほどだ。


 それくらいゆきの存在は生徒たちの心に深く刻み込まれている。


 談笑はまだまだ続く。ただゆきにその声が届くことはない。


 だがその心はしっかり受け取っているのがゆきという人間だ。そういう人間だからこそみんなから愛されるのかもしれない。




「ただいま~」


 みんなの食事を作らなきゃと思い急いで帰ってきたんだけど、リビングに入るとみんなお出かけの準備をしている。


「あれ?みんなどこかへ行くの?」


 上着を羽織りながらより姉が振り返った。


「あぁ。今日はゆきも昇段試験があって忙しいだろ?こんな日くらいゆきに手間をかけさせたくないからな。あたしのおごりで外食にしようと思ってよ」


「そんな。簡単にできるもの作ってから行くつもりだったのに」


 今日の夜くらいはせめてみんなと過ごしたかったのに。


「ゆきは気を遣いすぎ。ご飯くらいどうとでもなる」


 あか姉……。学校でも同じこと言われたけど……。


「そうですよ。忙しい時は家族で助け合わないと」


 かの姉……。


 そっか、みんなやっぱり忘れてるんだね……。


「ん。わかった。外は寒いからちゃんと温かい格好しないとだめだよ」


 笑顔で応えてわたしは自分の準備をするために自室へ。




「あんな捨てられた子猫みたいな目をされたらなぁ」


 そんなこと言いながら頭かいてるけど、サプライズパーティーにしようって言い出したのより姉だよ?


「ゆきちゃん可哀そうだよ!」


「心が痛い」


「でも放っておいたらゆきちゃんご飯作っちゃいますからねぇ」


 そう、今日はゆきちゃんに少しでも楽をしてもらう。


 そして普段のお礼も兼ねてサプライズでいっぱいお祝いするということになってるんだ。


 でも、ゆきちゃんが一瞬だけ見せたあの寂しそうな顔……。


 そりゃそうだよね、ゆきちゃんほど家族を大切にしてる人っていないもん。


 その家族から誕生日を忘れられてたら……。


「ねぇ~!やっぱり可哀そうだよ~」


「大丈夫だ!後でその何十倍も喜んでもらうから!」


 より姉のその自信はどこから来るのか知らないけど、ちょっと不安。


 ゆきちゃん、泣いたりしてないといいけどな。


 ……そういえばゆきちゃんが泣いてるとこって見たことないな。




「どうした?今日は少し動きが鈍くないか?」


 道場で軽く準備運動をしていると松田さんが少し心配そうに声をかけてきてくれた。


 思ったよりショックをうけてるみたいだ。


「調子が悪いなら試験を先に延ばしてもらってもいいんだぞ?」


 心の調子を表に出してちゃダメだ。精神統一。気持ちを切り替えないと。


「全然大丈夫ですよ!そろそろ体も温まってきたし、気合入れていきます!」


 さっきまでと雰囲気が変わったことに松田さんも気が付いたようだ。


 安心した表情で頷くとどこかへ行ってしまった。


 すっかりスイッチの入ったわたしは全身に闘気をみなぎらせる。


 頭の切り替えは得意だ。そうじゃないと生きてこれなかったから。


「では試験をはじめる。双方位置について」


 試験の相手を務めてくれる人がわたしの正面に立つ。お互いに一礼。


「はじめ!」


 その掛け声とともに下半身にグッと力を貯め、一気に開放してはじけ飛ぶように相手に向かっていく姿は野生動物のように精悍だった。

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