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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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35/74

第35曲 『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』敵意

今日のお話のテーマソング

https://www.youtube.com/watch?v=DT26WSduNn0

「Are you ready ?」

蒼狼あおかみルナ

 雪乃さんとのコラボも神回認定で終わり、この企画のお相手はレイラさんを残すのみとなった。


 紡さんの時と同じく雪乃さんとのお別れにも寂しさはあるけど、いつまでもそれに浸っているわけにもいかない。


 せっかく応募してくれて、その中から選ばれた3人だ。


 その全員に同じ熱量で向き合うのが当たり前だし、誰に対しても平等に接するのがわたしの矜持でもある。


 そう思い自室のベッドに腰掛け、レイラさんのチャンネルを開き内容を確認する。


 歌の内容はわたしと同じスタイルでオリジナルと歌ってみた、そして生配信といったコンテンツが並んでいる。


 登録者数は66万人。新人Vtuberとしては十分な数字だ。


 コラボを望む理由がよくわからない。


 わたしを好きだから?自分自身に刺激を与えるため?それとも登録者数のさらなる増加を狙っての事か。


 それにしては打ち合わせ時、電話越しの対応にそこまでの熱量は感じられなかった。


 まぁそれでもわたしとのコラボを望んで応募してくれた人だ。


 疑問はいったん横に置いておく。


 先の2人の時にもやっていたことだけど、コラボに対して全力を尽くすためには相手の事を知る必要がある。


 歌い方や声の質、声量、歌う時の癖などを知っておかないと息の合ったコラボは実現しない。そう思い最初の曲を再生した。


「最初の2人よりも上手い……」


 それ以上ゆきは何も言わず、黙って全ての曲に耳を傾けた。




 コラボ当日、約束の時間より早めに来ていたわたしは待ち合わせ場所でひとり考えを巡らせていた。


 今までは2人ともほぼわたしと同じくらいかそれよりも早く来てたんだよね。


 紡と雪乃、2人の熱心さを思い出しくすっと笑みをこぼす。


 別に約束の時間まではもう少し間があるし、遅刻をしているわけではないので怒っているわけでもないしその道理もない。


 考えていたのはそのようなことではなく、ただその差について。


 歌唱のテクニックに関しては抜群で、コラボをしたからといってわたしから何かを得られるというわけでもないと思う。


 テクニックに関してはわたし以上のものを持っていると素直に思うから。


 紡さんも雪乃さんも熱烈なわたしのファンだった。だが彼女はそれとは違うような気がする。


 コラボをするにあたって先の2人のような明確なビジョンが見えてこないのだ。


 レイラさんはこのコラボの先に何を見ているのだろう。


 手を顎に当てたまま、そのことについて思いふけっているとふいに声をかけられ思考を中断する。


「ゆきさんでしょうか?」


 顔を上げると電話で聞いていたのと同じ服を着た女の子が立っていた。キレイな子だ。


 レイヤーボブの髪から覗く顔は小顔で、こちらを真っすぐに見据えてくるその瞳からはとても強い意志を感じる。


 その瞳の奥底に宿るのは……敵意?


 なるほど。そういうことか。


「こんばんわ!わたしがゆきですよ。レイラさんだよね?」


 わたしの問いに返事は返さず、黙ってうなずく。


 元々無口な方なのかもしれない。


 時間を確認すると約束の時間ピッタリ。律儀な子なのか、わざとなのか。


 おそらく後者かな。


 積極的にコミュニケーションを取るつもりはないとばかりに彼女はスマホに何やら打ち込んでいる。


 このままここでボーっとしていても仕方がないし、約束時間ピッタリだったので時間もないからとさっそくスタジオへ移動。



 

 さすがにこのまま配信時間が始まるまで黙ったままと言うのもマズイ。


 ある程度はどんな人柄なのかくらいは知っておかないと収録が始まったときに何を話せばいいかわからなくなる。


「今回はコラボに応募してくれてありがとうね。今日までけっこうお待たせしちゃうことになったけどごめんね?」


「いえ」


 くっ。突入角度が浅すぎたか。大気圏に弾かれてしまった。


「どの曲を歌うかはもう決めてある?わたしはまだ迷ってるんだ~」


「決まってます」


 無口な人はあか姉で慣れているとはいえ、これはなかなかの強敵だ。


 付き合いも短いし、読めない!ここは直球で勝負するか。


「今日のコラボ、楽しみにしてくれてた?わたしはレイラさんの歌声を聴いてすごく楽しみにしていたよ!」


「別に」


 なんで応募したの?


 まぁ大体察しはつくけど。


 それにしても反応がなさすぎる。


 ミュートしたままでギターの弦を弾いてるみたいだ。


「集中力を高めてるのかな?だったら邪魔しない方がいいね。でも収録が始まったらよろしくね?リスナーさんには楽しんでいただかないとね」


「はい」


 会話終了。


 これ以上突入を図っても逆効果になってしまいそうだ。


 自分のチャンネルでは生配信もやってるんだからその辺は上手くやってくれるだろう。きっと。




 そんな淡い期待を胸に迎えたコラボ配信の時間。


「みんなこんばんわ~!雪の精霊YUKIが今日もみんなに歌声を届けるよ!いよいよ『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』も3週目。最後のコラボ相手はレイラさん!ささ!レイラさんからも」


 一抹の不安を抱えながらもレイラさんに導入の挨拶を振る。


 そして顔色ひとつ変えず彼女が語り始めたことはさすがに予想外だった。


「どうもこんばんわ、レイラです。まず最初に言っておきます。わたしはゆきさんが好きではありません。むしろ敵視しています」


 そのこと自体は感じていたけど、まさか冒頭からぶっこんで来るとは思わなかったよ。


 やるなぁ。


「そうなんだ!わたしも全ての人に好かれるってわけじゃないからね。そういう人がいてもおかしくない、うん」


 わたし自身は予想していたこともあってそこまで驚きはないけど、リスナーさんからすれば驚きでコメ欄は大荒れ。


【なんで応募したの!?】【じゃー来るなよ】【本気でゆきちゃんとのコラボを望んでいる人もいるのに!】案の定批難ゴウゴウ。




「なんなのこの女~~~~!」


 自宅。三度目となる姉妹の叫びが響く。




「まぁまぁみんな落ち着いて。レイラさんだって何か理由があって応募したんだろうしね!理由を教えてもらっていいかな?」


 とりあえずリスナーさんをなだめておいて、その真意を聞き出すべく次の言葉を促す。


「そうですね。理由はちゃんとありますよ。

 まず、あなたは何の努力もせず先天的に与えられた才能にあぐらをかいている。そのかわいい声と並外れた容姿だけで周囲からチヤホヤされ、今の地位を築いた。

 まずそれが気にいらない。

 歌に関してもあなたにあるのは持って生まれた音域や才能だけで、歌唱テクニックに関してはわたしの方が上だという自負もある。

 それなのにあなただけが天才Vtuberとしてもてはやされ、世間もそんなうたい文句に踊らされてますますチヤホヤするようになる。

 そうやって天狗になってるあなたが嫌いなんですよ。今日はその実力の差をはっきりさせようと思って来ました」


 やっぱりそうだったか。最初から挑戦的な目をしていることはわかっていた。


 理由まではわからなかったけど、それも今はっきりした。


 ただひとつだけ心外なことがある。


 わたしが何の努力もせずあぐらをかいている?面白い事を言う。


 なかなかの挑戦状だ。


【殴り込みみてー】【すごい自信】【これは一度聞いてみないと】【並外れた容姿……だと】【彩坂きらり:ゆきちゃんはどれをとっても超一流です!それはもう妖精のごとく】リスナーさん達も興味を引かれたようで先ほどのように荒れておらず、レイラさんの歌唱力を聴きたいという方向にシフトしている。


 一部違うとこに反応してるけど。きらりさん……。


「すごい自信だね!これは楽しみになってきたよ!じゃ、いつもは先にわたしが歌わせてもらってたけど今回はレイラさんに先陣を切ってもらおうかな」


「望むところです。後悔しないでくださいよ」


 そう言って颯爽とステージに向かっていく。


 設置されたマイクスタンドを持ち、曲が始まるのを待っているレイラさん。


 その表情には自信があふれていて揺るぎがない。


 やがて曲が始まり、彼女の声が響きだす。確かに上手い。


 ビブラートの利かせ方や地声と裏声の使い分け、しゃくり、シャウト、フォールなんかも完璧。


 ミドルボイスやヘッドボイスも文句なし。


 それらを上手く組み合わせて聴かせるそのテクニックは確かにわたしよりも上手で、素直に感心した。


 やがて曲が終わり、どうだと言わんばかりの表情でモニターの前に戻ってくる彼女を笑顔と拍手で迎える。


 コメ欄を見ても【確かに上手い】【テクがすごい】【言うだけの事はある】というコメントと同時に【ゆきちゃん超えてる?】【テクニックは確かに】といった意見もちらほら。


「本当にすごいテクニックで感心したよ!たくさん練習したんだってことがよくわかる!」


 わたしは笑顔を崩さず、素直にそのテクニックを賞賛する。


「ふん、えらく余裕ですね。次はゆきさんの番ですよ。歌い終わった後のリスナーの反応が楽しみですね」


 不敵にほほ笑むレイラさん。その表情には勝利を確信した余裕が見えている。


 でもね、わたしのチャンネルを見ていたのなら知ってるよね?


 こう見えてすごく負けず嫌いなんだよ、わたし。

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