表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/74

第23曲 東京観光

 午前中は別の用事で潰れてしまったけど、午後からいよいよ家族そろっての東京観光だ。


 まず、東京に来たらここでしょうとばかりに向かうはスカイツリー。新しくできた東京のランドマークと言うことでやっぱり人が多い。人ごみをかき分けるようにして展望台の中でも一番見晴らしがいい場所までたどりついた。


「おぉ、たけー」


 ……だよね、それ以外に感想なんて浮かばないし。


 夜景とかだったらキレイーとかあったかも知れないけど、残念なことに時間は昼でしかも天候もくもりだったのでそんなに遠くの景色まで見えない。富士山も見えない。


 それにしても感想が「高い」だけというのも少し感性が低いのかなって不安になる。歌い手には感性が命なのに!


「おーたっけーな」


「うん、高い」


「ほかに感想は出てこないんですか」


 どうやらみんな似たようなもんらしい。ちょっと安心。


 いつも元気なひよりはというと、実は高所恐怖症で展望台の中心部分から一歩も動かず決して端によろうとしない。


「こっちおいでよ」と言って誘うと野生動物のように威嚇してくるくらいだから余程怖いんだろう。エレベーターで上がってくるときも目をつぶって何やらブツブツ念仏みたいなのを唱えてたもんな。


 でもこうやって何も考えずに景色を眺めるのもたまにはいいかもしれない。


 普段は朝からご飯を作ってそれから学校に行き、部活が終わって家に帰るとまた晩御飯を作って食事が終わったら少しの時間家族と会話してそのままスタジオにこもって曲の収録やらダンスの練習をして収録、動画投稿。終わったら後はお風呂に入って宿題をやって眠るだけ。


 休日も3食作る以外はスタジオにこもりきりと言っていい状態。


 そんな有様だからこうやってゆっくり何もしない時間を楽しむというのも久しぶりの事だ。


 これはこれでリフレッシュになるだろうから、これからは意識して何もしない時間と言うのを作っていった方がいいかもしれない。


 人間何かに忙殺されてしまうと視野も狭くなってしまうしね。そういえば最近は星空もゆっくり眺めることができていないな。


 スカイツリーから出てくるとひよりも復活して、これからが本番だと張り切っているので何をするのかと思いきやショッピング。


「ここからはゆきちゃんが主役だよ~」


 ひよりの言う通り家族がそろい、そこにわたしもいるということはいつもやることが決まっている。


 わたし着せ替え人形大会開催。


 みんな年頃の女の子なんだし、せっかく東京まで出てきたんだからもっと自分のおしゃれに注力すればいいのにとは思うけど、自分のことは後回しにして4人がかりでわたしに似合いそうな服を誰が選べるかという競争をしている。


「この色がゆきには会うだろう」


「より姉、それ派手すぎ」


「やっぱりゆきちゃんにはこれくらいきらびやかなものが似合うと思いますよ~」


「かの姉!それもはやドレスじゃん!」


「やっぱりこれくらい落ち着いた感じの方が今のゆきにはよく似合う」


「さすがあか姉、それならゆきちゃんに絶対似合うね!」


「くそーまた茜にもってかれたか。デザイナーの卵としてはこれ以上負けちゃいらんねー!次は負けねーぞ」


 女3人集まればかしましいと言うけど、4人もいれば賑やかどころの話じゃないな。わたしの服選びに決着がついた後でそれぞれ自分の服を選びに行くんだけど、1着か2着選ぶ程度でそれもたいてい購入することなく次のお店へ。そして次のお店に着くとまたわたしの服を選ぶ競争から。


 わたしが自分で選ぶ服はと言うとほとんどが男物。


 女姓服に関してはどうにもセンスがないようで自分で選ぶと姉妹全員からボツを食らってしまうので自分で選ぶのはもう諦めてしまった。


 なのでたまにはかっこいい恰好をしたくて男物の服でいいものがないか探してみたりするんだけど、上着はともかくズボンに関してはサイズの合うものがない。


 男女の体型で大きな違いというのはやはりウエストからヒップにかけてのラインなんだけど、体型が完全に女性寄りなためウエストがぶかぶかになるかヒップがきつくて入らないかどっちかの結果にしかならないのだ。


 悲しい。


 結局パンツに関しても女性服から選ぶしかなく、そうなると姉妹が決めてしまうので結局わたしが選べるのは上着程度。


 シャツやトレーナーなんかにしてもダボっとしたものを選ばない限り胸のせいで選択肢がない。


 そういうわけでショッピングに関しては無の心で人形に徹するしかないのです。




 でもいつまでも人形に徹していても退屈なので、わたしは服選びに熱中する姉妹たちを横目にスイーツ店の物色。


 さすが東京。スイーツひとつとっても目移りしてしまうほどたくさんお店がある。


 今年は空梅雨だから雨は降っていないとはいえ、時期的には梅雨に入っているから少し蒸し暑い。そう思って見渡していると美味しそうなジェラート店を発見。


 ロックオン完了。男の子だけど甘党なんです。悪いか。


 服屋から出てきた姉妹を誘ってさっそく目当てのジェラート店に突撃。他のみんなはシングルにしてたけど、わたしは当然のごとく3段盛り。


 悩みに悩んだ結果ノッチューラ、カルメッロ、ピスタチオの3つに決定。


「さすが男の子、よく食べる」


「当然!次のスイーツも探しておくからね!」


「ゆきと買い物に来るとスイーツ巡りに付き合うのが大変なんだよな」


 着せ替え人形になるのも十分大変だよ?


 好きなのももちろんあるけど、服を選んでもらってる間は身動きできないから美味しそうなスイーツを探すくらいしかやることないんだよ。


「あとはケーキも食べたいし、パフェも食べたいかな」


「今から胸やけしそうですわね」


「それじゃ、ひとりで行ってきていい?」


「ダメに決まってんだろ。選んだ服を誰が着るってんだ」


 いや、そこは自分の服を選ぼうよ。わたしを最優先してくれるのは嬉しいけどさ。


「はいはい、ちゃんと待ってるからスイーツ巡りにも当然付き合ってくれるよね」


「渋いお茶が欲しいな」


「次の喫茶店にあるから注文すればいいよ」


「もう次決まってんのかよ」


 より姉とあか姉は甘党というわけではないので、コーヒーやお茶を欲しがる。当然そういうのも置いてある喫茶店を間に挟む考慮をしてスイーツ巡りをしてるけどね。


 かの姉とひよりは小食ながらもがっつり甘党なので最後までわたしと一緒にスイーツ三昧を楽しんでくれる。


 5人姉弟とはいえ好みはそれぞれなんだけど決して単独行動をしないあたりが我が家らしい。温かい家族だ。


 わたしを着せ替え人形にしまくって満足したのか、最後に食べたかったパフェを食べた後そろそろ帰ろうかという話になった。


 まだ夕方だったので「早くない?」って聞いたら、もう外食は飽きたのでゆきの作ったご飯が食べたいって。わたしの料理を恋しがってくれるのは嬉しいけど、いくらなんでも早すぎない?


 でも全員一致でわたしの手料理が食べたいと言われたら当然悪い気がするはずもない。お父さんとお母さんまで口を揃えてるし。


「しょーがないな」と言いながらも顔が緩んでしまう。


「何が食べたい?なんでもリクエストに応えちゃうよ~」


 表情を引き締めながらもそんなことを言ってみんなを甘やかす。


 すると全員一致で帰ってきたのが「カレー」


 わたしのカレーはゆき特製スパイスを調合するのでそんじょそこらのカレーより美味しいという自負もあるし、みんな大好きなんだけどそんなに手間がかからない。それに翌日は味がなじんで2度美味しく食べられる。


 つまり明日はゆっくりしろということで。


 直接は何も言わないけど、みんなの労りの気持ちが十分に伝わってくる。ほんとにもう、この人たちは。


 好きでやっていることなんだからそんなことで気を遣わなくていいのに。でもそんな無言の優しさが嬉しくて照れくさくてみんなの顔をまともに見ることができない。


「あれ~?なんだかゆきちゃん顔が赤くない?」


 ひよりが冷やかすように顔を覗き込んでくるのでさらにそっぽを向く。


「さっきのお店が暑かったからのぼせてるだけ!」


「あれだけデカいパフェ食ってたのに何言ってんだ」


 ニヤニヤしながらより姉。わかってるくせに掘り下げてくんな。


「食材が人参だけ足りないから買い足してさっさと帰るよ!ちゃんと煮込んだ方が美味しいからね!」


 そう言って先頭に立って歩きだすけど、後ろではみんながくすくす笑ってる気配。


 くそーなんか悔しい。でも嬉しい。


 そんな複雑な思いを抱きながら帰路を急ぐわたしの足取りは昨日の疲れなどないかのように軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ