はじめての連携作戦
先ほど俺のホーミング魔法弾を打ち落とした光の剣も加わり、フレイの召喚したブレイズソードはすでに合計で百本近くに達していた。それらは俺たちを全方位から包囲しながら迫ってくる。このままでは、埋め尽くされる剣で俺のオート防御の回避先さえ、なくなってしまうかもしれない。
「……ちとまずいな。皆、一度集まるのじゃ」
エルマが短く告げた。その言葉を合図に、リリィも近くに寄り、三人は背中を合わせて一ヶ所に身を寄せた。百本の剣が、まるでドームのように包囲を完成させてゆく。四方八方、どの方向を見ても、そこには鋭く光る刃。
「……逃げ場もないにゃん。幾つか剣を破壊して抜け道を作るにゃんか?」
「いや、ここは一旦、離脱して立て直そう」
「うむ、その方が賢明じゃ」
俺の判断に、エルマが即座に反応した。足元に展開される魔法陣。
「空間⭐︎転移!」
空間がひずみ、次の瞬間、俺たちの姿は霧のように消えた。
――戦線、一時離脱。
光の剣が無人の大地を切り裂いた。
◇ ◇ ◇
数キロ離れた丘の陰。俺たちは一時退避し、空を見上げていた。遠くの上空に、輝く二体の天使が夜空に浮かんでいるのが見える。
「二人の天使……思ったより厄介にゃん。一人だけなら仕留められると思うにゃんけど……」
リリィが悔しそうに呟く。
確かに、攻撃のフレイ、防御のフレイア、役割が明確で、無駄のない完全な連携だ。一方、俺たちはというと、それぞれの能力は高いが、連携らしい連携はほとんど取れていない。何せ、これまで自分の力のみで生き抜いてきたような連中ばかりだからな。
「……今さらかもしれないけど、あいつらに対抗するには、こっちも連携が必要だ」
「えー、連携って協力することにゃん? 面倒にゃんよ〜」
リリィがあからさまに不満を口にする。
「まあ気持ちは分かるがそう言わずに。自分の得意なことをより活かして、さらに活躍できるってことでもあるんだ。そのために、それぞれの強みと弱みを再度確認しておきたい」
俺がそう言うと、まず口を開いたのはエルマだった。
「お主は知っておるじゃろうが、儂は大体の魔法に加えて古代魔法が使える。その中でも得意とするのは空間を操る魔法じゃ。空間転移、空間湾曲、そして空間に穴を開ける空間崩壊。儂の前では対象との距離は意味をなさん。その反面、身体能力はさほど高くはないのじゃ」
次にリリィが胸を張って誇らしげに答えた。
「私が『冥府の女王』と呼ばれている理由は、その通り、冥府の力を引き出す魔法が使えるからにゃん。冥府の炎、冷気、そして死の鎌など……いずれも精霊魔法に分類されるにゃんけど、威力は最上級クラスにゃん。それに、魔王クラスの身体能力――体力も魔力も力も速さも、全部が常人の域を遥かに超えてるにゃんよ。魔王に欠点……というようなものはないにゃんが、強いて言うなら、私の魔法は、最上級とは言え既存の魔法の型の中にあるもので、エルマやご主人様みたいに、変態的に規格外なことはできんにゃん。悔しいにゃんけど」
皆の言葉を受け、俺も自分自身について語った。
「一応言っておくと、俺の身体能力は大したことがないし、威力の高い攻撃魔法も使えない。ただし、独身開発した魔道具は、使い方によってはどんな魔法より効果的だ。それから魔法言語によるプログラミング処理。人間の反応速度を遥かに超える判断と処理を自動化できる。状況に応じて最適な魔法を即座に編み出すことだって可能だ」
リリィが首をかしげて呟いた。
「……話だけ聞くとイマイチ地味でピンと来ないにゃんけど、実際ご主人様は魔王より強いのにゃん。不思議なものにゃんね」
未来を読み、無数の剣を自在に操る攻撃特化のフレイ。そして、絶対防御を誇り、守護に徹する防御特化のフレイア。この難局に対し、三人の力でどう突破口を見出すか――俺立ちはその対策を相談した。
師匠エルマの得意とする空間魔法は、距離や位置の概念を無意味にするまさに飛び道具だ。相手の裏をかき、常識を凌駕する一手を打てるのが強みだろう。しかし、未来を見通されている今の状況では、どんな奇襲も事前に読まれてしまい、効果はどうしても薄くなってしまう。
純粋な単体攻撃力で言えば、リリィの死の鎌が頭ひとつ抜けている。俺の戦鎚ソードと比べてみたい気持ちもあるが、空を自在に舞うフレイに対して、俺が攻撃を当てるのは難しいだろう。天使への攻撃は身体能力に優れたリリィに任せるのが良さそうだ。だが、リリィが渾身の死の鎌を真正面から何度放ったとしても、おそらく意味をなさない。未来を見通されている状態ではフレイアの光壁に簡単に遮られてしまうし、それを何とか突破したとしても、フレイにあっさりかわされて終わるだろう。
ならば、俺が用意するしかない。未来を読めなくさせる魔法プログラムを。
力を合わせるって、今更ですが、大切ですよね。
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