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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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秘術セイズの猛攻

 巳人の群れが加わり、さらに緊張感が増す戦場で、俺はぽつりとつぶやいた。


「……やりづらいな。どうしてもミーアを思い出してしまう」

「情けないことを言うでない」


 隣のエルマが冷たく返す。


「そなたら申人は、同族同士でも平気で争っておるじゃろうが」


 確かにその通りで言い返す言葉も見つからなかった。

 巳人の数はざっと百。だが、彼らもまた、神の軍勢。かつてアースベルを襲撃したオルム村の巳人たち段違いの魔力の密度を感じる。


「儂の結界を削れたのはなかなかじゃが……一枚突破したところで、こちらには届かぬのじゃ」


 エルマがさらに力を込めると、今度は五重の結界が姿を現した。その強度には巳人たちもさすがに手を止めた。

 一方、上空ではリリィが瘴気を撒き散らしながら、着実に酉人の数を減らしている。


「ふふん、百が二百に増えたくらい、どうということもないにゃんよ」


 魔法と瘴気を纏ったその姿は、まさにかつての魔王そのものだった。

 しかし、そこでシレーヌが静かに告げた。


「ワタクシたちは、まだ『本気』を出していない、のでございますよ」


 それは確かにまだ余裕が感じられる口調だった。


「……ヴァナヘイムの秘術。お忘れではありませんこと? でございます」


 秘術――もしや、セイズか!?

 酉人と巳人の軍勢が、素早く分かれていく。男たちは前へ。女たちは後方へ。男たちは壁のように前線を固め、女たちはその背後に並び、声を揃えて詠唱を始めた。彼女らの旋律が、空気を震わせる。それは呪文ではなく、唱歌だった。


 微睡みの 夜の狭間で

 浮かぶ魂に 身を委ね

 歓喜の声を 歌に替へて

 心の扉を 静かに放つ


 始まりも 終わりもなく

 巡りゆけ 運命の環

 指先触れし 時のひとひら

 秘めし未来を 映し出す


 怪しげな旋律が、耳にまとわりつき、俺の精神まで揺さぶられる。これは危険だ。直ちに中断させた方がいい。だが、前衛の男たちは明らかに不退転の覚悟で攻めてくる。この壁はすぐには抜けられない。

 そして――ついにセイズが発動した。

 後方にいた女たちが、一斉に瞳を開く。皆、恍惚とした笑みを浮かべ、全身から光を放ち、魔力量が明らかに膨れ上がっていた。その姿は艶やかな妖精のようでもあった。


「……潜在能力の上限まで、強制的に引き上げておるようじゃな。おそらくヒトとしての上限を……超えておる」


 隣のエルマはこの驚くべき変貌を冷静に分析する。


「はァ……これこそが、ヴァナヘイムの選ばれし女性にのみ継承される秘術、『セイズ』でございます。ふふふふっ……この状態のワタクシたちを、果たして止められますでございましょうか?」


 そう言い放ったシレーヌの周囲には、目視でさえ見えるほどの魔力の奔流が渦巻いていた。他の酉人とは格が違うようだ。俺は一歩前に出て、静かにリリィへと声をかけた。


「リリィ、空中の酉人は任せた。こっちは飛べないからな。特にシレーヌには気をつけろ。代わりに、地上の巳人は俺とエルマで抑える」


「ふふん、言われなくてもそのつもりにゃん。あの鳥ども、全部まとめて落としてやるにゃん」


 リリィが詠唱を紡ぎ、魔力が一気に解き放たれる。無数の冷気の槍が空へと乱射され、前線の酉人の男たちは次々に凍り付き、空から落ちていった。


 だが――


 セイズを発動した後衛の女たちには、一本も当たらない。彼女たちは、ほとんど動いていないはずだった。ただ、わずかに身体を傾けるだけで、すべての攻撃をかわしている。


「ふふふっ、魂を肉体から引き離すことで、数秒先の未来まで俯瞰できるのでございます。従って、攻撃が届く前に、避ける準備ができているのでございますよ!」


 シレーヌが言い放つ。その言葉の響きは悦びに満ち溢れているようだ。


「……これは、思ったより厄介にゃんね」


 リリィが小さく舌打ちした。俺もすぐに詠唱に入る。


「ホワイル コール リトルフレイム エンド!」


 俺の得意とする小火炎(リトルフレイム)の無限連鎖だ。炎の弾丸が視界を埋め尽くす。無数の火炎が巳人の男たちに次々と命中し、吹き飛ばしていく。だがこちらも同じだ。セイズを発動している巳人の女たちは、予兆に反応するかのように、わずか一歩動くか身体を捻る最小限の動きで、すべての攻撃を回避してみせる。


 ――やはり、本当に未来が見えている。


 彼女たちは俊敏でも、特別に身体能力が高いわけでもない。ただ、先を読んで、無駄のない動きでかわしている。同時に、強化された呪詛の雨を降り注いでくる。


「くっ……!」


 隣でエルマが低く唸る。俺は彼女の額に滲む汗を初めて見た。


「儂の五重の結界を削り切るか……上限を突破した魔力を集結させ、十人がかりで魔法無効化を押し込んできておる……」


 巳人たちから繰り出される呪詛の矢には、どれひとつとして当たってはならない。一本でもかすれば、五感が奪われるか、魂を引き抜かれる危険もあるだろう。あまり想像もしたくない……


「もう守るだけはやめじゃ。数秒先の未来が見えるなら、それでも避けきれぬ攻撃で一気に叩く!」


 エルマの声が鋭く走る。


「リバティ、五秒だけ防御を頼めるか? その間に、儂が奴らの『未来』ごと討ち砕く空間魔法を構築する」


 俺は即座にうなずいた。わずか五秒。だが、それは戦場の運命を左右する。

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