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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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普遍の魂

 ――レイアはもう戻らないのか……?


 その言葉に、俺は追い込まれた。何か方法はないか、それを引き出したい一心だった。


「……なら、レーヴァテインは渡せないな」


 俺が放ったその言葉に、シレーヌの羽根が神経質に揺れた。笑みは変わらぬままだが、その奥にある空気の色が、確実に冷たく変わるのを感じた。


「……そのようにおっしゃられますと、それは――あなたの国と、たったひとつの魂を天秤にかける判断、でごさいます」


 丁寧な口調の奥に、研ぎ澄まされた刃のような鋭さが潜んでいる。


「アースベルを……」


 俺が問い返そうとしたその瞬間、シレーヌが片手をすっと掲げた。そのわずかな動きに呼応し、上空の酉人たちが一斉に翼を翻す。宙を滑るような無音の編隊変形。隊列が引き締まり、羽音が風と共鳴しながら戦場の気配を醸し出す。あれは、いつでも攻撃を開始できる実戦布陣だ。その様子を見たエルマが呟いた。


「……よく仕込まれておる。烏合の衆とはわけが違うようじゃな」

「ええ。神の軍勢として選ばれるのは、ヴァナヘイムの中でも選りすぐられた者のみ、でございます」


 シレーヌは、優雅な仕草で手を胸元に添える。


「さて……ワタクシたちの任務は明快。神器レーヴァテインとデルピュネの魂を持ち帰ること。それにご同意いただけないのであれば、強制的に任務を遂行するだけのこと、でございます」


「脅しのつもりかにゃん?」


 リリィが低く唸る。その手のひらには、すでに灼熱の魔力が集まり始めている。だが、シレーヌの表情は揺れることがない。


「いえ、これは『忠告』でございます」


 あくまで穏やかに――だが確実にこちらを突き刺してくる。


「もはや入手が困難な聖女の魂に執着し、国を危険に晒すなど――それは本当に賢明なご判断でございましょうか?」


 淡々と、優しく問いかける口ぶり。だがその言葉は、まるで重石のように胸に沈み込む。


「……やはり、もう、無理なのか……」


 思わず漏れた、かすれた声。どうでもよくなってきた――そんな感情が、心の奥から滲み出ていた。だが、その折れかけた意志を支える声が、隣からはっきりと届いた。


「ご主人様、それは――嘘にゃん」


 リリィの声だった。揺るがぬ信念を宿した口調。


「魂は永遠不滅なものにゃん。『輪廻転生』って言葉、聞いたことないにゃん? 例え何度生まれ変わっても、魂の本質はほとんど変わらないにゃんよ」


 その瞳に迷いの色など一片もない。


「魂は、思考や記憶とは完全に別物にゃん。思考や記憶は肉体に宿るものにゃん。例えば、デルピュネがレイアを操っていた魔法、あれも、魂だけを入れ替えて、デルピュネの思考はデルピュネの本体の脳で行われているにゃん。魂自体はもっと純粋で、ある意味単純なものにゃん」


 リリィの言葉が、俺の頭の中で像を結んだ。俺は思わず息を呑む。


「……ってことは、レイアの身体さえ無事なら、どうにかして魂を取り戻せば……」

「そうにゃん。その『天使』ってやつから引き離してやればいいにゃん」


 胸の奥で崩れかけていた希望が、再び強く形を取った。レイアは、まだ戻せる。

 俺はリリィを見て、深くうなずいた。リリィはそれを見ると、気まずそうな顔をしてぷいと横を向いた。俺は、もう一度、前を向く。


「……悪いな、シレーヌ。そういうことだ」


 シレーヌの顔に貼りついていた完璧な笑みが、ほんの一瞬、揺らいだ。


「……そうですか。ですが、念のため申し上げさせていただきますと、ワタクシは、先ほど『それは難しい要求』と申し上げたのでございます。なぜなら、聖女の魂を取り出すには、天使そのものを破壊せねばならぬから、でございます」


 風が止み、場が静まり返る。


「果たして、そのようなことができるものでございましょうか。天使とは、神の両腕とも言える存在。その力は到底ヒトの及ぶところではないのでございます」


 穏やかな語調の奥に、確かな圧が込められていた。だが、応じたのはエルマだった。


「ふん、天使と言っても所詮は神の道具なのじゃ。神そのものではない以上、壊せぬ理由などない」


 静かな声音とは裏腹に、彼女の足元からは張り詰めた魔力が滲み出していた。


「この魔王リリィにとって、天使の一体や二体など、焼き払って踏み越えるだけのものにゃん。さっさと灰にして、中の魂を取り出すにゃんよ」


 その隣で、リリィは猛獣のような笑みを浮かべていた。


「ご主人様、この翼の生えたヒトらを攻撃する許可が欲しいにゃん」


 俺ははっきりと頷いた。


「ああ、やむを得ないな。この場は、攻撃を許可する」


 リリィの掌に、赤く灼けた魔力が凝縮していく。脈打つように明滅する光が、灼熱の鼓動となって周囲の空気をゆがめ、乾いた地面を焦がした。瞬間、上空の酉人たちに走るざわめき。空気が張り詰め、隊列にわずかな乱れが生じる。しかし、シレーヌは一歩も引かなかった。むしろ瞳の奥に好奇の色を浮かべている。


「……まあ、本当におやりになるおつもり、でございますか。たった三人で、この神の軍勢を相手に?」


 俺はその挑戦を真正面から受けた。


「ああ、そうだ。天秤にかけたんだろ? 俺たちの国、アースベルと――お前たち全員の命を、な」

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