天職に転職、それは魔道具師
転移組の同期の仲間たちとは、あれから定期的に集まっては情報交換をしている。異世界に来てから半年が経ち、各々順調に活動を広げていた。
ハルトは早くも商会を設立し、その売り上げは右肩上がり。彼の敏腕ぶりには驚かされるばかりだ。
レイアも負けていない。聖女の加護を活かした癒しの力に、元の世界で学んだ最新の医学知識を組み合わせて、小さな病院を開業している。彼女の優れた治療と、子供のような愛嬌が評判となり、患者は途切れることなく訪れているようだ。
トオルは毎日鍛錬を欠かさず、すでに何度か魔物討伐に出向いてレベルを10まで上げたという。また、雷撃の魔法を習得し、既に勇者としての力の片鱗を見せている。
一方、俺はというと、半年間で習得した魔法は『小火炎』だけ。あとは、のんびり異世界ライフを楽しんでしまっていた。だが、これではいけないと思い直し、次に学ぶべきことは何かとオージンさんに相談してみた。オージンさんからは、自分の適性に合ったものを学んだ方がいいと言われ、ジョブチェンジを司る神殿に行くことを勧められた。これは、俺には魔法の才能がないことをやんわりと指摘された感じである。
しかし、ジョブチェンジという言葉にはワクワクさせられるものがある。自分の新しい可能性を広げるチャンスだと思うと、自然と胸が高鳴る。すぐにでも行ってみることにした。神殿に到着し、案内されるまま奥に進む。
「こんにちは⭐︎お仕事!」
神殿の窓口の人が陽気に挨拶してくれた。
「どんなジョブがお好みですか?」
戦士、魔法使い、神官……さまざまな選択肢が並ぶ。しかし、俺には魔法の才能はないし、肉体労働も苦手だ。遊び人って、夜のお仕事のことだろうか? 次々とパスしていくと、一つのジョブが目に留まった。
『魔道具師』
おお、これは異世界のエンジニアのようなものではないだろうか。
「この、魔道具師というのがよさそうです」
俺がそのジョブを指さすと、窓口の人が少し困った顔をして答えた。
「魔道具師は……この国ではあまりおすすめできません。実は、陛下の方針であまり待遇の良くないジョブなんです」
あの、偉そうで俺を明らかに冷遇している皇帝か……。だが、他にエンジニア向けのジョブは見当たらない。
「魔道具師でお願いします。ジョブチェンジって、どうやるんですか?」
「本当にいいんですか? 分かりました。魔道具師ですね。では、あなたを魔道具師として登録します」
窓口の人は名前を記入してほしいと、書類を差し出してきた。俺は名前を書く。ここでの名前、リバティだ。
「フルネームでお願いします。ミドルネームもあれば書いてください」
あ、そうですか。俺はフルネームとして
リバティ・クロキ・フリーダム
と書いた。うむ、自由へのこだわりが表現できている。
「現在の名前と異なるようですが、上書きしますか?」
窓口の人が聞いてくる。バレてるよ。
「はい、上書きしちゃってください!」
俺は迷わず答えた。
「では、魔道具師へのジョブチェンジ、行います」
おお、ジョブチェンジ!
「はじめよう⭐︎お仕事!」
窓口の人はスラスラと書類にサインした。
「これであなたは魔道具師です」
「えっ、これだけ?」
「はい、登録するだけですので。何か?」
「いえ……」
なんかもうちょっと厳かな何かとか見た目がかわったりとかを予想していたので拍子抜けだった。まあ、転職なんてそんなもんか……
目を凝らし、シカクの状態を確認すると、おお、名前と職業が望み通りに変わっている。神殿とは凄いところだ。
[名前] リバティ・クロキ・フリーダム
[レベル] 2
[クラス] ヒト
[職業] 魔道具師
[体力] 10/10
[魔力] 7/7
[魔法] 小火炎
[加護] 毒耐性
その後、窓口の人が案内してくれたのは、この国にある魔道具師協会だった。しかし、その場所は街の中心部からかなり外れ、さらに進んだ先のスラム街のような場所にあった。建物は明らかに年季が入っており、壁にはひび割れが走り、屋根もボロボロだ。なぜ、俺が訪れる場所はどこも「ボロい」のだろうか……
中に入ると、少し年配の協会員が珍しそうに俺を見て、声をかけてきた。
「この国で今時新しく魔道具師になる人もいるんだねぇ」
その言葉に、俺はやや落胆しつつも思い切って頼んでみた。
「初心者なので、魔道具師について教えてください」
すると、協会員は快く頷いて、時間を取ってくれることになった。詠唱による魔法陣は、魔力を込めて呪文を詠唱し、その言葉が古代文字として魔法陣に取り込まれることで完成する。オージンさんに教えてもらった通りだ。しかし、魔道具の場合は、物体そのものに古代文字も含めた魔法陣を直接刻み込み、その効果を顕現させるらしい。ただし、その効果は魔法を詠唱するよりかなり低くなることが一般的らしい。
「あなたは、小火炎の魔法が使えるようですね。自分が使える魔法なら、それを魔道具に刻むこともできますよ」
協会員が言ったその言葉に、すぐにやってみようと思い立ち、手元にあった石の円盤に工具を使ってコツコツと手で掘り始めた。細かい作業だが、これならできそうだ。慎重に慎重に刻んでいく。
やがて完成した。直径二十センチほどの石の円盤に、小火炎の魔法陣が綺麗に刻まれた。その魔法陣に魔力を込めると、あっという間にリトルフレイムが放たれた。呪文の詠唱は不要で、魔法がそのまま発動する。これは便利だ。
「ええっ、これ凄いですね! 細かく正確に掘られています。それだけ綺麗な魔法陣を石板に刻めれば、威力もなかなかのものになります!」
協会員が驚愕の声をあげて、目を見開いた。その反応に、思わず嬉しさが込み上げてきた。やはり俺にはこういう作業が向いている。職人気質のエンジニアは、細かく正確な作業が得意なのだ。
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