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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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魂の牢獄

 デルピュネはぐるりと周囲を見渡し、焦りの色を浮かべていた。四方は魔力と殺気で囲まれている。


「ぐぬぬ……このデルピュネちゃんが、絶体絶命です……。あんなに頑張って、せっかくレーヴァテインを手に入れたというのに……」


 ぎゅっと両手で抱え込むように剣を抱きしめている。


「悪いけど、それ、ニテロが打ったただの剣だ。レーヴァテインじゃない」

「……は?」


 俺が思わず口にした言葉に、デルピュネの時間が止まったようだった。


「な、ななな、なんなのです!? じゃあ……じゃあ、本物のレーヴァテインはどこにあるのですっ!?」


 声が裏返り、明らかに動揺している。


「焦るな。ちゃんと本物は、俺が持ってる。でもな――その前に、俺の質問にも答えてもらおう」


 俺はデルピュネを見据え、否応なく詰め寄った。


「お前が抜き取った、みんなの魂、どこにあるんだ?」


 デルピュネの額から汗が流れる。やがて、観念したようにため息をつくと、ゆっくりと懐に手を入れ、小さな宝石のようなものを取り出して見せた。それは、掌に収まるほどの丸い球体。赤、青、黄、さまざまな色が、内側から脈打つようにかすかに瞬いている。


「これなのです。わたしの、魂コレクション。綺麗でしょう? 魂って、こうやって封じておくと、長持ちするし、眺めているだけでも幸せなのです……」


 この状況においてもうっとりと頬を染めるデルピュネは、明らかに常軌を逸している。


「――ただし、聖女様の魂だけは、ここにはないのです」

「……なんだって?」


 俺の声が思わず上ずる。デルピュネは引きつった笑いを浮かべた。


「聖女の魂は、特別なのです。とても珍しいウルトラレア級のアイテムなのですよ。だから、天使の材料として、ありがたく……使わせてもらったのです」

「……使った!?」


 胸の奥が激しく波打つ。それはどうしようもないほどの焦燥だった。


「はい」


 デルピュネは悪びれもせず、満面の笑みで頷いた。使った? ポーションじゃないんだぞ。意味がわからない。理解できない。心が追いつかない。


「天使の……材料って、どういうことだ……?」

「えっとぉ、天使とは、我らが神――偉大なるニョルズ様に仕える、神の軍勢。けれど、天使を動かすには、とびきり強くて、清らかで、濁りのない魂が必要なのです。そう、聖女様みたいな」


 その神の名が口にされた瞬間、エルマの表情が変わった。


「……ニョルズ、じゃと……?」


 普段は理知的で冷静沈着なエルマの声が震えた。そこには抑えきれない動揺がにじみ出ていた。


「……それで、その天使はどこにいるんだ?」


 俺は苛立ちながら問いかける。するとデルピュネはどこか芝居がかった所作で、手の中の魂の宝石をくるくると弄びながら言った。


「もしかして、これは、復活チャンス! 交渉タイムなのです」

「交渉?」

「はいです。私が集めた魂たち、これを返してあげますです。そして、天使の居場所も教えてあげますです。その代わり――レーヴァテインを、私に渡して欲しいのです!」


 どこまでも飄々と、悪びれもせず。さすがに俺も限界だった。


「……お前、まだ自分の立場がわかってないようだな」

「あ、冷酷非道のご主人様が、マジでキレてるにゃん……」


 俺の言葉は氷のように冷たくなっていた。


「お前から情報を聞き出す方法くらい、いくらでもある。体を傷つけずに心を折る魔道具を幾つか用意してやろう。大体、この状況下にあって、まだお前は無事に帰れると思っているのか?」


 デルピュネは視線を泳がせ、ふにゃりと笑った。


「……えっとぉ、思わないですぅ」


 デルピュネは小さく肩をすくめると、次の瞬間、手にしていた剣を勢いよく引き抜いた。その瞳に宿るのは、追い詰められた者の執念。


「こうなったら、この聖女様の体を壊して、魂となって脱出するのです!」


 剣先が一閃、レイアの胸元へと鋭く突き出される。しまった、さすがに挑発が過ぎたか……その距離はあまりに近く、俺の足では間に合わない。だが――


 カッチカチ。


 目の前で、レイアの体が一瞬にして石像へと変わっていた。


「レイアお姉ちゃん、ごめんなさい。でも……こうするしか……」


 それはミーアの石化の邪眼だった。


「本物のレイアお姉ちゃんなら、聖女の加護で石化なんて効かないはず。でも、中身が偽物だったから、効いちゃったみたいです。すみません」

「ミーア、ナイス判断だ!」


 俺はミーアに向かって親指を立てた。今はこれでいい。石化していれば、体を傷つけられる心配も、空腹になる心配もない。


「リリィ、この状態、中のデルピュネの魂はどうなる?」

「体が石になったら、中の魂も閉じ込められるにゃん。つまり、魂の牢獄にゃんよ」


 それならまあいい。本物のレイアの魂を取り戻してから、あらためてこいつに落とし前をつけよう。

 そのとき、リリィがぴくりと耳を動かした。


「上空に、気配があるにゃん!」


 すぐさまリリィが外へと飛び出す。俺たちも後に続いた。もうすぐ夜明け。東の空はすでに青みを帯びていた。そして、リリィが空を指さして叫ぶ。


「あれは、鳥……いや、酉人(ゆうじん)にゃん!」


 デルピュネの仲間か。剣を集めていた運搬係だろう。遥か上空から、なにかが投げ落とされた。俺たちは身構えたが、それは重りのついた紙だった。そこには、こう記されていた。


『レーヴァテインを用意して待て。間も無く神の軍勢が受け取りに赴く』

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