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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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明け方の訪問者は真実とともに

 深夜――いや、むしろ明け方頃。空は薄ぼんやりとした光が東の空を染めはじめていた。かなりの年月を経てきたであろう古い石造りの祭壇、苔むした階段、風化したレリーフ。その場所にひとつの人影が現れる。それは、そっと足音もなく壇上へと上がり、祭壇の下に隠してある剣を取り出した。


「……来たね」


 俺はその人影に声をかけた。驚きに体がぴくりと動いたのがわかった。振り返ったその顔――レイアだった。


「こんな時間にどうしたんだ?」


 俺は姿を現して声をかける。レイアは答えた。


「リバティさんがここに隠したレーヴァテインが、盗まれていないか心配で……。だから、見に来たんです」


 あくまで自然なレイアの口調だった。その言葉に俺は一応頷いてから、問いを重ねた。


「そうか……でも、どうして俺がここに隠したって分かったんだ?」


 レイアは数回まばたきをして、笑顔のまま答える。


「どうしてって……会議のときに言ってたじゃないですか。リバティさんの『元の名前』に関係する祭壇って。それなら、ここしかないと思って」

「……ああ。確かに、そう言ったな」


 俺はゆっくりと足を進めながら、言葉を継いだ。


「たしかに、レイアは俺と一緒にこの世界に来た転移者。俺の元の名前を知っている数少ない一人……だったな」

「もう、今さらそんなこと、改まって言う必要ないでしょ?」


 レイアは軽い口調で言いながら、手にしていた剣を床に置いた。そして、笑顔のまま振り返る。

 そのときにはもう、俺の戦鎚ソードが彼女の首筋に突きつけられていた。レイアの笑顔が凍りつく。


「……で、お前は、誰なんだ?」


 俺は声を強めて問いかけた。


「リ、リバティさん……どうしちゃったんですか? その変な武器、下ろしてください」

「そうか、変か? ハンマーの中から剣が出ていて、玉でも付けたら、けん玉みたいなんだけど」

「けん玉……」

「もちろん知ってるだろ、けん玉。レイアなら、当然知ってるよな?」

「も、もちろん……知ってますよ。玉が付いてるやつ、ですよね……」

「……ふぅん」


 俺はその微妙な反応を見て笑いが込み上げてきてしまった。


「そういや、この特製武器が欲しいんだっけ?」

「い、いえ、それは……ちょっと遠慮しておきます」

「そうか、いらないのか。それは残念だな……ぷっ、はははは……」


 ついに俺は笑ってしまった。彼女は、見ただけでは分からないのだ。だからあんなに剣を集めていた。そして、その笑いを呑み込んで、もう一度彼女を鋭く見据えた。


「……遊びはここまでだ。お前がここにいるってことは、つまり……お前は、レイアではない、ということなんだ」


 静寂が落ちる。石の壁の隙間を抜ける風が、ひゅう、と低く唸った。


「何を言ってるんですか? 私がリバティさんの元の名前を知ってるからこそ、ここにいるんじゃないですか」


 なおも、シラを切る気か。ならばと俺は言い放つ。


「ここはグラーズアカデミーの旧祭壇だ」

「……知ってますよ。だって、リバティさんの元の名前は、『グラーズ』さん、ですからね」


 決定的なその言葉を待っていた。


「違う……俺の元の名前は、『グラーズ』なんかじゃない」


 その瞬間、レイアの目が、僅かに揺らいだ。本物のレイアなら知っている。俺の元の名は『由自(ゆうじ)』。つまり、本当に俺の元の名前を知っているなら、行くべき場所は『有事会館(ゆうじかいかん)』にある祭壇の方だ。

 グラーズという偽名は、意図的に俺がミーアにだけ伝えた情報だった。仲間にだけ教えても良い、という条件付きで。レイアとミーアは仲が良いので、俺の元の名前がわからなければおそらく聞き出すだろうと考えたからだ。

 俺はもう一歩、戦鎚ソードを偽レイアに近づけ、ゆっくりと問いかけた。


「もう一度聞く。お前は、誰だ?」

「……理解しました。つまり、これは私に向けられた罠だったんですね。でも……どうして私を疑ったんです?」


 偽レイアの雰囲気が少し変わった。もうレイアとして取り繕うのを諦めたようだ。


「最初から確信してたわけじゃない。ただ――ほんの些細な違和感があったんだ」


 俺は警戒を緩めず、説明を始めた。


「あのとき、盗まれた剣の数について君はこう言った。『合計8本になりますね』って。俺はその時、てっきり湯の元神社で倒れていた8人の自警団の人数からそう言ったのかと思った。でも、それだと御神体の中にあった剣の数が含まれていないことになる」


 偽レイアは苛立ったように呟いた。


「……細かいですね」

「ああ、エンジニアってのは、そういうもんだ」


 俺は苦笑しつつも、すぐに語調を戻した。


「だから、考え直した。あの『8本』というのは、これまでに同一犯が盗んだ剣の総数を意図していたんじゃないか、ってね。文脈的にもその方が自然に思えた」

「そうだとしたら、どうなるんです?」

「じゃあ、数えてみようか」


 俺は指を折りながら、盗まれた剣を列挙していく。


「まず最初のニ本は倉庫にあった剣。三本目はダノンさんの家から盗まれた古い剣。四本目はハンツが使っていた自警団の剣。五本目と六本目も、湯の元神社で倒れていた自警団の剣……ここまでは、誰でも情報を集めればたどり着ける。さて、残りの剣はどうなる?」

「もちろん、神社の御神体に入っていた剣ですね?」

「その通り。だけど、残りの本数は二本。それが御神体の中に入っていたことをどうして知っていたんだ?」

「……」


 問いかけに返事はなかった。


「確かに、温泉を発見した夫婦を祀るこの神社の御神体には、雄型の剣と雌型の剣――二振りの対の剣が収められていた。だが、その情報はサードンが俺にだけ教えてくれた話だ。他の誰にも言っていないと言っていた。それを知っているとすれば……像を壊して中を見た、犯人だけだ」


 レイアの顔から、ふっと力が抜けたように穏やかな笑みが消える。両目には冷たく濁った闇を湛えている。


「あーははははっ!」


 そして、甲高く、乾いた笑い声が石造りの祭壇に反響した。

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